【特集3.11】歩みを忘れない―漁師の甲子園で見る3.11―~全国青年・女性漁業者交流大会~

2022年の発表の様子、参加者はオンラインでプレゼンテーションを行いました

東日本大震災で被災された方におかれましては、心よりお見舞い申し上げます。
JF全漁連ではこれまでも季刊誌やウェブメディアで、被災した漁業・漁村の姿や復興の歩み、防災に関するコラムを発信してきました。

(今年の3.11特集記事は、「忘れない」をテーマに本記事と「あの日を忘れない―Sakanadia編集部員の3.11—」の2本を掲載します)

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漁師の交流・情報交換の一大サミット「全国青年・女性漁業者交流大会」

2018年度に開催した大会の様子

JF全漁連は毎年、全国の漁業者が集まり、活動を発表し合う「全国青年・女性漁業者交流大会」を開催しています。
この大会で漁業者たちが発表する活動成果は、その年の漁業の傾向や時代を映すと言われ、現場の最先端の技術等も報告されます。また、参加した漁業者やJF、行政、研究機関が交流、情報交換する場にもなっています。より優れた活動を行っている団体には、農林水産大臣賞など名誉ある賞が与えられ、それによりさらに活動が活発化した事例も少なくありません。
当然、水産業が盛んな東北地方をはじめとする東日本地区は、この大会でこれまで数多くの受賞歴があります。そんな地域からの出場が途絶えた期間がありました。
それが、東日本大震災以降の数年間です。

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3.11から2年で復帰! 復旧・復興する浜の姿が全国へ

しかし、東日本大震災から2年後の第19回大会に岩手県、宮城県、茨城県の出場が再開します。さらに翌年の第20回大会には福島県も復帰。今年開催された第27回まで復興の歩みや新たな取り組みを全国に共有し続けています。

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「魚食」をつなぐ女性部、生産力を担う青年部

特に目立ったのが、女性部・青年部の皆さんによる取り組みです。
5つの例※を発表レジメとともにご紹介します。
※内容は発表当時のものです。

宮城県漁業協同組合仙南支所(亘理)水産加工研究会

他地区の女性部との交流会(JF全漁連WEBサイト)

第24回大会(2017年度開催)に発表した宮城県漁業協同組合仙南支所(亘理)水産加工研究会は、漁協女性部活動から始まった研究会です。「夫が獲ってくる魚を無駄にしたくない」という思いで開催していた「浜っこかあちゃん市」は震災により一時休止しましたが、地域の人たちが再び地魚に触れる機会を増やし魚離れを食い止めたい思いで活動を再開。震災前よりもさらに発展させました。

▼宮城県漁業協同組合仙南支所(亘理)水産加工研究会の発表レジュメ
「浜に笑顔を取り戻せ! ~震災を乗り越えて、浜っこかあちゃん市6年の軌跡~」
(JF全漁連WEBサイトから引用)

茨城県大洗町漁業協同組合女性部

大洗復興おさかな市(JF全漁連WEBサイト)

第19回大会(2013年度開催)に出場した茨城県大洗町漁業協同組合女性部は、「市場で値が付かない魚が少しでも高値で取り引きされるように」することなどを目指し、2010年に「かあちゃんの店」をオープンしました。しかし、翌年2011年の東日本大震災で店舗が被災。女性部、漁協関係者らの懸命な努力で同年6月には営業を再開しました。世代に合わせて活躍の場を設けるなど、地元に新たな雇用を生み出した「かあちゃんの店」は漁港に賑わいをつくり出しています。

▼茨城県大洗町漁業協同組合女性部の発表レジュメ
(JF全漁連WEBサイトから引用)
「浜のかあちゃんパワーで浜に笑顔と元気を -大洗町漁協『かあちゃんの店』絶賛営業中-」

宮城県唐桑町浅海漁業協議会青年部

カキむき体験 (JF全漁連WEBサイト)

生産力を担う若手漁師たちの取り組みも印象的です。
第21回大会(2015年度開催)に出場した宮城県唐桑町浅海漁業協議会青年部は、カキ養殖業を未来に繋げるために、小学校のカリキュラムと連携した学習支援事業を実施しました。東日本大震災により、漁業者の減少、子どもの海離れが進み、漁業後継者の育成や教育の必要性を痛感したことからこの活動が深化したといいます。

