厄介者だったハモのブランド化 ~JF四海が推進する「小豆島 島鱧」~

厄介者のハモが増加

香川県小豆島の北西に位置する四海漁業協同組合(JF四海)は、2010年代半ばから厄介者と言われてきたハモの活用による漁業者の所得向上に取り組んできました。現在、ブランド化されたハモ「小豆島 島鱧」は、主に京都に活魚として出荷されるだけでなく、加工品として提供されています。
JF四海は、底びき網漁が盛んな組合であり、現在も組合員の7割が従事しています。サルエビなど主要な漁獲物は、対岸の岡山県で水揚げされてきましたが、2000年代半ばから底びき網にハモが入るようになりました。しかし、ハモは骨切りするなど、食材としては手間がかかり、出荷先の岡山県では評価されませんでした。また、ハモはエビ、カニなど底びき網漁の対象の魚介類を食べるという意味でも厄介者でした。
増えてきたハモを漁業者の収入に結びつけようと、JF四海の青年部がハモの共同出荷を呼びかけました。ただ、ハモの出荷は、販路の開拓や販売先の要望に応えた漁法や選別法などへの挑戦が必要です。まさに、漁業者や組合にとって既成概念を変える取り組みでした。では、JF四海がどのようにハモの共同出荷を進めたのかについて、「小豆島 島鱧」の歴史から見ていきましょう。

「小豆島 島鱧」(写真提供:JF四海)

試験出荷からブランド化へ

JF四海の青年部有志は、2015年から香川県の水産普及員の勧めを受け、関西方面へのハモの出荷に取り組み始めました。徳島市漁業協同組合の出荷方法を学び、大阪府の市場に出荷したところ、現状よりも高値だったことから、彼らは組合員に共同出荷を呼びかけました。ただ、ハモは出荷に手間がかかることや、市場での評価が一過性のものではないかとの懸念がありました。そこで、まず青年部有志で試験的にハモを出荷することとなりました。この試験出荷では、出荷するまでの手間隙や利益が出る最低価格を見極めるという明確な目的がありました。
彼らは水槽や計量器など必要な資材を自分達で調達し、出荷作業を行いました。さらに高松市までの運搬は交代で行い、香川県漁業協同組合連合会のトラックにハモを引き渡しました。職員の上川貞亮さんが販売価格や経費を集計した結果、ハモの出荷は採算がとれることがわかりました。組合の総会ではハモの共同出荷を不安視する意見もありましたが、青年部有志は「自分達が責任をとる」と説得しました。このような熱意を受け、JF四海内にハモ共同出荷協議会が立ち上げられました。JF四海はブランド化の過程で、1)品質を維持するために必要な設備の整備、2)ロゴなどのソフト面の準備、3)関係機関の協力体制構築を同時に進めました。

青年部による試験出荷風景(写真提供:JF四海)

「小豆島 島鱧」のブランド基準

2016年からJF四海の役員、青年部、女性部に加え、地元の土庄町や香川県なども含めた連絡協議会「小豆島ハモの会」が立ち上がり、ブランド化に向けた話し合いが始まりました。同協議会ではブランドの基準やロゴ、今月の目標などを決め、さらには課題の洗い出しや対策も話し合われました。
協議の結果、「小豆島 島鱧」のブランドの基準は以下の4つに決まりました。

1)小豆島近海で漁獲されていること
2)重量が300グラム以上2キログラム未満のハモであること
3)曳網時間が1時間程度であること
4)漁獲から1日以上蓄養したものであること

第1の基準は、小豆島近海は餌が豊富かつ潮の流れが速いため、他産地と比べ、ハモの身は脂肪分が少なくあっさり上品であることが理由です。第2の基準は、市場で高単価となる重量の範囲です。1.5キログラム超のハモは皮が分厚く、骨も硬くなります。また2キログラム以上のメスが産卵を担っているとして、漁獲しないようにしています。そのため、この重量の範囲に入らないハモは放流されます。さらに資源を保護するため、2025年10月より毎年10月から11月の間の荷受基準を400グラム以上1.5キログラム未満に狭めました。第3の基準は、魚体の傷を減らすためのものです。最後の基準は、ハモの胃を空にするとともにストレスを低減させるためのものです。

