シンポジウム「里海・里川保全の成果と展望」レポート

JF全漁連・全国内水面漁連・海づくり推進協が、2月22日に東京・千代田区の一橋講堂で、シンポジウム「里海・里川保全の成果と展望」を開催しました。
シンポジウムでは、東京大学八木信行教授による基調講演「里海里川保全への期待」のほか、各地で「水産多面的機能」を発揮するために海・川の環境保全や海難救助、環境教育などに取り組む活動組織が報告しました。

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水産業の多面的機能とは?

水産業と漁村には、皆さまに新鮮で安全な水産物を安定的に供給する役割の他、藻場や干潟等の沿岸環境、河川環境の保全、監視活動や海難救助活動、環境教育の場の提供など多面的な役割があります。この役割を「水産業の多面的機能」と言います。
この機能を発揮するために漁業者をはじめNPOや市民を含む全国約750のグループが、国と地方公共団体の支援のもと「水産多面的機能発揮対策」を活用し活動を行っています。
今回のシンポジウムは、2016年から2020年まで実施した「第2期 水産多面的機能発揮対策」を振り返り、今後の活動の推進につなげるものとして実施しました。
「水産多面的機能発揮対策」とは、JF全漁連が活動グループを技術的・事務的にサポートする事業です。

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基調講演「里海・里川保全の成果と展望」―自然と人間の関わり方—

講演する東京大学の八木信行教授

基調講演で東京大学の八木信行教授は、人間と自然が調和して共存している関係を指す「里山・里海・里川」の考え方や展望を講演しました。
八木教授は、これまで実際に訪れた世界各国の水産業の現場での実体験や世界の経済・社会学者の提言などを紹介し、「世界には多様な自然と人間のかかわり方」があることに言及。その上で、「自然と人間が共生する日本の伝統は世界的に評価されるだろう」と述べ、日本独自の活動として里海里川の保全に取り組む活動組織への期待を寄せました。

活動組織の報告―海・川・湖を守る

活動組織による発表のようす(写真は「伊江島海の会」の八前隆一代表)

活動報告では、6つの活動組織がそれぞれ登壇(一部オンライン)し、日ごろ行っている海・川・湖の保全活動や水域監視、環境教育などについて成果を報告しました。

(1)「九頭竜川勝山あゆを守り育てる」  勝山九頭竜川環境ネットワーク(福井県勝山市)

活動のようす(写真:発表資料)

河川環境の悪化や子どもの川離れを受けて、河川清掃や体験学習を行っています。
水産多面的機能対策を活用する前からの長年にわたる活動であることに加え、漁業者と漁協だけでなく小学校や子供会、大学、市役所などの連携体制をとっています。

(2)「かつて魚島だった赤野井湾をめざして」取り戻そう再生赤野井湾(滋賀県守山市)

活動のようす(写真:発表資料)

アオコの発生や外来魚、水草繁茂により漁獲量が落ち込んだことから、外来植物対策や湖底ごみ対策を行ってきました。「環境フォーラム」をきっかけに関係人口も増加。少しずつ自然が回復し、真珠養殖が再開したり、赤野井湾産「ふなずし」が再開したりと成果が出始めています。

(3)「漁師による水域監視及び事故防止体制の構築に向けた取り組み」 松前町水域監視活動組織(北海道松前町)

活動のようす(写真:発表資料)

2017年に起こった松前小島外国船不法侵入・漁業被害をきっかけに、水域の監視活動と情報集約を開始しました。漁業用無線を活用した連絡体制を整え、2018年度から2021年12月まで通算5,000回以上の活動を行った結果、不審船の発見・通報、海上火災・油濁の発見、遊漁者の救助などの実績に結び付きました。

(4)「相島の漁場を守るための取り組み」  相島地区藻場保全活動協議会(福岡県新宮町)

ウニ駆除のようす(写真:発表資料)

環境変化や植食性魚類により藻場が減少したため、島の青年部とダイビングショップなどが連携して、母藻投入やウニ駆除などを行い、島周辺の藻場回復に取り組んでいます。
潮の流れなどの環境を考慮した活動場所の設定など、2010年に活動組織の発足以来試行錯誤を重ね、成果を上げてきました。

(5)「歯舞地区 トーサムポロ沼におけるアサリ漁場管理について」  歯舞地区干潟造成保全会(北海道根室市)

小中学生の学習や体験のようす(写真:発表資料)

1994年の北海道東方沖地震で発生した津波で天然の干潟が消失し、二枚貝が大量へい死したことから、1996年から干潟を回復させる活動を行っています。試験礁でデータを集め、原因究明しながら効果的な対策を打ってきた結果、干潟が回復。さらに、小中学生の学習や体験も行い、回復した干潟を守りつなげる活動も行っています。

(6)「美ら海を守り育てる! The 2nd report」 伊江島海の会(沖縄県伊江村)

サンゴ移植体験・学習会のようす(写真:発表資料)

食害や漂流ゴミなどで白化・損傷したサンゴ礁を回復し、海の再生産力を維持するため、食害生物駆除や浮遊・堆積物除去、サンゴの移植などを行ってきました。2009年からの地道な活動の結果、活動地区ではサンゴが回復。都内の大学や企業とも連携し、問題意識を共有することで新たな取り組みに発展しています。

高い公益性、幅広いネットワークで多様な活動が成果

最後に行ったディスカッションでは、それぞれが抱える課題や活動への思いを発言しました。
コメンテーターは、「多くの問題が環境や社会変化に起因するにもかかわらず、地域の人たちが自分たちで解決しようと活動していることが素晴らしい」とし、水産多面的機能発揮対策の取り組みの公益性の高さを評価しました。
また、漁業者だけでなく世代を超えて学校やNPO、行政などを巻き込んだ広いネットワークで取り組んでいる地域が多いことから、「多様な主体との連携」が活動の発展や継続性にも寄与していると分析しました。

講評を述べる鹿熊信一郎委員長

コーディネーターの鹿熊信一郎氏(水産多面的機能発揮対策検討委員会委員長)は、「一番の成果は750を超える多くの活動組織が多様な取り組みを行っていること」と、第2期水産多面的機能発揮対策の成果を講評。さらに、技術面が進歩したことについて、現場のサポートを行ってきたサポート専門家の活躍にも触れました。

<ディスカッション>
■コーディネーター
鹿熊 信一郎 氏(佐賀大学海洋エネルギー研究センター 特任教授、水産多面的機能発揮対策検討委員会委員)
■コメンテーター
桐生 透 元 氏(山梨県水産技術センター、水産多面的機能発揮対策検討委員会委員、長野県内水面漁場管理委員会委員)
桑原 久実 氏 (国立研究開発法人 水産研究・教育機構 水産技術研究所 企画調整部門 研究主幹、水産多面的機能発揮対策検討委員会委員)
崎長 威志 氏 (広島県内水面漁業協同組合連合会 参与、水産多面的機能発揮対策検討委員会委員)
玉置 泰司 氏 ((一社)日本定置漁業協会 専務理事 水産多面的機能発揮対策検討委員会委員)
藤田 大介 氏 (東京海洋大学大学院 准教授 水産多面的機能発揮対策検討委員会委員)

シンポジウムの資料
(JF全漁連水産多面的機能発揮対策情報サイト「ひとうみ.jp」より)

  • JF全漁連編集部

    漁師の団体JF(漁業協同組合)の全国組織として、日本各地のかっこいい漁師、漁村で働く人々、美味しいお魚を皆様にご紹介します。 地域産業としての成功事例や、地域リーダーの言葉から、ビジネスにも役立つ話題も提供します。 SakanadiaFacebook

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