水産業の新戦略 復興のその先へ、“助け合い”で収入UP 岩手県重茂地区~「浜プラン」水産庁長官賞の紹介~ 2020.7.28 JF全漁連編集部 印刷する 早採りわかめ「春いちばん」※記事中に産直通販の情報があります「浜の活力再生プラン」、通称「浜プラン」は地域ごとの特性を踏まえて、漁師や漁協(以下JF“じぇいえふ”)、市町村などでつくる組織(地域水産業再生委員会)が自ら立てる取組計画。 その地域の人たちが自分たちで課題と解決策を考え、業界を越えた連携もしながら取り組む、ボトムアップの水産政策だ。 ▼浜プランについてはこちらの記事で 大臣賞など決定!「浜プラン」で所得UP 今回は、相互扶助・互恵の精神で東日本大震災からの復興に挑んできた重茂地区の事例を紹介する。まさに地域で考え、地域で決断、実践した優良事例だ。 重茂地区は、昨年度の「浜の活力再生プラン優良事例表彰」で水産庁長官賞を受賞した。 浜プラン.jpコラムから転載▼ 組織名: 宮古市重茂地区地域水産業再生委員会 構成メンバー:岩手県宮古市、重茂漁業協同組合(以下、JFおもえ) 地域:岩手県宮古市重茂、音部地区 漁業種類:採介藻、わかめ・こんぶ養殖、定置網 ▶JFおもえの水産物通販はこちら ▶宮古市重茂地区地域水産業再生委員会の浜プラン詳細はこちら 相互扶助の精神で復興、そして次のステップへ三陸リアス式海岸に面する岩手県の重茂地区は、親潮と黒潮が交わる豊かな漁場を有し、採介藻漁業やワカメ・コンブの養殖などが盛んだ。漁業は重茂地区の中心的な産業である。 2011年に発生した東日本大震災では、約90世帯が被災し、約800隻の漁船が流出するという壊滅的な被害を受けたが、漁船の「共同利用」など、漁協・漁師の賢明な努力と工夫によりなんとか生産力を回復させた。 一方で、燃油や資材の価格の高止まり、福島第一原発事故による風評被害、長引く魚価の低迷など、生産力回復後もさまざまな常態的な課題があった。 そこで、さらに魅力ある漁村を目指して、漁師の所得向上と経営安定を実現するため、「浜プラン」を活用し取り組みを推進した。 復興商品で“重茂ブランド”をアピール復興商品例まず力を入れたのが「重茂ブランド」の発信だ。震災の翌年2012年から毎年、東日本大震災のあった3月11日に「復興商品」をリリースしている。 2012年に発売した「プレミアム春いちばん」は、重茂地区の主要な生産物である養殖ワカメを使った商品で、春先に収穫を迎える「春いちばん」の新芽を厳冬に収穫したプレミアム商品だ。 「プレミアム春いちばん」の商品開発では、マーケット調査を実施し、規格の検討と品質の均一化を図り増産に取り組んだ。 その結果、県内や首都圏で販売が好調に推移し、販路が拡大。重茂産の養殖ワカメの知名度向上と漁師の収入UPに貢献した。 2013年以降も毎年新商品を開発し、2019年の「あわびのアヒージョ」(第8弾)や2020年の「OMOE CHOCOLATE」など、大胆でユニークな商品で復興した重茂の姿を発信し続けている。 ▶復興商品の購入はこちら ▼「OMOE CHOCOLATE」はSakanadiaお取り寄せ記事でも紹介! 母の日に“おしゃれな”海の幸はいかが?産地直送お取り寄せしてみた 漁協が情報配信、新技術を導入で漁師の所得UPワカメ・コンブ養殖施設情報配信システム力強く復興をけん引するJFおもえが漁師らと取り組む重要な活動の一つに資源・漁場管理がある。 豊かな海を守るため、新たな仕組みを取り入れた。 組合員(JFおもえ所属漁師)向けの情報配信システム「おもえ漁協ネット」だ。 ワカメ・コンブの養殖にとって重要な海水温、栄養塩、種苗の巻込時期、垂下深度などについて、情報を配信する体制を構築したのだ。 漁師たちがこの配信情報を活用し養殖管理を徹底したことで、生産量が増大したという。 また、新たな技術の導入も行った。 養殖干しコンブの製造に用いる乾燥機の灯油使用量削減のため、水産研究・教育機構、岩手大学、県水産技術センターなどと連携し、乾燥工程の省エネ化に向けた実証試験を実施した。 