「地産地消」に力を入れるJFやまがた由良水産加工場の取り組み

「地産地消」に取り組む由良水産加工場

JFやまがた由良水産加工場の主力商品(写真提供:JFやまがた)

山形県漁業協同組合(以下、JFやまがた)の由良水産加工場(以下、加工場、所在地:鶴岡市)は、地元の庄内浜で水揚げされた魚介類を使って、真いかの塩辛や一夜干し、真鯛や口細カレイの一夜干しなどを製造しています。販売先は道の駅や物産館、量販店などであり、学校給食も手掛けています。
かつての庄内浜は、マスやスルメイカが大量に水揚げされていましたが、2000年代ごろから次第に漁獲量が減少するようになりました。加工場では、これまで四季折々で水揚げされる地元の魚介類を工夫しながら加工を行ってきたため、まさに「多品種少量生産」を展開してきましたが、最近では、海水温上昇など海洋環境の激変により、これまで以上の対応が求められています。また同時に、「地産地消」の観点から、未利用魚の普及にも力を入れています。ここでは、海洋環境が大きく変化するなかでも、スタッフ同士のコミュニケーションを重視することで、柔軟に商品づくりを展開する加工場の取り組みを紹介します。

スタッフ全員の意見をもとに新商品を開発

由良水産加工場の皆さん(写真提供:JFやまがた)

地産地消に力を入れる加工場の原料調達は、市場の競りに参加することから始まります。道の駅や物産館で人気商品となっているレギュラーサイズの「イカ」を競り落とすことに加え、例えば、「需要の多いサイズではない」「水揚げ量が多く、値崩れが起こりそうだ」と思われる魚の競り落としで、魚価を買い支えていることは注目されます。競り落とした魚はJFやまがた本所の冷凍施設でストックしておきます。特に学校給食は、一度に約9000食を提供するため、原材料の保管が欠かせません。
加工場には7人の現場スタッフが勤務しています。加工場で重視していることは、スタッフ同士の円滑なコミュニケーションです。特に新商品づくりは、原材料の在庫量などを勘案しながら、スタッフ全員が意見を出し合うようにしています。なかでも味付けは、「今まで通りの味付け」ではなく、「これからも長く食べ続けてもらえる味付け」を念頭に主眼を置きます。加工方法や味付けの決定以外にも、賞味期限を確定するなどの作業もあるため、新商品の開発期間は数か月間にも及ぶことがあります。
また、地元の魚介類を使用するため、商品づくりに着手していた時は水揚げ量が多くても、いざ商品を販売しようという時期になると、水揚げ量が少なくなったという苦労もあるそうです。
JFやまがたといえば、読者のなかには、2022年の「第8回Fish-1グランプリ」(「漁師自慢の魚プライドフィッシュ料理コンテスト」部門)で「庄内浜の天然プライド鮨」がグランプリに輝いたことを思い出された方がおられるかもしれません。この「庄内浜の天然プライド鮨」も、加工場のスタッフ全員が「1人でも多く手に取ってもらえる料理はどのようなものがよいか」という観点から意見を出し合い、開発したそうです。日ごろの円滑なコミュニケーションが栄冠を手にする基盤になったといえます。

「第8回Fish-1グランプリ」表彰式の様子(写真提供:JF全漁連)
グランプリに輝いた「庄内浜の天然プライド鮨」(写真提供:JF全漁連)

未利用魚を活用した学校給食

学校給食発祥の地である鶴岡市は、給食における地場消費率を30%にするという目標を掲げるなど、地産地消に力を注いでいます。加工場では給食センターにブリ、サケ、タラなどを納入していますが、それ以外にも真新しい魚が水揚げされると、栄養士と相談してストックします。春先に水揚げされるアブラツノザメもそのような魚の一つです。
今日のようにコールドチェーンが発達していなかった当時、アブラツノザメは、他の魚よりも腐りにくいことから山形県の中山間部などでよく食べられていました。鶴岡市ではみそ漬けやしょうゆ漬けで食べられ、そのためシニア世代にとっては、まさに「懐かしい味」であり、郷土料理の一つでした。しかし、その後のコールドチェーンの発達などによってアブラツノザメはいつしか鮮魚店やスーパーで取り扱われることが減少し、未利用魚となりました。

アブラツノザメ(写真提供:JFやまがた)

サメの肉には若干の酸味を感じることがあります。さらに最近では、魚の「生臭さ」を嫌う児童も少なくないといいます。そこで加工場では、アブラツノザメにカレー風味のパン粉をつけ、フライで食べられるように加工します。アブラツノザメが提供される日には、加工場長の本間祐輔さんが学校を訪問し、①かつては山形県でもよく食べられていたこと、②アブラツノザメは成体になるまでに10年ほどかかり、10年経過してようやく給食で食べることができること、などを校内放送で伝えます。本間さんは、「小学生がサメは美味しいと思ってくれると、地域の食文化が継承できる」と学校給食の重要性を強調します。

フライ用に加工したアブラツノザメ(写真提供:JFやまがた)

海洋環境の変化に柔軟に対応する必要性

海洋環境の変化を受け、庄内浜ではこれまでたくさん獲れていた魚が獲れなくなる一方、県内ではこれまで食べる文化がなかった魚が増えているそうです。加工場では組合員から「こんな魚が獲れるようになったが、何かに加工できないか」という相談を受けています。地元で食習慣がない魚であっても、漁獲量が継続的かつ多量であれば、ブランド化や設備投資を伴う加工品の製造といった方法が考えられますが、漁獲量が不安定であったり、少量であったりすれば、マーケティングコストや加工コストが割高となり、消費者に受け入れられることが難しくなります。
最近ではワニエソが漁獲されるようになり、加工場では試験的にすり身に加工しました。味の評価はよかったのですが、やはり水揚げ量が安定しないことから、現時点では商品化までには至っていません。
このように近年の海洋環境の変化は、漁業関係者に難しい舵取りを迫っていますが、だからこそ、地域の声を反映した柔軟な対応ができる加工業者の存在意義は高まっているといえます。最近では、未利用魚の利用に関心が集まっていますが、未利用魚が食卓に並ぶようになるためには、地元の食文化を知り尽くした人々の知識と経験が欠かせません。そうしたなか、「地元で水揚げされた魚介類を大切にする」という考えのもと、地域のニーズを掘り起こしながら、食文化を支えていく加工場の取り組みは注目されます。

  • 古江晋也(ふるえ しんや)

    株式会社農林中金総合研究所調査第二部主任研究員。   専門は地域金融機関の経営戦略の研究ですが、国産食材を生産し続ける人々と、その人々を懸命に支え続ける組織の取材も行っています。 四季折々の「旬のもの」「地のもの」を頂くということは、私たちの健康を維持するだけでなく、地域経済や伝統文化を守り続けることでもあります。   現在、輸入食材はかつてないほど増加していますが、地球温暖化や自然災害が世界的な脅威となる中、農水産物の輸入がある日突然、途絶える可能性も否定できません。 豊かな日本の国土や自然を今一度見つめ直し、今一度、農水産物の生産者や生産を支える組織の人々の声に耳を傾けたいと思います。   ▶農林中金総合研究所研究員紹介ページ 著書:『地域金融機関のCSR戦略』(2011年、新評論)

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