海外でも注目される「小田原のイシダイ」―高評価を支える小田原市漁協のチームプレー

漁獲減のアジからイシダイに注力シフト

小田原のイシダイ

神奈川県西部の小田原市は、定置網漁が盛んな地域であり、イワシ、アジ、サバ、タイ、ホウボウ、カワハギ、カマス、イカなどさまざまな種類の魚介類が水揚げされます。

定置網から水揚げされたばかりのイシダイ

しかし、15年ほど前から小田原市を代表する魚であるアジの漁獲量が減少するようになりました。そこで小田原市漁業協同組合(小田原市漁協)では、アジに代わって漁獲量が増加傾向にある高級魚「イシダイ」の販売を強化しています。
イシダイはマダイのような甘みとコリコリとした食感が特徴であることから刺し身が絶品です。

イシダイの刺し身

ただ、これまでイシダイは主に料亭や割烹店などで食べられたことから、一般の人々にはなじみのない魚種でした。そこで小田原市漁協では、イシダイの刺し身を好んで食べる韓国への活魚出荷に力を入れました。韓国への出荷は2005年ごろから開始し、その後順調に拡大しましたが、東日本大震災に伴う原発事故の風評被害を受け、震災から3年間は輸出が制限された時期もありました。現在のイシダイ出荷は風評被害が落ち着いてきたことや品質が良いことが認められたことから、出荷量は増加傾向にあります。

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韓国でも注目される「小田原のイシダイ」

近年、日本では魚の鮮度を保つための処理方法として活締めや神経締めが注目されています。活締めや神経締めを施し、何日か寝かせたイシダイの刺し身は「うま味が生じる」と言われていますが、韓国では食感が重視されることから活魚であることが求められています。
小田原市漁協では、健康な状態で韓国に出荷するため「触る回数を可能な限り減らす」ことに注力しました。具体的には、かつてはサイズごとに細かくしていた仕分けを、大まかに仕分けすることで接触回数を減らすなどです。また、沿岸域にある海上いけすにイシダイを入れる場合は、魚体に傷がつくことを防ぐために「入れ過ぎない」ことにしています。このような取り組みの結果、韓国でも「小田原のイシダイ」が注目されるようになりました。

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定置網漁でイシダイを漁獲

小田原市漁協では、小田原漁港から船で15分ほどの距離にある米神漁場と石橋漁場に定置網を設置しています。漁の準備作業は午前1時30分ごろから始まります。
定置網漁の大まかな作業プロセスは「箱網」と呼ばれる網を引き揚げ、箱網に入っている魚を「金庫網」へと追い込みます。箱網を引き揚げる作業は「箱網を締める」とも言われます。

金庫網を引き揚げる作業

そして、金庫網の魚を船の魚槽や船上に配置した大型のコンテナ(ダンベ)に移し替えます。この作業によってさまざまな種類の魚を漁獲することができますが、箱網を締める際に、ホウボウやタイなど活魚として出荷する魚が見つかると、傷つけないようにタモですくってダンベに入れます。

漁獲した魚を魚漕に入れる作業

一方、金庫網の魚を船の魚槽に移し替える作業は、船に設置されたクレーンを使います。2隻の船が間を狭めながら金庫網を引き揚げると多くの魚が姿をあらわします。その金庫網の中に漁獲用の網をクレーンで降ろし、魚を獲ります。船の魚槽の入り口には鉄のカゴが設置され、イワシより大きな魚はカゴの上に残ります。このカゴの上に残ったさまざまな魚のなかにイシダイがいます。イシダイは傷が付かないようにダンベの中に入れます。

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同僚を思いやる心遣いが作業をスムーズに

定置網漁に携わる職員の平均年齢は30代後半と若い人々が多い職場です。この理由の1つは、小田原市漁協組合長の髙橋征人さんが20年ほど前に職員の給与体系を歩合給制から、固定給と賞与を支給する制度へと変更したからです。そのため、職員の生活が安定するようになり、「ムダなく、しっかり業務を行う」という意識も高まりました。

左から販売部長の大浦航平さん、小田原市漁協組合長の高橋征人さん

副漁労長の込山豊志さんは作業が安全、かつ、スムーズに進むように目を配ります。作業は未明から早朝にかけて行うため、少しの気のゆるみが事故につながる可能性もあります。そのため、込山さんは日頃から職員とコミュニケーションを密にするとともに、日々刻々と変わる現場では「決してムリをしない」ことにしています。

副漁労長の込山豊志さん

定置網漁は現在、ほとんどが機械化されており、省力化が図られています。しかし同じ業務を長時間継続すると職員の体に負担がかかることがあるため、作業を交代しながら進めています。このような職場の同僚を思いやる心遣いも作業をスムーズに進める上では欠かせません。

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高評価の背景にあるのは「小田原市漁協の組織文化」

水揚げされたイシダイは、小田原市公設水産地方卸売市場を通じ、競り落とされたり、海上いけすや陸上いけすで一時的に蓄養したりします。「イシダイは高級品」というイメージがありますが、最近では、「多くの人々にも味わってほしい」という思いから、仲買業者と連携し、スーパーでも積極的に販売するようにしています。

海上いけすから引き揚げられるイシダイ

一方、蓄養する理由は、安定的にイシダイを活魚として供給するためです。サイズが700g未満のイシダイは海上釣り堀用に出荷されるのに対し、700g以上のサイズは韓国向けに出荷されます。

ただ韓国に出荷するイシダイは少しのキズがあっても出荷しないなど厳しい基準を設定しています。海上いけすから活魚車への積み込み作業も小田原市漁協の定置部職員が行いますが、この時も定置部職員が同じ業務を長時間行うのではなく、同僚職員の体の負担を軽減するため、作業を交代しながら行っています。

以上、小田原のイシダイの漁獲から出荷までのプロセスをまとめてみました。
小田原のイシダイは現在、韓国で高い評価を得ていますが、その背景には「多くの職員のチームプレー」と「職員一人ひとりが同僚を思いやる」という小田原市漁協の組織文化が支えているといっても過言ではありません。高い品質の食材を生産し続けるには、高いマネジメント力と同僚への気遣いが欠かせないことがわかります。

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    株式会社農林中金総合研究所調査第二部主任研究員。   専門は地域金融機関の経営戦略の研究ですが、国産食材を生産し続ける人々と、その人々を懸命に支え続ける組織の取材も行っています。 四季折々の「旬のもの」「地のもの」を頂くということは、私たちの健康を維持するだけでなく、地域経済や伝統文化を守り続けることでもあります。   現在、輸入食材はかつてないほど増加していますが、地球温暖化や自然災害が世界的な脅威となる中、農水産物の輸入がある日突然、途絶える可能性も否定できません。 豊かな日本の国土や自然を今一度見つめ直し、今一度、農水産物の生産者や生産を支える組織の人々の声に耳を傾けたいと思います。   ▶農林中金総合研究所研究員紹介ページ 著書:『地域金融機関のCSR戦略』(2011年、新評論)

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