さまざまな困難を乗り越えてきたJFたろうの「真崎わかめ」

濃い緑色と肉厚な食感が特徴の「真崎わかめ」

養殖施設で成長する真崎わかめ(写真提供:JFたろう)

岩手県宮古市に本所を置く田老町漁業協同組合(JFたろう)は、ワカメやコンブの養殖が盛んです。
その中でも、地元の真崎(まさき)海岸に由来する「真崎わかめ」は、濃い緑色と肉厚な食感が特徴で、みそ汁などに入れると豊かな風味を楽しむことができることから、地域の人たちに親しまれています。
真崎わかめの生産は、2011年に発生した東日本大震災により一時壊滅的な被害を受けましたが、JFたろうは復旧・復興に取り組み、真崎わかめブランドを今日まで維持してきました。2021年には、日本発の水産エコラベル認証制度である「マリン・エコラベル・ジャパン(MEL)」の認証をワカメ養殖と塩蔵ワカメ製造の両分野で取得し、2025年には、JFたろうといわて生活協同組合が産直提携50周年を記念して、真崎わかめの茎を活用した新商品「おつまみ茎わかめ」を発売しました。このように、同JFは消費者に向けた積極的な情報発信にも取り組んでいます。
ここでは、JFたろうにおける真崎わかめの生産と加工の取り組みについて紹介します。

真崎わかめの茎を活用した新商品「おつまみ茎わかめ」(写真提供:JFたろう)

真崎わかめブランドが確立されるまで

JFたろうの沖合は岩手県の中央に位置し、栄養豊富な親潮が流れる海域です。漁場は外洋に面しており、早い潮流と荒波により高品質な海藻が育つことから、ワカメやコンブの養殖が盛んです。1951年には、漁協が自営する加工場でとろろ昆布の加工が行われ、1960年代後半から70年代前半にかけて岩手県内でワカメ養殖が本格化し、JFたろうでも干しワカメの生産が行われるようになりました。その後、干しワカメに比べワカメの香りや食感など感じることができる塩蔵ワカメの加工技術が開発され、同JFでは設備投資を進めて塩蔵ワカメの生産に力を入れるようになりました。そして、1975年に「真崎わかめ」の商品名で塩蔵ワカメの販売を開始しました。
当時の田老町(現在:宮古市田老)のワカメは、品質はいいものの、知名度が低い「知る人ぞ知る商品」だったそうですが、漁協職員が店頭に立って直接販売するなど販路開拓に奔走したことにより、いわて生活協同組合でも取り扱われるようになり、現在まで半世紀にわたり産直提携が続いています。
2011年の東日本大震災により、多くの漁業者が廃業するなど厳しい状況に直面しましたが、かつて漁港に設置されていた加工場を国庫補助で防潮堤内に再建したほか、2012年に販売再開するために船外機や養殖ロープの確保に取り組むなど、関係機関からさまざまな支援を受けながら施設整備を進めました。その結果、養殖ワカメについては2026年現在、55戸の漁家が年間約1,200tを水揚げしています。

収穫期を迎えた真崎わかめ(写真提供:JFたろう)

養殖ワカメの生産プロセス

養殖ワカメの生産は、1年間で「採苗」「巻き込み」「本養生」「間引き」「収穫」といった工程をたどります。
ワカメを養殖するための種苗は、購入してくるのがスタンダードですが、品質にこだわって地先の種しか使わないJFたろうの場合は、養殖漁業者全員が自分で採苗して、種苗を生産します。水温が17度を超える7月下旬から8月上旬頃になると、漁業者は田老地区の地先の磯場でメカブを採取します。採取したメカブは一晩陰干しした後、翌日に海水を入れたタンクに投入すると、「遊走子」と呼ばれる胞子を放出します。放出されているかどうかは、JFたろうの職員が顕微鏡を用いて確認します。
海水中に遊走子が放出されたことが確認されると、シュロで作った細いロープを海水に浸し、遊走子を付着させます。この作業を「採苗」といい、遊走子が付着したシュロ糸のロープは沖合の養殖施設へ運ばれます。
養殖施設が設置されている海域の水深は浅い所で約25m、深い所では50mほどあり、コンクリート製のブロックで固定され、浮き球を用いてロープを海面付近に浮かせるように設置します。
採苗から2か月ほどが経過した9月頃には、遊走子は配偶体へと成長し、その後、水温が20度以下になると受精します。さらに、10月頃には芽胞体(がほうたい)となり、その後、肉眼で確認できる幼葉になります。
11月頃からは、シュロ糸に付いたワカメ種苗を養殖用の太いロープに巻き付ける作業が行われ「本養生」の段階に入ります。1月末から2月頃には、適正な養殖密度を確保するために間引きを行います。間引きしたワカメは、「寒採りわかめ春いちばん」の商品名で、生ワカメの状態で販売されます。
養殖期間中は、時化になると養殖施設への被害を防ぐため、漁業者は浮き球の大きさや設置する感覚を調整して通常よりもロープを深く沈めて波でワカメが脱落することを防いだり、アンカーロープの長さを調整して耐波性を高める作業を行います。
例年2月~3月は、南岸低気圧が太平洋沿岸を北上する時期に当たり、時に10mを超える巨大な波が押し寄せることがあります。どんなに対策してもそのような巨大な波来ると養殖施設そのものが大破するなどの被害が生じることから、春先は特に天候の変化に注意を払います。そして、3月から4月にかけて収穫期を迎えます。

