【特集3.11】あの日を忘れない―Sakanadia編集部員の3.11—

イメージ写真(出典:写真AC)

こんにちは。Sakanadia編集部員です。
少しずつ桜の咲く季節に向かっていますね。
そして、2011年3月11日の東日本大震災から今日で11年がたちました。皆さんはどのような気持ちでこの日を迎えられたでしょうか。
今回のコラムは、福島県の漁師の娘であるSakanadia編集部員の一人が、「あの日を忘れない」「今の気持ちを忘れない」ために、当時の様子を振り返ります。

(※今年の3.11特集記事は本コラムと、「歩みを忘れない―漁師の甲子園で見る3.11―」の2本を掲載します)

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あの日をきっかけに、いろいろな意味で将来が変わった方、生き方が変わった方は多いのではないでしょうか。

そんな私も、大いに人生が変わった一人です。
私の実家は福島県で沿岸漁業を営んでいます。季節や魚介類の来遊に合わせて魚を獲る、比較的小規模な漁業です。
当時40代だった父は、10年前に買った新船のローンを返し終え、漁師としてのスキルもUPし、「これから!」ということろ。脱サラして漁師になった父の姿をずっと見てきた私は、どんどん腕を上げてどんどんかっこよくなっていく父を頼もしく思っていました。
私は当時大学2年生。都内の大学に通っていました。儲けられるようになった父の姿をみて、大船に乗った気持ちで、キャンパスライフをエンジョイしていました。

そんな矢先に起こったのが東日本大震災。都内近郊の駅ビルでショッピングをしていた私は、大きな揺れに驚き外に出ました。街中はざわめき、道行くひとたちが動揺していました。誰ともなく、携帯電話のワンセグを見て、「え、やばくない?」「東北だって」という言葉が飛び交います。
私も同じように携帯電話を取り出しワンセグを開きました。
最初に見たのは、故郷の福島県の小名浜港が津波に埋もれていく映像でした。私の実家はそこからさほど遠くないところです。
頭が真っ白になりました。

その後、しばらくして家族みんなと一回ずつ連絡がとれ無事を確認し、父は船を沖に出して避難したことが分かりました。
奇跡だと思いました。家族がみんな生きていれば、なんとかなるとも思いました。

ほどなく、福島第一原発が水素爆発。津波による被害に加え、その後長く続く原発事故の影響で、家業はいまだ本格的な操業に至っていません。

大学生だった私は、卒業までの二年間、東京で自活することになりました。それまで悠長に「もう少し学生したいから大学院にいこうかな~」なんて考えていた私の頭は「とにかく大学を卒業し、就職しなければ」という明確なものに切り替わりました。
幸い、被災学生を支援してくださる返済不要の奨学金を受けられたり、大学の寮への入寮が認められたりと、たくさんの支援のおかげで私はほとんど不自由なく大学生活を送ることができました。

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また、もう一つ、この震災を機に大きく変わったことがあります。
それまで、ただの「父の仕事」だった「漁業」が、私にとって特別なものになったことです。
「地元の漁業の復興のために何かできることはないか」と考えた時、私は意外にも海の上の父の仕事を知らなかったことに気がつきました。それから、父や父の仲間の漁師たちに話を聞いたり、漁法について勉強したりしました。そして、漁師の生きざま、仕事への熱意、自然や環境に対する敬意を目の当たりにしました。
食料生産を担う大切な仕事であることも知り、決してなくなってならない仕事だと感じました。

あの日を機に、私はこの業界に飛び込みました。
今でも続く原発事故の影響には、ずっと悩んでいます。3.11は、葛藤し続けた11年間の始まりの日。
分岐点であることは間違いありません。

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2020年
第1回「陸前高田を巡る—人びとの祈り—」 文・写真:海と漁の体験研究所 大浦佳代 氏

第2回「震災復興ともう一つの課題」 文:北海学園大学経済学部教授 濱田武士 氏

第3回「外部との交流によるJFひろた湾とNPO法人SETの取組」 文・写真:海と漁の体験研究所 大浦佳代 氏

第4回「復興をけん引し未来を開く みやぎ銀ざけ振興協議会のみやぎサーモン」 文:水産ライター 新美貴資 氏

第5回「試験操業の現状と販路回復、浜の活性化に向けた取り組み」 文:福島大学農学類農業経営学コース准教授 林薫平 氏

最終回「繋いだ販路、漁業者の生活—JF福島漁連の9年間—」 文・写真:JF全漁連編集部

  • JF全漁連編集部

    漁師の団体JF(漁業協同組合)の全国組織として、日本各地のかっこいい漁師、漁村で働く人々、美味しいお魚を皆様にご紹介します。 地域産業としての成功事例や、地域リーダーの言葉から、ビジネスにも役立つ話題も提供します。 SakanadiaFacebook

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