【特集3.11】第3回「外部との交流によるJFひろた湾とNPO法人SETの取組」寄稿:大浦佳代

外部からの刺激による変化

養殖施設が浮かぶ広田湾。右湾奥が高田松原と市街地

震災後、復興や支援の名の下、漁村にも多くの人、物、事業が入り、その刺激はさまざまな変化をもたらした。

「奇跡の一本松」で一躍知られた岩手県陸前高田市で、まず、ひろた湾漁業協同組合(以下、JFひろた湾)の村上修参事に話を聞いた。

新築したJFひろた湾の本所。2 階の壁に「津波到達水位」のプレートが

同JFはワカメと貝類の養殖が主力で、ほかに組合自営の大型定置網漁、アワビやウニの磯漁などがある。「復旧は完了しましたが、正組合員は200人余り減って522人に。養殖漁家は100軒を割りました」と、村上さん。養殖漁場は、利用度が低下しているという。

2018年度の水揚げ金額は12億8,000万円で、震災前の65%にとどまる。
特にワカメは高齢化もあって経営体が減り、水揚げ金額は震災前の3割に。
またホタテガイは過去にない貝毒で、震災前の2割に落ち込んでいる。アワビ漁も不振で、今季はこれまでで初めて開口しない地区が出たという。。

一方、密殖が改善されたカキは好調で、水揚げ金額は震災前を15%ほど上回る。また震災後にエゾイシカゲガイの養殖が本格化し、1億5,000万円にまで水揚げを伸ばしている。

津波伝承館の隣の道の駅にJFひろた湾は直営店と食堂を出店。にぎわいを呼んでいる

このような状況の中、JFの収支は単年度黒字が続く。「軽油やガソリンの購買が、震災前の1.5〜3倍になったため」と村上さんは説明する。

陸前高田市では空前の土木工事で莫大な燃油の需要が生まれたが、JFが中心となって市内業者で組合をつくり、協力して供給を行った。購買事業でJFの経営基盤を固め、漁業の復興を支えてきたといえる。

外からの刺激による変化で特に目をひくのは、漁業者による直接販売が生まれたことだ。

例えば、父親とカキ養殖を営む佐々木学さん(36)は、父からカキを全量買い取り、消費地市場や飲食店に送っている。
復興支援をきっかけに漁村外との交流が生まれ、直接販売のルートができたためだ。佐々木さんは「震災前には、直接販売など考えたこともなかった」と話す。

佐々木学さん(左)、会社を辞めて漁業研修中の佐々木快昌さん(34)

JFの村上さんは「違法な点はなく透明、JFの手数料(賦課金見合い)も納めている」と認め、「直販の流れはもう止められません」と話す。ただ、中には直接販売でJFへの手数料(賦課金見合い)納入を拒む生産者も現れ、秩序の維持に苦慮する場面もあるという。

「ゆるい担い手」で就業の裾野を広げる

ワカメの加工を手伝うSETの「ゆるい担い手」たち(写真:SET提供)

漁業の持続には、特に若手の育成が不可欠だ。陸前高田市では、東京の学生ボランティアの団体が漁村に根を下ろし、移住した若者がJFに加入するなど、震災以前には考えられなかった動きが生まれている。

特定非営利法人(NPO)法人SETの代表、三井俊介さん(31)は、震災2日後に学生仲間と支援団体を結成。たまたま、漁村が多い広田半島に支援に入った。

そこで出会ったのは、暮らしの知恵や技に優れ、豊かに生きる人たちだった。

「すごい学びの場だと驚きました」と、三井さん。2年後、SETは震災ボランティアから「町づくり、人づくり」に活動を転換。住民が協力する地域づくりの教育プログラムなどで、年間1,000人の大学生が広田を訪れている。

三井俊介さん。NPO 仲間と結婚し空き家に定住。2児の子育て中だ

閉鎖的といわれる漁村だが、若者たちの無垢(むく)な善意は受け入れられやすく、NPOメンバーは日常的に養殖の作業などを手伝うようになる。

やがて三井さんは、親しい漁師から「船も漁具も用意するから組合に入れ」と勧められ、これまでに3人が准組合員に。昨年のウニ漁では初めて師匠の漁師から一本立ちして、自前の施設でウニをむいて出荷した。

三井さんは5年前に市会議員にトップ当選し、移住定住政策を飛躍させた。現在、SETでは空き家8軒を借りて、スタッフ15人前後が移住。移住したスタッフのほとんどが繁忙期には漁業の陸上作業を手伝うほか、船舶免許を取って海上作業を担うメンバーもいる。

さらに、東京で就職したものの漁業の魅力が忘れられず、この3月に退社し養殖漁家の下で就業するNPOメンバーもいるという。

広田の空き家を借りたSETの事務所。休学し広田に「留学中」の学生スタッフもいる
ベテラン漁師に磯漁を学ぶ(写真:SET提供)

三井さんは、漁業を手伝うスタッフを「ゆるい担い手」と呼び、漁業就業の裾野を広げることを提案する。

JFの村上さんは、この考え方を「悪くない」と評し「浅く広く人を募り、その中から本気で漁師になる人を待つのが現実的」と話す。村上さんは今、JF加入の住所要件の見直しや、人工漁礁の磯漁の漁業権を新規加入の組合員に開放するなど、就業しやすい環境づくりも検討しているという。

 

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  • 大浦 佳代(おおうら かよ)

    漁業・農業・環境教育が専門のライター。漁村の文化や地域活性化などをテーマに取材し執筆。とくに漁業体験の面白さにハマり、都市と漁村、生産現場と食卓をつなぐ「都市漁村交流」をライフワークとし、全国の漁業体験や漁村観光の現場を訪ね歩いている。海と漁の体験研究所主宰。著書に『漁師になるには』、『港で働く人たち』、『牧場・農場で働く人たち』(ぺりかん社)、『持続可能な漁村の“交流術”1・2』(東京水産振興会)など。 Facebook:https://ja-jp.facebook.com/kayo.oura.9

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