試験結果をもとに作成したマニュアルを全養殖業者に配布。灯油使用量を減らし、操業コストの削減を図ったという。 重茂の人々に伝わる「天恵戒驕(てんけいかいきょう)」重茂小学校児童とJFおもえ女性部との植樹作業「天恵戒驕(てんけいかいきょう)」とはJFおもえ初代組合長の西舘善平氏が生み出した言葉である。 「天の恵みに感謝し、驕ることを戒め不慮に備えよ」という意味だ。 さらに西舘初代組合長の言葉には次のようなものもある。 “私たちのふるさと重茂は天然資源からの恵みが豊富であり、今は何ら不自由はないが、天然資源は有限であり、無計画に採取していると近い将来枯渇することは間違いない。 天然資源の採取を控えめに、不足するところは自らの研鑽により、新たな資源を産み補う。 これが自然との共存共栄を可能とする最良の手段である“ この精神が根付いている重茂の人々は、海だけでなく森林や河川の保全、アワビの稚貝放流、藻場の増生など、豊かな海を守り、海と共存し、持続的に海を利用するための取り組みを長年行ってきた。 重茂地区の浜プランは2期目に入った。地域を担うJFおもえと漁師たちは、動き続ける。 ▶JFおもえの水産物通販はこちら 通販漁協(JF)浜プラン東北JF全漁連編集部漁師の団体JF(漁業協同組合)の全国組織として、日本各地のかっこいい漁師、漁村で働く人々、美味しいお魚を皆様にご紹介します。 地域産業としての成功事例や、地域リーダーの言葉から、ビジネスにも役立つ話題も提供します。 SakanadiaFacebookこのライターの記事をもっと読む
「資源管理・品質管理・魚食普及」セットで挑む所得UP!千葉県夷隅地区~「浜プラン」全漁連会長賞の紹介~「浜の活力再生プラン」、通称「浜プラン」は地域ごとの特性を踏まえて、漁師や漁協(以下JF“じぇいえふ”)、市町村などでつくる組織(地域水産業再生委員会)が自ら立てる取組計画。 その地域の人たちが自分た2020.11.6水産業の新戦略JF全漁連編集部
マダイは春の大切な食材 ―持続可能な漁業を目指すJF勝山の取り組み―東京湾の入り口に面する千葉県の勝山港では、四季折々にさまざまな魚介類が水揚げされます。なかでも桜が咲く時期に漁獲されるマダイは、色の美しさや魚体のよさが評価されてきました。このマダイは鋸南町勝山漁業協2022.6.30水産業の新戦略田口 さつき(たぐち さつき)
「チリメンモンスター」で海の豊かさを伝える―大阪湾のシラスを活用―スーパーなどで販売されている「チリメンジャコ」(イワシシラス)には、小さなエビ、タコ、イカなどの混獲生物を見かけることがあります。 最近は、アレルギー対応の一環として加工業者が混獲生物を丁寧に取り除い2024.1.26水産業の新戦略古江晋也(ふるえ しんや)
話し合いで風通しのよい漁村づくり、担い手確保へ 山口県下関市豊浦地区~「浜プラン」共水連会長賞の紹介~「浜の活力再生プラン」、通称「浜プラン」は地域ごとの特性を踏まえて、漁師や漁協(以下JF“じぇいえふ”)、市町村などでつくる組織(地域水産業再生委員会)が自ら立てる取組計画。 その地域の人たちが自分た2021.2.19水産業の新戦略JF全漁連編集部
「茅渟(ちぬ)の海」のクロダイ―鮮度にこだわるJF岸和田市の取り組み―寒い季節になると大阪湾ではクロダイの水揚げ量が増加します。クロダイは「チヌ」とも言われ、大阪湾が「茅渟(ちぬ)の海」と呼ばれるのは「クロダイが大阪湾でたくさん獲れたから」という説もあるほどです。 クロ2022.12.20水産業の新戦略古江晋也(ふるえ しんや)
“大きすぎて”買いたたかれた「湘南はまぐり」の大逆転サーフィンなどのマリンスポーツで有名な神奈川県の鵠沼海岸から辻堂西海岸。この地域の海を漁場としているのが藤沢市漁業協同組合(以下、JF藤沢市)です。JF藤沢市は2007年からハマグリ漁を復活させ、202021.2.4水産業の新戦略古江晋也(ふるえ しんや)