特集・3.11 【特集3.11】第2回「震災復興ともう一つの課題」寄稿:濱田武士 2020.3.5 JF全漁連編集部 印刷する 被災地の漁業の現状東日本大震災の発生から9年が過ぎる。被災地を歩くと、大津波が残した爪痕もところどころで確認できるが、漁業インフラの復旧や集落移転などもほぼ完了しており、「復旧から復興へ」という言葉すら懐かしく思える段階になってきた。 しかし、震災後も漁業を続けた高齢漁業者の引退数が年々増えてきている。震災時70歳とまだ十分に働ける人でもすでに80歳近くになっており、体力の衰えから養殖作業などが続けられなくなったためである。 福島県では、東京電力福島第一原子力発電所(1F)の周辺地区ではまだ漁業インフラが復旧し終えていない。沿岸漁業の昨年の漁獲量は震災前の14%にも満たない。 県内の沿岸漁業については操業ごとにサンプルの魚をスクーリニング検査して出荷するという「試験操業」体制が今も続けられている。福島県産の魚に対する「風評」はかなり収まってきたが、残念ながら現在も払ふっ拭しょくされたとは言いがたく、「試験操業」体制はやめられないでいる。 しかも、1F構内に設置された大量のタンクに貯められているトリチウム処理水の今後の扱いについて注視する必要がある。 環境は大きく変化写真:大浦佳代とはいえ、悲観視ばかりしてはいられない。復興とは、再びもとの状況に戻すことを意味するが、震災から9年過ぎれば、震災がなかったとしても、環境は大きく変わっているはずであり、否応なく、これからの環境に対応した漁業をつくっていかなければならない。 震災前も、被災地の漁業者はただただ同じ事を反復しているだけではなかった。大なり小なり、変化する環境に対応していろいろな努力をしていた。そこに地震と津波そして原発事故により、ハードもソフトも壊れてしまい、「復興」という重い課題が被災漁業者の前に立ちはだかった。その課題を前にして、震災前に何をしていたか、忘れがちになっている。復興を進めようとも、われわれを取り囲む自然環境も社会環境も刻々と変わっていくのだから、「復興」とは別にその変化の波に乗る努力を続けなければならないのである。 環境に適した産業を目指して写真:大浦佳代思い出そう。震災前から海洋環境・気象の変化が激しく海の状態は安定していなかった。獲れる魚が獲れなくなり、獲れなかった魚が獲れるようになっていた。今となっては、かつての海の使い方を取り戻そうとも、海自体が変わり、取り戻せない。新たな使い方を考えざるを得ない。 地域社会の変化も今に始まったことではない。震災前から少子高齢化や人口減少が進み、人手不足の予兆がはっきりとでていた。東日本大震災によってその状況がより顕著になっただけである。むしろ、高齢漁業者の引退が早まったことで若手の漁業者にチャンスが到来したという面もある。 水産物消費面も震災前から縮小ムードだった。特に、水産物の家庭内消費の落ち込みが著しい。核家族化、少子化の進展、単身世帯の増加により家庭内の食の在り方が大きく変わったのである。近年さらにこの状況は顕著となっている。 また国内の消費が低迷する一方で、世界的には水産物需要が拡大していたことから、輸入が減り、輸出が増えるという状況も震災前に形成されていた。 この数年は、消費低迷・輸入減・輸出増という、震災前の状況にさらにドライブがかかった。今日の水産物市場をどう捉えて、どう対応していくかは今に始まったことではない常にある課題である。 こうして考えれば、復興という「元に戻す」という運動とは別に、今の時代、環境に適した産業に漁業をチューニングしていかなければならないということが分かる。 もちろん、それは単に家族漁業を諦め、大企業的な技術と経営に転換すべきという意味ではない。変化がやまないわれわれの社会の現実に目を向け、そこと遊離せず、融合を進めながら、その地に暮らして働く漁業者にとって最も適した在り方を模索すべきという意味である。 今後の課題写真:大浦佳代ちなみに、震災前と比較すると、スマートフォンの普及率が一気に高まった上、ICT・IOTなどを駆使した情報関連技術が水産分野でも台頭してきている。 これからは躊躇うことなく、漁労にしろ、漁協の業務にしろ、生産性の低い仕事・業務を軽減して、残るエネルギーを大事なところに投入すべきである。 その「大事なところ」とは、海の変化を踏まえて、これから自分たちの漁場をどのように使っていくかということである。漁場を次世代にうまく引き渡していくためにも、その海と向き合って生きてきた漁業者らや漁協関係者らの経験と知恵が必要である。 もう一点、憂慮すべき事がある。天災が続いている点である。東北の被災地は、何度か台風・豪雨による水害などを被っている。昨年、9月の台風19号による豪雨被害は記憶に新しい。災害の上に災害が重なることはもう珍しくない。災害に強い漁業をどう作るか、このことも普通に求められるものになっている。 寄稿:北海学園大学経済学部教授 濱田武士 氏 最近の著書、『日本漁業の真実』(ちくま新書、2014年)、『魚と日本人──食と職の経済学』(岩波新書、2016年)、『漁業と国境』(みすず書房、2020年) 東北JF全漁連編集部漁師の団体JF(漁業協同組合)の全国組織として、日本各地のかっこいい漁師、漁村で働く人々、美味しいお魚を皆様にご紹介します。 地域産業としての成功事例や、地域リーダーの言葉から、ビジネスにも役立つ話題も提供します。 SakanadiaFacebookこのライターの記事をもっと読む
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「仲間がいたから立ち上がれた」――災害時に力を発揮したJF女性部の活動(岩手県・JF釜石東部女性部)「津波ですべてを失ったどん底で、『もう1回やろう!』と思えたのは、女性部の活動と仲間のおかげです」。岩手県釜石市の釜石東部漁業協同組合(以下、JF釜石東部)女性部長、前川良子さんは10年前の“あの頃”2021.3.11特集・3.11大浦 佳代(おおうら かよ)