ワカメの葉と茎を分ける芯取り作業(写真提供:JFたろう)

3月から4月に繁忙期を迎える加工場

水揚げされたワカメはJFたろうが全量を買い取り、加工場に運ばれます。塩蔵ワカメの加工は、生ワカメをボイル釜で茹でることから始まります。ワカメは茹でると重量が約40%まで減少するそうです。
茹で上がったワカメは冷却した後、塩をまぶします。ワカメ全体に塩が行き渡るように撹拌した後、重しを乗せて一昼夜かけて脱水します。塩蔵ワカメの中には、ワカメ価格の上昇などを背景に、塩分含有率を高めて販売している商品もありますが、製品の真崎わかめは塩分含有率を30%以下に抑えています。
その後、12㎏ごとにケースへ詰めて冷蔵庫で保管しますが、収穫期には、1日当たり約90tを処理することもあります。釜ゆでから冷蔵保管までの工程は、3月初旬から4月中旬まで続きます。
冷蔵庫で保管されたワカメは、葉と茎を分ける「芯取り」の工程からはじまり各部位に選別し出荷されます。出荷形態は、大きく袋詰め出荷と原料出荷に分けられます。袋詰め商品は生協などの店頭に並びます。一方、原料として出荷されたワカメは、戻し若布・乾燥ワカメなどの原材料として利用されます。芯取りから出荷までの工程は通年で行われますが、ワカメの収穫時期は3月から4月に限られているため、この時期の水揚げ量が年間の出荷量を左右します。

茹で上がったワカメを冷却する様子(写真提供:いわて生活協同組合)
JFたろう加工場長の大澤茂和さん

「自然環境との戦い」であるワカメ養殖

日本人にとってワカメは、日々の食卓にのぼる身近な食材であり、食物繊維やミネラルを豊富に含む健康食材としても知られています。その一方で、ワカメがどのように養殖され、どのような工程を経て加工されているのかについては、あまり知られていません。
JFたろう加工場長の大澤茂和さんは、「ワカメ養殖は毎年環境との戦いです」と話します。ワカメの生育は、春先の低気圧や水温などの影響を大きく受けます。近年は、気象予報の精度が向上したことで、「何日後に時化になるか」を事前に把握できるようになり、漁業者はロープを海中に沈めるなどの対策を講じやすくなりました。しかし、それでもロープの切断や浮き球との接触による損傷などの被害が発生することがあります。
また、ワカメの品質は年によって異なります。これは、時化などの海況だけでなく、生育段階における栄養塩の状況などにも左右されるためです。そのため、JFたろうでは職員と漁業者が協力し、栄養塩調査や水温調査を実施するなど、安定した品質と供給の確保に努めています。
私たちにとってワカメは身近な食材ですが、その背景には自然環境の影響を受けながらも、養殖事業に取り組む多くの漁業者や漁協職員の不断の努力があります。真崎わかめが安定的に食卓へ届けられているのは、こうした人々の取り組みに支えられているからにほかなりません。

  • 古江晋也(ふるえ しんや)

    株式会社農林中金総合研究所調査第二部主任研究員。   専門は地域金融機関の経営戦略の研究ですが、国産食材を生産し続ける人々と、その人々を懸命に支え続ける組織の取材も行っています。 四季折々の「旬のもの」「地のもの」を頂くということは、私たちの健康を維持するだけでなく、地域経済や伝統文化を守り続けることでもあります。   現在、輸入食材はかつてないほど増加していますが、地球温暖化や自然災害が世界的な脅威となる中、農水産物の輸入がある日突然、途絶える可能性も否定できません。 豊かな日本の国土や自然を今一度見つめ直し、今一度、農水産物の生産者や生産を支える組織の人々の声に耳を傾けたいと思います。   ▶農林中金総合研究所研究員紹介ページ 著書:『地域金融機関のCSR戦略』(2011年、新評論)

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