水産業の新戦略 仲間と一緒にトロロコンブを継承~JF昆布森青年部~ 2026.1.22 田口 さつき(たぐち さつき) 印刷する 将来のため、トロロコンブ養殖に挑戦北海道釧路郡釧路町の豊かなコンブが育つ海に恵まれた昆布森漁業協同組合(以下、JF昆布森)は、サケ定置網漁業、コンブ漁、ウニ漁、カキ養殖が盛んで、ほとんどの組合員がコンブ漁を営んでいます。しかし、高水温などの影響のためか、コンブ類の漁獲量は年々減少し、繁茂するコンブ類の種類も変化してきています。 なかでも、トロロコンブは地元で親しまれていたコンブで、年々、漁獲量が減っていたことからJF昆布森青年部(部員30人)が2012年から養殖に挑戦しました。変わりゆく海に対し、「漁業に就業してから漁模様が悪いことが続いている」というように漁業者の不安も募っています。そのような不安を乗り越えるため、部員は養殖技術を確立し、将来の漁業の芽を育てようとしています。以下では、JF昆布森青年部によるトロロコンブ養殖についての研究をみていきましょう。 地元で親しまれるトロロコンブ(写真提供:JF昆布森)種付けと収穫は全員参加JF昆布森青年部の主な活動は、1)トロロコンブ養殖の研究、2)地元の魚介類の販売促進、3)地元の浜の清掃の3つです。 トロロコンブ養殖の研究は、このままでは天然のトロロコンブが絶滅してしまうのではないかという危機感から始まりました。現在、青年部のなかにトロロコンブ班があり、2人の担当者がいます。また、青年部の研究なのでトロロコンブの種付けと収穫のときは、全員が参加しています。 それでは、種付けから収穫まで2年かかる、トロロコンブ生産の流れをみていきましょう。毎年、11月初旬にトロロコンブの胞子を海水に入れ、そのなかにロープをつけます。この過程はどぶ漬けといわれています。なお、このロープは長さ100m、直径24mmのしっかりしたものを使います。直径が大きいことで、トロロコンブの付着部がしっかり固定されます。このような資材の用意などは青年部事務局がしています。 胞子がロープについたのを確認した後、水深50cmほどの浅い場所に、ロープに浮きと錘をつけ、水面に対し、平行にロープを張ります。トロロコンブ自体が静穏域でないと育たない繊細な海藻なので、青年部は漁港内の岸壁にロープを張っています。 胞子がついたロープの設置方法を説明するJF昆布森青年部長の成田大佐(なりただいすけ)さん漁港内のトロロコンブ養殖施設 (写真提供:JF昆布森)仕事の合間を縫ってトロロコンブ養殖作業その後、冬の間から翌年の5月まで、トロロコンブの成長や海の状況に合わせてロープを水深50cmの状況を保つために浮きを増やす調整をします。そして5月頃にトロロコンブの成育状況を確認します。 トロロコンブが長く伸びるころ、光を十分に当てるため、ロープについているオニコンブやスジメコンブといった海藻の間引きを年に数回行います。このとき、トロロコンブの一部も間引きします。この作業は7~8月の暑いときに、青年部の部員が汗をかきながら船上で行っています。 この時期は、部員たちにとってコンブ漁と原藻の乾燥作業を行う繁忙期でもあります。コンブ漁は午前5時から開始となり、長くても3時間ほど漁を行い、その後、乾燥作業に入ります。そのため、部員は一連の作業を終えた16時から、トロロコンブの間引き作業に参加します。また、成長を調べるため定期的にロープごとトロロコンブの重さも測って記録しています。 9~10月は、トロロコンブの経過観察の時期となり、重量を測る成長調査は継続します。そして、翌年の6~8月にいよいよトロロコンブが収穫されます。 定期的にトロロコンブの成長状況を観測(JF昆布森)収穫されたトロロコンブ(写真提供:JF昆布森)トロロコンブの収穫と種苗の準備全員参加でトロロコンブを収穫したのち、加工が行われます。まず、収穫したトロロコンブを湯のなかにいれて湯がきます。このとき、トロロコンブが緑色に変化します。それを冷水で冷やして刻み、1パックあたり、120g詰めて冷凍保存します。このパックを地元の道の駅や飲食店に出荷します。また、一部は乾燥させて乾燥とろろとして販売します。 ところで収穫時には次世代のトロロコンブの準備というもう1つの重要な作業があります。トロロコンブの種苗は、当初は沿岸の株の胞子から得ていましたが、現在は養殖した株の胞子を使っています。11月から4か月の間に母藻を100株用意します。そして、胞子をとりやすいように陰干しします。この過程を庵蒸(あんじょう)といいます。その後、一晩寝かして海水に母藻をつけ、胞子を出させ、どぶ漬けが行われます。 トロロコンブ養殖技術は、釧路地区水産指導所の支援や助言を受けています。毎年、胞子の数を同指導所に調べてもらい、事務局が記録しています。 パック詰めになったトロロコンブ(写真提供:JF昆布森)乾燥とろろを製造するため干場にトロロコンブを移動(写真提供:JF昆布森)皆で育てたトロロコンブトロロコンブの養殖技術は地元の漁業の存続に向けた取り組みでもありますが、その研究を続けるためには労力も必要です。収穫と種付けを除く作業は、役員、部員が5~6人参加して行っています。一回の作業は2時間くらいです。前述したように自分の仕事の繁忙期と重なるため、できる人が参加するという姿勢ですが、部員が協力しあい、トロロコンブの育成に必要な作業は途切れることなく行われています。 青年部長の成田大佐さんは、「部員が優秀で、事務局も自分を助けてくれる」と、感謝しています。また、部員でない人も活動に参加して助けてくれるそうです。トロロコンブの養殖研究は部員間の仲間意識を育んでいます。 左からJF昆布森青年部の成田部長、職員で青年部事務局を担当する竹花良太さん現在、海洋環境が変化するなか、トロロコンブのような地元の味が継続するのは、このような粘り強く、参加者が互いに支えあう青年部の活動が背景にあることをJF昆布森青年部は私たちに教えてくれています。 漁協(JF)漁師北海道青年部田口 さつき(たぐち さつき)農林中金総合研究所主任研究員。専門分野は農林水産業・食料・環境。 日本全国の浜を訪れるたびに、魚種の多さや漁法の多様さに驚きます。漁村には、お料理、お祭り、昔話など、沢山の文化があります。日本のなかには一つも同じ漁村はなく、魅力にあふれています。また、漁業者は、日々、天体、潮、海の生き物を見ているので、とても深い自然観を持っています。漁業者とお話をしていると、いつも新たな発見があります。 Sakanadiaでは、そんな漁業者の「丁寧な仕事をすることで、鮮度の高い魚介類を消費者の食卓に届けよう」という努力や思いをお伝えできればと、思っています。 ▶農林中金総合研究所研究員紹介ページこのライターの記事をもっと読む
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