特集・3.11 【特集3.11】第1回「陸前高田を巡る—人びとの祈り—」 2020.3.4 大浦 佳代(おおうら かよ) 印刷する 災いをはらって福を呼ぶ冬枯れの曇り空の下、躍動感いっぱいに黄色と赤の色彩が動いていく。東北の太平洋沿岸に伝わる「虎舞(とらまい)」だ。 獅子舞と同じように、お正月に家々を回り、災いをはらって福を呼び込む。 陸前高田市二日市の虎舞の起源は、ちょっと面白い。1850年、集落の寺に日本最大の隕石が落下。天変地異をおそれた人びとが、災厄をはらうために虎舞を始めたのだそうだ。 今では保存会ができ、集落の子どもたちに伝承されている。小学生は太鼓を覚え、中学に上がると男の子は舞、女の子は笛を習う。今年は8人が、大人に混じって立派に役目を果たした。 「虎舞は大好き。楽しい」という子どもたち。地域の未来を照らす光だ。虎の黄色は、春先に咲くマンサクやフクジュソウの力強い黄色を思わせた。 大漁を願い、海上の安全を祈る海辺の地域では、大漁を願い海上の安全を祈る信仰があつい。生と死が隣り合わせの生業ゆえだ。気仙沼市唐桑半島の先端に祭られ、広く漁師の信仰を集める御崎神社の例大祭は小正月のころ。宵宮をのぞくと、屋台にきらびやかな縁起物が並んでいた。 珍しかったのは「はじき猿」だ。竹を削ったU字形のばねを指ではじくと、布の猿が勢いよく棒を登る。災難を「はじき去る」にかけた縁起物だという。 悪事 災難 火事火難 盗難よけの お猿さん 七難八苦 みなはじいて 宝しょいこむ 福の猿 ひとつ買うと、屋台の人が唱えてくれた。心温まる福のお裾分けだ。 翌日、広田半島の付け根の箱根山に登った。右に広田湾、左に大船渡湾を見渡す眺望が素晴らしい。山頂の林の中に、恵比寿様と大黒様の石像が並んでいた。お顔の向いた漁場が大漁になると信じられ、漁師が自分の漁場に向けて動かしに来ると聞いた。 試しに押してみたが、重くてびくともしない。数人で動かすのだろうか。 その本気の度合いに、ままならない自然を相手にする心情が感じられる。 新しい祈りのかたち高田松原に昨年9月、東日本大震災津波伝承館がオープンした。国営の追悼・祈念施設であり、県内各地の伝承施設の中核として、県が運営する。これもまた新しい祈りの形だ。 「奇跡の一本松」など震災遺構を含む広い公園はまだ整備中だが、献花台から防潮堤に続く階段を上ると、広田湾の海岸線を延々と固めるコンクリートの高い壁が見渡せた。 気仙川の河口にも巨大な水門がそびえる。 防潮堤の外の漁港では、施設の復旧が終わり、魚市場は魚を水揚げする漁師たちの活気に満ちていた。 海面を見渡せば、養殖のいかだや浮きがびっしりと浮かぶ。震災前と同じ風景を、何ごともなかったように冬の薄日が照らしていた。 数十年から100年おきに繰り返す津波を乗り越え、ままならない自然にあらがうのではなく、海と共に生きてきた人びとの強さを改めて思った。 漁師東北祭り大浦 佳代(おおうら かよ)漁業・農業・環境教育が専門のライター。漁村の文化や地域活性化などをテーマに取材し執筆。とくに漁業体験の面白さにハマり、都市と漁村、生産現場と食卓をつなぐ「都市漁村交流」をライフワークとし、全国の漁業体験や漁村観光の現場を訪ね歩いている。海と漁の体験研究所主宰。著書に『漁師になるには』、『港で働く人たち』、『牧場・農場で働く人たち』(ぺりかん社)、『持続可能な漁村の“交流術”1・2』(東京水産振興会)など。 Facebook:https://ja-jp.facebook.com/kayo.oura.9このライターの記事をもっと読む
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