低利用魚や未利用部位を商品化する「エコフィッシュ宮崎」の取り組み

低利用魚や未利用部位を活用した「エコフィッシュ宮崎」のスタート

「エコフィッシュ宮崎」のロゴマーク

宮崎県の漁業はカツオの一本釣り、マグロの延縄、定置網などが中心です。ただ最近は海水温の上昇などの影響を受け、これまでよりも漁獲時期や旬の時期がズレているそうです。このことは魚価の低下や、漁業関係者の収入減少の要因となり、魚価の向上は重要な課題でした。また海洋環境の変化が進行するなか、限られた水産資源をいかに有効活用し、漁業を継続していくのかという切実な問題も生じています。

そこで宮崎県漁業協同組合連合会(JF宮崎漁連)は2024年1月、水揚げされる水産資源をムダにせず、付加価値の向上をめざす取り組みとして、県内で水揚げされる低利用魚や未利用部位を活用したPB商品「エコフィッシュ宮崎」を販売するオンラインショップを立ち上げました。エコフィッシュ宮崎では現在、「あごだし宮崎魚うどんA・GO(ア・ゴー)」(宮崎魚(ぎょ)うどん)、「#まぐろビンタBOX宮崎獲れ」(まぐろビンタ)、「#カマトロリシャス宮崎のマグロ」(カマトロ)の3品をオンラインショップで発売しています。ここでは各商品の開発経緯などをまとめてみます。

低利用魚であったトビウオを活用した「宮崎魚うどん」の商品化

水揚げされたばかりのトビウオ(写真提供:JF宮崎漁連)

宮崎県内の定置網ではトビウオが漁獲されます。トビウオはサイズによって販売先や価格が異なります。具体的には、大型のトビウオは鮮魚として流通しますが、小型はあご出汁用などに加工します。しかし中型のトビウオの多くは練り物用であり、浜値は大型や小型よりも低くなります。このため、漁業関係者はJF宮崎漁連に「何か良い方法はないか」と相談していました。このような経緯もあり、JF宮崎漁連では20~30代の若手職員が中心となって「魚(ぎょ)うどん」の商品開発に着手しました。

ここでいう魚うどんとは、宮崎県南部の日南市の郷土料理のことであり、米や麦が不足していた戦中、戦後にかけてつくられた魚のすり身の麺のことです。ただ、宮崎県内でも県北の人々には知られていないことから、今では「知る人ぞ知る」郷土料理となっています。

商品化に当たっては、JF宮崎漁連の担当者が、水産加工業者の協力を得、「手軽に食べることができるように」との考えからレトルト加工とすることにしました。通常の魚うどんは魚のすり身に「つなぎ」を入れますが、JF宮崎漁連が商品化した「宮崎魚うどん」は、つなぎを使わない「グルテンフリー」とし、汁もあご出汁とすることにこだわりました。

一方、販売面では、担当者が県全域の道の駅などを訪れ、営業しました。魚うどんになじみのない地域では否定的な意見も聞かれたそうですが、「観光地にはインパクトのあるものが欲しい」「宮崎県の認知度を高められるのであれば、宮崎魚うどんを広めたい」という好意的な意見も多かったそうです。このような訪問営業に加え、インスタグラムなどのSNSも活用しました。するとほどなく、NHK福岡放送局から取材を受け、宮崎魚うどんが取り上げられました。放送後は、50~60代の健康意識の高いシニア層からの問い合わせがあるなど、「郷土料理」「たんぱく質が豊富」「魚からつくられた麺」というインパクトや意外性があったからか、注目されました。なお、宮崎魚うどんは、海水温の上昇によって原材料の安定供給が難しくなったこと、資材価格の高騰などから現在の在庫がなくなり次第、販売を終了する予定です。

宮崎魚うどんの製造(写真提供:JF宮崎漁連)

キハダマグロの低利用部位「まぐろビンタ」「カマトロ」の商品化

「#まぐろビンタBOX宮崎獲れ」(写真提供:JF宮崎漁連)

宮崎県では、頭のことを「ビンタ」といいます。県内の水産加工業者はキハダマグロを加工する際、値段がつかず、処理に手間がかかるビンタやカマといった部位は廃棄していました。そのようななか、コロナ禍でキャンプに熱中するようになったJF宮崎漁連のある職員が、「キャンプ飯としてビンタやカマをバーベキューの食材にしてはどうか」と提案しました。水産加工業者にその話を持ちかけてみると「ぜひやってみよう」ということとなり、商品化がスタートしました。

ビンタをバーベキュー用に加工するためには、蒸すのに1時間から1時間半、頭部の左右両面を焼くには半時間ほどかかるなど、手間がかかります。しかし手間を惜しまずに加工するからか、担当者が完成したまぐろビンタを試食すると「こんなおいしいものが捨てられていたんだ」と驚いたそうです。またキハダマグロのカマは本マグロのカマと比べ、脂の乗りが少ないと言われていますが、バーベキュー用にすると味もよく、ビンタと同様、「廃棄されてきたのがもったいない」と感じたそうです。現在、まぐろビンタとトロカマはECサイトから注文を受けると、水産加工業者から冷凍で直送されるため、購入者は「解凍して、温め直す」というイメージで食べることができます。またバーベキュー用に複数人で食べることを想定していることからあえて味付けはせず、各自が好みのタレやソースを使うようにしています。

「#カマトロリシャス宮崎のマグロ」(写真提供:JF宮崎漁連)

「頑張ってくれてありがとう」という言葉が職員のやる気を高める

以上、エコフィッシュ宮崎の3つの商品の開発経緯などをまとめてみました。

エコフィッシュ宮崎を担当する若手職員は、他の業務も兼務する多忙な中での活動でした。また、低利用魚・低利用部位を商品化する取り組みは通常の業務と異なり、当初は「誰のためになるのかが明確ではない」と考えていたそうです。しかし、商品開発や訪問営業などを進めていくなかで、漁業者や水産加工業者、さらには道の駅の人々から「頑張ってくれてありがとう」「少しずつ頑張ろう」と感謝や励ましの言葉をかけられるようになりました。担当者の磯田一成さんは「多くの人たちがこんなに期待してくれている」と気づいたそうです。また、同じく担当者の岩下大悟さんは、低利用魚であった中型サイズのトビウオの魚価も上昇するようになり、手ごたえを感じているそうです。

低利用魚・低利用部位の活用は、視点を少し変えることで地域の郷土料理がアピールできたり、新たなレジャーや食の楽しみを提供したりするきっかけになるかもしれません。こうしたなか、エコフィッシュ宮崎の担当者は今後も、漁業関係者の「頑張ってくれてありがとう」という言葉を支えに、販売を強化していきたいと話しています。

  • 古江晋也(ふるえ しんや)

    株式会社農林中金総合研究所調査第二部主任研究員。   専門は地域金融機関の経営戦略の研究ですが、国産食材を生産し続ける人々と、その人々を懸命に支え続ける組織の取材も行っています。 四季折々の「旬のもの」「地のもの」を頂くということは、私たちの健康を維持するだけでなく、地域経済や伝統文化を守り続けることでもあります。   現在、輸入食材はかつてないほど増加していますが、地球温暖化や自然災害が世界的な脅威となる中、農水産物の輸入がある日突然、途絶える可能性も否定できません。 豊かな日本の国土や自然を今一度見つめ直し、今一度、農水産物の生産者や生産を支える組織の人々の声に耳を傾けたいと思います。   ▶農林中金総合研究所研究員紹介ページ 著書:『地域金融機関のCSR戦略』(2011年、新評論)

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