地域でつくる「答志島トロさわら」~基準徹底でハイブランド化実現~

答志島のサワラは秋・冬が旬?

秋冬が旬の答志島トロさわら

「サワラ」は、魚へんに春(鰆)と書き、春の季語にもなっています。
しかし、三重県答志島(とうしじま)の漁師は、伊勢湾のサワラは「秋から冬が旬」と考えてきました。

答志島(とうしじま)のサワラは、このところ漁獲量も安定し、仲買人たちからも「鮮度がいい」と高く評価されていました。

そこで、2018年から地元の鳥羽磯部漁業協同組合(以下、JF鳥羽磯部)、鳥羽市、鳥羽市観光協会が連携して、秋冬のサワラのブランド化に取り組みました。それが「答志島トロさわら」です。

豊かな海と漁師の腕、「答志島だから」トロさわら

答志島は、鳥羽市の最大の島で、伊勢湾と太平洋の境目に位置します。
伊勢湾には、木曽三川など多くの河川があり、山を伝わって栄養を含んだ水が流れこんでおり、たくさんのプランクトンが発生しています。
答志島のサワラは、このプランクトンを餌にして肥えたイワシなどの小魚を食べているのです。
さらに答志島には、サワラを一本釣りで獲り、船の上で活〆(いけじめ)することができる、高い技術を持つ漁師たちがいます。

答志島には、答志(とうし)、和具浦(わぐうら)、桃取(ももとり)とよばれる3つ集落があります。
なかでも和具浦は他集落に比べて磯場が少なく、イセエビやサザエを狙った素潜漁などができないため、漁師たちは釣りや網を使って魚を狙う漁業を探求してきました。
そんな勉強熱心で探求心のある漁師たちが、サワラ漁の技術を継承してきたのです。

左からサワラ漁の第一人者の橋本計幸さんと答志島トロさわらの販売促進をする久保田正志さん

JF鳥羽磯部和具浦支所に所属する橋本計幸さんは、サワラ漁とワカメの養殖を行う漁師で、「和具浦の漁業のパイオニア」と呼ばれています。
橋本さんは、70年代から、「曳き釣り漁(一本釣り)」(釣り糸を海に流しながら船を走らせて魚をおびき寄せる漁法)を探求し、道具の工夫や魚の鮮度管理などにも熱心に取り組んできました。
また、その技術を他の漁師にも伝道してきたのです。

このような経緯で、答志島では曳き釣り漁によるサワラが、集中的に水揚げされるのです。

「トロ」を名乗る「答志島トロさわら」のブランド基準

ところで、答志島のサワラは本当に秋冬においしいのでしょうか?

その真相を確かめるため、漁協と答志島の漁師は、三重県水産研究所の協力のもと、2016年から特別な装置で定期的にサワラの“脂肪含有量”を計測しました。

すると、脂肪含有量は10月から2月にかけて高いことが科学的に証明できました。
しかも全国でもトップクラスの高さであることがわかったのです。

さらに、漁協が消費者向けに食味アンケートを行ってみると、脂肪含有量が10%を超えると、「おいしい」という回答が多数となることが判明しました。

そこで、脂肪含有量が10%を超えていることが「答志島トロさわら」の1つの品質基準になりました。そしてこの脂ののりは、「トロ」と表現するにふさわしいのです。

ブランド基準を徹底、“数値管理”を漁協がサポート

魚用体脂肪計によるサワラの脂肪含有量の測定

この基準を維持するため、漁協は脂肪を図る装置10台を漁協の4つの支所に配備し、職員が(和具浦支所では、漁師やその家族にも)正確に装置を使えるように操作方法を指導しました。

市場には、操作方法を説明するポスターを貼り、担当職員が巡回して正しい操作がなされているか確認しています。

さらに美しく新鮮なサワラを!ヒントは千葉の漁師の知恵から

2019年の漁期シーズンには、さらなる品質改善が行われました。
新型のすくい網が導入されたのです。
一本釣りのサワラ漁では、サワラを海から船に引き上げるときに手鉤(てかぎ)という道具を魚体に引っ掛けていました。

ところが、このときにできる傷が鮮度劣化の原因にもなっていたため、ブランド化を進めている関係者は改善策を考えていました。

そんななか、千葉県大原のサワラ漁で、網を三角形に張った道具(以下、すくい網)でサワラをすくい上げているという情報が入ったのです。
一同はすぐに現地視察に出向きました。

そして、早速漁協で「すくい網」の試作品を作り、漁師に試してもらいました。
さらに、すくい網の「規格書」を作成し、漁師たちに配りました。

答志島の漁師たちが改良してつくった画期的な新型のすくいカバー

すると今度は、答志島の漁師たちが、その規格書をもとに「すくい網」の改良を進め、網ではなく、ビニールカバーを貼った新型の「すくいカバー」を開発しました。
これを使用すると、魚体に傷がつかないため、鮮度の良い状態をさらに長く保つことができるようになりました。
また、サワラが暴れないので、船上〆(サワラを船に揚げてすぐに活〆をする)作業がとても楽になりました。

タグに託された漁師たちの誇り

答志島トロさわら」は、出荷時に尾にタグが付けられています。
このタグがつけられている魚は、「漁法が一本釣り」、「船上で鮮度処理されている」、「魚体に傷等がない」、「脂肪含有量が10%を超えている」など、厳しい基準を満たしたものだけです。
漁師や漁協職員のチェックに加え、魚を買う人達も厳しく評価します。
もし、問題があれば、タグは外されてしまいます。

船名の入った「答志島トロさわら」のタグ

2019年からは、漁師から申し出があり、タグに「釣った船の名前」が入っています。

今後は、「関東圏に向けて、サワラが様々な料理に使えること、生食や炙りのサワラが美味しいことを伝えていく」(販売担当の久保田さん談)予定です。

▶「答志島トロさわら」公式ホームページはこちら
関わる人たちの思いが詰まっています。

 

以下は「答志島トロさわら」公式ホームページから抜粋しました。

『未来につなげたい私たちのプライド
漁師のプライドである「一本釣り」
市場のプライドである「鮮度保持」
仲買のプライドである「目利き」
研究者のプライドである「客観性」
料理人のプライドである「料理の技」
接客者のプライドである「おもてなし」』

  • 田口 さつき(たぐち さつき)

    農林中金総合研究所主任研究員。専門分野は農林水産業・食料・環境。   日本全国の浜を訪れるたびに、魚種の多さや漁法の多様さに驚きます。漁村には、お料理、お祭り、昔話など、沢山の文化があります。日本のなかには一つも同じ漁村はなく、魅力にあふれています。また、漁業者は、日々、天体、潮、海の生き物を見ているので、とても深い自然観を持っています。漁業者とお話をしていると、いつも新たな発見があります。   Sakanadiaでは、そんな漁業者の「丁寧な仕事をすることで、鮮度の高い魚介類を消費者の食卓に届けよう」という努力や思いをお伝えできればと、思っています。   ▶農林中金総合研究所研究員紹介ページ

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