▼宮城県唐桑町浅海漁業協議会青年部の発表レジュメ(JF全漁連WEBサイトから引用)
「カキ養殖業を将来につなげるために ~小学校の学習支援事業を通じて~」

岩手県綾里漁業協同組合青壮年部

恋し浜ホタテデッキ(JF全漁連WEBサイト)

また、第22回大会(2016年度開催)に出場した岩手県綾里漁業協同組合青壮年部は、東日本大震災のときに駆けつけてくれた全国のボランティアの方々とのつながりをきっかけに、つくる人と食べる人の新しい関係づくりに挑戦しました。“食べもの付き情報誌”や「浜の学び舎」、アンテナショップなど消費者との交流の場を作ってきたことで、ファンクラブが自然発生するといった動きに繋がりました。

▼岩手県綾里漁業協同組合青壮年部の発表レジュメ
(JF全漁連WEBサイトから引用)
「つくる人と食べる人の新しい関係」

福島県 相馬双葉漁業協同組合 相馬原釜支所青壮年部

第 30 回高幡参道七夕祭の様子 (JF全漁連WEBサイト)

福島県は、東日本大震災の被害に加え、福島第一原発事故の影響で未だに試験操業を行っていますが、それでも足を止めず、安心・安全な水産物の提供のために活動しています。
第20回大会(2014年度開催)に出場した福島県相馬双葉漁業協同組合 相馬原釜支所青壮年部は、「ふくしまの今を伝える漁師たち ~風評払しょくに対する取り組み~」と題し、操業自粛の長期化による漁師の浜離れや地域漁業の衰退をなんとか食い止めようと奮闘してきたことを報告しました。足を止めずに行ってきた風評払しょくのための活動をきっかっけに、世代や地域を越えた漁業者同士の交流が生まれました。

▼福島県相馬双葉漁業協同組合 相馬原釜支所青壮年部の発表レジュメ(JF全漁連WEBサイトから引用)
「ふくしまの今を伝える漁師たち ~風評払しょくに対する取り組み~」

どの活動も、「地域を守りたい」「食文化を伝えたい」「漁業を将来に繋ぎたい」という強い気持ちと、それを実現する関係者の底力を感じます。

いまにつながる、3.11からの日々にはそれぞれに歩みがあります。
漁師の甲子園「全国青年・女性漁業者交流大会」で、その歩みを振り返ってみました。

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「特集・3.11」Sakanadia関連記事

2021年
職住一体の「まちづくり」(前編)—事前復興計画という考え方—

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【特集3.11から10年】(まとめ)自然災害と漁業の持続性―今伝えるべき漁村のちから

2020年
第1回「陸前高田を巡る—人びとの祈り—」 文・写真:海と漁の体験研究所 大浦佳代 氏

第2回「震災復興ともう一つの課題」 文:北海学園大学経済学部教授 濱田武士 氏

第3回「外部との交流によるJFひろた湾とNPO法人SETの取組」 文・写真:海と漁の体験研究所 大浦佳代 氏

第4回「復興をけん引し未来を開く みやぎ銀ざけ振興協議会のみやぎサーモン」 文:水産ライター 新美貴資 氏

第5回「試験操業の現状と販路回復、浜の活性化に向けた取り組み」 文:福島大学農学類農業経営学コース准教授 林薫平 氏

最終回「繋いだ販路、漁業者の生活—JF福島漁連の9年間—」 文・写真:JF全漁連編集部

  • JF全漁連編集部

    漁師の団体JF(漁業協同組合)の全国組織として、日本各地のかっこいい漁師、漁村で働く人々、美味しいお魚を皆様にご紹介します。 地域産業としての成功事例や、地域リーダーの言葉から、ビジネスにも役立つ話題も提供します。 SakanadiaFacebook

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—離れ離れになった彼らをつないだのは、「漁協(JF)青壮年部」というコミュニティだった— 東日本大震災、そして福島第一原発事故により避難区域に指定された福島県浪江町請戸(うけど)地区。そこは、腕っぷし

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