特集・3.11 職住一体の「まちづくり」(後編)—九鬼漁村の事前復興まちづくり— 2021.3.8 下田 元毅(しもだ もとき) 印刷する 漁村の⾵景と浸⽔域図(三重県尾鷲市九⻤町)先を⾒据えた「事前」を考えることは、「今」を考えることに繋がる。 計画を⽴案しても実⾏できなければ意味を成さない。 私たちは、「事前復興計画(案の提⽰)・まちづくり(実践)」を並⾏に⾏いながら、計画案を⾒直し、更新し続けていくことも重要であると考えている。 後編は、三重県尾鷲市九⻤漁村の「事前復興計画・まちづくり」の取り組みの初動を紹介したい。 九⻤漁村は、鰤の⼤敷網を基幹産業とする⼈⼝400名の⼩さな漁村である。紀伊半島東部の熊野灘に⾯するリアス式海岸の湾奥に⽴地し、標⾼差約50mの斜⾯地に等⾼線を刻むように密度⾼く住居が⽴地し、美しい屋並みの景観を創り出している。 漁村内は、幅0.6〜1.5mの細い路地が網の⽬状に⼊組み、⽴体的な⽯垣や⽯塀に誘導され、奥⾏きをもった路地空間を体感することができる。 九⻤漁村は、尾鷲市のハザードマップによると最⼤津波⾼さ17mが予測され、浸⽔域を地図上に重ねてみると約7割の住居が浸⽔する事となる。 ▼前編:事前復興計画とは 職住一体の「まちづくり」(前編)—事前復興計画という考え方— 九鬼漁村の事前復興計画図版作成:⼭本翔也(⼤阪⼤学⼤学院 建築・都市計画論領域 修⼠1 年)私たちは、九⻤漁村への調査・研究やまちづくりの継続的な関わりの中で、「九⻤漁村事前復興計画(案)」を⽴案し地域住⺠へ提⽰した。 計画(案)は、 ①空き家の状況(⼾数,分布,維持管理)などを踏まえ、浸⽔域外空き家の仮設住宅での活⽤可能性。 ②応急仮設住宅の建設候補地の選定や建設可能⼾数の算出。 ③被災後の避難先が各地にバラバラになり、コミュニティの問題があった東⽇本⼤震災を踏まえ、祭りのコミュニティ単位毎の避難先の提案。 ④被災後の断⽔などの⽔不⾜に備え、井⼾や河川利⽤した取⽔⽅法を把握し、⽣活⽤⽔の確保などの計画を盛り込んだ。 生活遺産「ボッチ」九⻤漁村内にある貯⽔槽(地域内の呼称:ボッチ)写真は、ボッチ(地域固有の呼称)と呼ばれる貯⽔槽である。 後背地の豊かな⼭⽔に恵まれた九⻤漁村では、幅0.4〜1.7 m の⼩さな河川上にボッチが設置され、⼭から⽵樋を利⽤して⽣活⽤⽔を確保していた。 上⽔道敷設後は、利⽤されることがなくなり現在のボッチは、⽣活遺産として存在している。 「ボッチ」を生かした事前復興まちづくりイベントボッチの断⾯図/スケッチボッチをよく観察すると、⾃然⽯を基礎とし、剛健な⽯組みと⽵樋の掛かるための繊細で細やかな加⼯が同居した設えになっている。 ボッチのすぐ下には、河川に降りる階段があり、かつての洗い場があるだけでなく、ボッチ横の路地の階段も扇状に広がっており、この場所がかつての井⼾端会議が⾏われていた⾵景が容易に想像できる。 私たちは、ボッチを九⻤固有の空間資源(かつての可視・不可視が重なるカタチ)として捉え、被災時の⽣活⽤⽔を確保する取⽔装置の役割として活⽤可能性を⽰すため、イベント(流しそうめん)の提案を⾏った。 事前復興計画に向け、地域の⼈々とまちづくりの実践を通して、事前の意識を⾼め理解を共有化していくことが⽬的である。 「流しそうめん」で共有する有事の行動断⾯スケッチ作成:江端⽊環(コンテク・スケッチ/⼤阪⼤学⼤学院 建築・都市計画論領域 博⼠1 年)現在、地域側に提案を⾏い、2021 年の夏に実施したいと準備を進めている。 準備を⾏う中⼼メンバーは、地域内外の地縁・⾎縁を含め九⻤にルーツのある⼈々で、10 代~30 代前半の世代を中⼼としたスキームを考案中である。 