未利用魚を缶詰にしたJF福島漁連の取り組み

高まる未利用魚の活用と「カナガシラアヒージョ」

JF福島漁連が企画・販売している「カナガシラアヒージョ」

近年、これまであまり食べられることがなかった未利用魚を活用する動きが広まりつつあります。その背景には、地域の新たな名産品の開発、漁業者の所得向上などがありますが、やはり、「漁獲した魚をムダにしない」という思いが高まっているからでしょう。
福島県いわき市に本所を置く福島県漁業協同組合連合会(JF福島漁連)も未利用魚の活用に力を入れており、2024年10月に缶詰「カナガシラアヒージョ」の販売を開始しました。福島県水産海洋研究センター(海洋研)副所長の根本芳春さんによると、ホウボウ科に属するカナガシラは、日本近海の水深50~200mぐらいの海底に広く分布し、白身で味も良いのですが、骨が多いという特徴があるそうです。特に「血合い骨」は固く鋭いことから、加工に手間がかかります。

JF福島漁連会長の野﨑哲さん
JF福島漁連専務の鈴木哲二さん(左)と指導部指導課の小泉武司さん(右)

漁獲した魚を大切にしたいという思い

福島県産の魚介類や水産加工品は「常磐もの」として親しまれ、ヒラメやカレイ、ヤリイカなどが底引き網で漁獲されます。カナガシラはこの底引き網の中に入り、ヒラメなどとともに漁獲されます。長崎県では節分の日に邪気を払う縁起物としてカナガシラが食べられるようですが、福島県ではそのような慣習がありません。ただ、白身でおいしいことから、底引き網漁業者は以前からフライや天ぷらにして食べていました。また、東日本大震災以前には、カナガシラの認知度を高めるため、漁業関係者はフライ用に加工し、消費の拡大に取り組んでいました。
10年間の試験操業が終了した2021年3月末からは、漁業者の間で漁業が本格的に再開できるという喜びとともに、「漁獲した魚を今まで以上に大切にしよう」という意識が高まったそうです。そこでJF福島漁連は、未利用魚であったカナガシラを買い取り、頭部や内臓などを取り除く一次処理をした後、小名浜冷凍冷蔵施設で保存することにしました。カナガシラを冷凍保存する理由は、サバやイワシと比べると漁獲量が相対的に少なく、加工品を開発するには、まず一定量をストックしなければならないからです。

カナガシラ 写真提供:JF福島漁連

「おしゃれ」「高級感」を付加する

カナガシラの加工品開発については、地元の漁業関係者が試行錯誤を繰り返しました。まずJF福島漁連では、すり身状にした「落とし身」の1㎏パックを作り、加工業者、飲食店、鮮魚店の人々から意見を聞くことにしました。各事業者からは汁物、ラーメンに使用するなど、さまざまなアイデアが出ましたが、缶詰に骨を柔らかくする特性があることから、「骨の多いカナガシラを缶詰に加工してはどうか」という意見が採用されました。
そこで水産研究教育機構がまず水煮缶を開発し、その水煮缶を参考にJF福島漁連は味噌味、しょう油味などさまざまな試作品を作りました。ただ、水煮は「味が淡泊過ぎ」、味噌味やしょう油味も「今一つ物足りなかった」そうです。また缶詰の形状についても、イワシやサバは魚体が筒型であるため、丸缶を使用すると身が詰まったようにきれいに納まりますが、カナガシラの魚体は円錐型であるため、丸缶を使用すると身が詰まったように納まりませんでした。
「淡泊な味わいに適した味付け」「見栄えよく缶に納める」という課題を克服するために漁連担当者が考えた結論が、角缶を使った「アヒージョ」でした。またJF福島漁連専務理事の鈴木哲二さんは、カナガシラの知名度も向上させたいという思いから、「おしゃれ」「高級感」といったイメージも付与したかったと話します。
発売から7か月ほどしか経過していないため、販路はJF福島漁連のウェブサイトや物産展などが中心ですが、購入者からは食材や調理法が珍しいと喜ばれています。また、オリーブオイルにうま味が凝縮されていることから、おつまみ以外にもパスタに絡めて食べる人も多いそうです。

カナガシラアヒージョを使ったパスタ 写真提供:JF福島漁連

福島県の漁業の復興をめざして

2025年2月22日、東京都中央区の築地場外市場にある築地魚河岸3階でJF福島漁連主催の第16回「福島県漁業の今と試食会」(試食会)が開催されました。同試食会は2017年3月から続けられ、福島県漁業の今を多くの人に知ってもらうことを目的としています。開始当初は「がんばってください」という多くの励ましの声をかけてもらった一方で、風評被害などから「素通り」する人々もおりスタッフの中には悔しい思いをした人もあったそうです。しかし最近では、およそ1,000人分の試食が昼前にはなくなるほどの盛況となっており、大きな手ごたえを感じています。
第16回の試食会ではメヒカリのにぎり、サバの塩焼き、アンコウの唐揚げが用意され、試食後にアンケートに答えるとカナガシラアヒージョがもらえることから、11時前にはステージに行列ができていました。試食に訪れた多くの人々が「常磐もの」のおいしさと、カナガシラアヒージョのプレゼントに笑顔があふれていました。

試食会の運営に携わるスタッフの皆さん
メヒカリのにぎり、サバの塩焼き、アンコウの唐揚げ

福島県の漁業は強い逆風にさらされてきましたが、福島県の漁業関係者をはじめとする多くの人々がその復興をめざして力を合わせてきました。そうした中、カナガシラアヒージョは、未利用魚の有効活用という側面だけではなく、「常磐もの」ブランドの価値向上を願うさまざまな人々の思いが詰まった一品であるということにも気づかされます。

  • 古江晋也(ふるえ しんや)

    株式会社農林中金総合研究所調査第二部主任研究員。   専門は地域金融機関の経営戦略の研究ですが、国産食材を生産し続ける人々と、その人々を懸命に支え続ける組織の取材も行っています。 四季折々の「旬のもの」「地のもの」を頂くということは、私たちの健康を維持するだけでなく、地域経済や伝統文化を守り続けることでもあります。   現在、輸入食材はかつてないほど増加していますが、地球温暖化や自然災害が世界的な脅威となる中、農水産物の輸入がある日突然、途絶える可能性も否定できません。 豊かな日本の国土や自然を今一度見つめ直し、今一度、農水産物の生産者や生産を支える組織の人々の声に耳を傾けたいと思います。   ▶農林中金総合研究所研究員紹介ページ 著書:『地域金融機関のCSR戦略』(2011年、新評論)

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