魚体を傷つけないように慎重に操業(写真提供:JF四海)
畜養中のハモ(写真提供:JF四海)

加工によりハモの単価下支え

JF四海では2016年から水槽、ろ過・冷却装置といった畜養施設と活魚トラックを揃えました。現在は、6トンの水槽に塩化ビニールのパイプを入れてハモを落ち着かせています。職員は、ハモの水揚げ時に一尾ずつ4基準を満たしているか確認し、出荷時にも弱っているハモを除くといった選別をします。このようにハモの出荷のために設備を整えたJF四海では、小豆島内にある他の漁業協同組合の漁業者にもブランド基準1)~3)を守ることを呼びかけるほか、彼らが漁獲したハモを受け入れて「小豆島 島鱧」として出荷するなど、小豆島のハモ出荷基地としての役割も果たしています。
さらに2017年にJF四海は加工場を建設しました。それは、お盆を過ぎるとハモの需要が減少し、価格が下がるため、組合が買い取り、加工用にすることで価格を下支えするためでした。また、小豆島内でもハモを利用したいという声があったものの、ハモの骨切りなどの下処理ができる専門業者がいなかったこともあり、JF四海で加工することとなりました。このとき、女性部の部員が加工場で働き、加工事業の推進に協力しました。
JF四海のハモの加工品は、現在、商社、加工業者、卸売業者、飲食店などを通じ、全国で取り扱われ、需要も拡大しています。原料となるハモは「小豆島 島鱧」の4基準を満たしています。また、処理時には血抜きをしっかり行い、冷凍は1回だけにとどめ、さらに保管にも注意が払われているため、取引先から身がきれいと好評です。

JF四海が販売するハモ製品(写真提供:JF四海)

地元から愛される「小豆島 島鱧」を目指して

「小豆島 島鱧」の認知度を上げるため、JF四海は2016年に「小豆島 島鱧」のロゴマークを公募し、地元の高校生の作品を採用しています。また、県内、県外の商談会や試食会など積極的に参加してきました。
それだけでなく、「小豆島 島鱧」を小豆島に根付いた愛されるものにしたいとの考えから、毎年行われる出荷式や島鱧祭りには、地元の子供達を招いています。このような地元との交流を通じて、ハモを食べる人が増えることを目指しています。
近年、小豆島近海の海洋環境も変化しており、漁業者はエビやイイダコなど地元を代表する魚介類が減少していることを心配しています。そのため、高価格が維持されているハモを守るために漁業者は漁獲できる重量の範囲を狭めることにも合意しました。「小豆島 島鱧」というブランドを小豆島の漁業者が共有していることも、このような漁業者の協調的な資源保護に向けた動きの一因となっていることは注目されます。

「小豆島 島鱧」を通じて地元とも活発に交流(写真提供:JF四海)
  • 田口 さつき(たぐち さつき)

    農林中金総合研究所主任研究員。専門分野は農林水産業・食料・環境。   日本全国の浜を訪れるたびに、魚種の多さや漁法の多様さに驚きます。漁村には、お料理、お祭り、昔話など、沢山の文化があります。日本のなかには一つも同じ漁村はなく、魅力にあふれています。また、漁業者は、日々、天体、潮、海の生き物を見ているので、とても深い自然観を持っています。漁業者とお話をしていると、いつも新たな発見があります。   Sakanadiaでは、そんな漁業者の「丁寧な仕事をすることで、鮮度の高い魚介類を消費者の食卓に届けよう」という努力や思いをお伝えできればと、思っています。   ▶農林中金総合研究所研究員紹介ページ

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