南海トラフ地震は30 年以内に80%の確率で発災すると予測されているため、30年後に地域の主体世代となるメンバーで実⾏することに意義を⾒出している。 さらに、その準備過程を経験しておくことは、有事の際の⾏動計画と同期することを想定している。 かつての九⻤漁村の取⽔の仕組みを流しそうめんという仕掛けとしてのイベントで再現することが、有事の際の⽔の確保にも有効に機能することを⽬的とした事前復興まちづくりとしての位置付けである。 残すべきもの、変えていくべきもの東⽇本⼤震災から10 年、復興のみならず、漁村に関わる暮らしや制度にも⼤きな変化があった10 年だったのではないだろうか。 これらの変化をつぶさに解読すると、漁村の主体性・⾃律性が求められる時代となる事は想像に難くない。 起こりつつある様々な変化と起こり得る⼤災害を別の事柄として捉えるのではなく、「事前」を思案することを契機に能動的な地域の更新の⽷⼝を⾒出すことが、漁村における東⽇本⼤震災から学ぶべき事項だと認識している。 SDGs近畿祭り下田 元毅(しもだ もとき)1980年伊豆生まれ・広島育ち.大手前大学 建築&芸術学部 講師. 建築・都市計画・まちづくりの観点から漁村の生活と生業の一体となった空間に関する調査・研究活動を行っている. 近年は,南海トラフ地震の被災が想定される漁村を主なフィールドとしている.このライターの記事をもっと読む
【特集3.11から10年】(まとめ)自然災害と漁業の持続性―今伝えるべき漁村のちから恵みをもたらすはずの海は、ときに私たちに猛威を振るう。 10年前、その現実を突きつけられた私たちは、その後も自然の怖さを目の当たりにしています。 3.11以降も、地震、爆弾低気圧や豪雨、台風など自然災2021.3.25特集・3.11JF全漁連編集部
【特集3.11】あの日を忘れない―Sakanadia編集部員の3.11—こんにちは。Sakanadia編集部員です。 少しずつ桜の咲く季節に向かっていますね。 そして、2011年3月11日の東日本大震災から今日で11年がたちました。皆さんはどのような気持ちでこの日を迎えら2022.3.11特集・3.11JF全漁連編集部
【特集3.11】最終回「繋いだ販路、漁業者の生活—JF福島漁連の9年間—」潮目の栄養豊富な漁場に面した福島県は、日本でも有数な水揚げを誇り、その漁場で捕れた「常磐もの」は築地市場でも高い評価を得ていた。 ――あの日から、JF福島漁連(福島県漁業協同組合連合会)は漁業協同組合2020.3.11特集・3.11JF全漁連編集部
職住一体の「まちづくり」(前編)—事前復興計画という考え方—漁村は⾃然と向き合いながら⽴地し、地形、⽣業、社会構造がダイレクトに呼応しながら⽬に⾒えるカタチで⼒強く存在する。 また、⾃然と⼈為の折り合いの中で、そこに住む⼈々の⻑い時間の営みの集積により創り出さ2021.3.8特集・3.11下田 元毅(しもだ もとき)
【特集3.11】東日本大震災からの真の復興に向けて東日本大震災の発生から9年。 津波等で大きな被害を受けた東日本沿岸域の漁業関係者は、試行錯誤をしながら復興に向けた取り組みを、日々、続けています。 漁港や市場、水揚げ施設などの復旧はほぼ終わったものの2020.3.4特集・3.11JF全漁連編集部
【特集3.11】第3回「外部との交流によるJFひろた湾とNPO法人SETの取組」寄稿:大浦佳代震災後、復興や支援の名の下、漁村にも多くの人、物、事業が入り、その刺激はさまざまな変化をもたらした。 「奇跡の一本松」で一躍知られた岩手県陸前高田市で、まず、ひろた湾漁業協同組合(以下、JFひろた湾)2020.3.6特集・3.11大浦 佳代(おおうら かよ)