「仲間がいたから立ち上がれた」――災害時に力を発揮したJF女性部の活動(岩手県・JF釜石東部女性部)

どん底で、頭より先に体が動いた

被災時、炊き出しの様子

「津波ですべてを失ったどん底で、『もう1回やろう!』と思えたのは、女性部の活動と仲間のおかげです」。岩手県釜石市の釜石東部漁業協同組合(以下、JF釜石東部)女性部長、前川良子さんは10年前の“あの頃”をこう回想する。

文字どおり「体ひとつ」で逃げた前川さんだったが、避難生活を送る中で「生きるためには、何かしないと」と、女性部の有志で炊き出しを始めた。
「頭より先に体が動いた感じ。長年続けてきた女性部活動の延長という感覚だったから、動けたのかもしれません」と、感慨深そうに話す。

その「長年続けてきた活動」とは、郷土料理の伝承をベースとした食育、加工品の商品開発と販売、漁家レストランの経営、さらには漁業体験などのグリーンツーリズムまで、幅広いものだった。

食をテーマに積み上げた活動、山と海の連携

母さん手作りの郷土料理を楽しむ会、農家女性とともに

スタートは2004年。県による伝統食の調査をきっかけに、JF釜石東部女性部と山間部の農家女性のグループが意気投合し、郷土料理研究会を発足させた。
伝統食の研究のほか、地元食材の魅力を伝える「郷土料理を楽しむ会」を毎月開催。
ヒジキご飯やホヤの吸い物、すき昆布の天ぷら、サケと白菜や大根の漬物など山海の恵みを並べ、大好評だった。

「2006年には、念願の活動拠点ができました。うれしかったですね」と、前川さん。海水浴場とキャンプ場のある根浜海岸で、市からレストハウスの運営を任されたのだ。

被災前の根浜海岸レストハウス

夏には漁家レストラン「浜茶屋」を営業し、海辺を訪れる人たちをもてなした。また、加工品の製造販売やイベントへの出店のほか、市が進めるグリーンツーリズムにも参画するように。
漁場見学をガイドしたり、郷土料理の昼食を振る舞ったりなど、女性部は地域の交流事業に欠かせない存在になっていった。

連携の多様性がリスク分散に

津波に襲われて傾いた根浜レストハウス

しかし10年前の津波は、愛着のあるレストハウスも押し流してしまった。
胸のつぶれるような思いを抱えながらも、女性部は、炊き出しで一歩を踏み出す。その場となったのは、レストハウス近くの旅館の前庭。女将が女性部メンバーで、宿をボランティアの拠点として開放していたのだ。

「まだ水道も電気もない時期。でもイベントなどで屋外での調理は手慣れていたし、物資の調達もメンバーのネットワークで乗り切れました」と、前川さんは振り返る。
その上、心強い助っ人が駆けつけてくれた。
郷土料理研究会でともに活動してきた内陸部の農家女性のグループだ。気心が知れた「山の母さん」たちの救いの手には、張り詰めた気持ちをふっと緩めてくれる効果もあったという。

これまでの活動で漁家と農家が手を携えてきたことは、図らずも災害時のリスク分散になっていたのだ。

食支援活動の様子

やがてJF女性部の「海の母さん」は、「山の母さん」たちと一緒に、食の支援活動を始める。
仮設住宅の高齢者に郷土料理を届け、談話室でおしゃべりする会を定期的に開いたのだ。
この活動は3年にわたって続いたという。

「手料理を口にすると、お年寄りも子どもも、本当にいい笑顔を見せてくれるんです。食は心も癒すと痛感しました」と、前川さん。そしてこの活動でさらに自信をつけ、覚悟を新たに次の活動へと進むことになった。

さらに地域を巻き込んだ女性部活動へ

写真:NPO法人釜石東部漁協管内復興市民会議

そして今、女性部は地元NPOと連携し、活動の幅を広げている。JF釜石東部は市北部の8つの浜からなるが、震災後に復興まちづくりを目的とする「NPO法人釜石東部漁協管内復興市民会議」が誕生。
事務局はJFに置かれ、国の復興支援員制度で移住した若者が事務を担い、運営体制もがっちりしている。

活発なJF女性部の活動は、復興まちづくりの大きな力だ。そこで、NPOは女性部と連携。
加工品の開発と販売、イベントへの出店、親子向けの郷土料理講習会の定期開催など、女性部の活動を支援している。ほかにも、NPOが主催する「漁業の学舎(うみのがっこう)」でのワカメの収穫や加工体験などのガイド、食事提供でも、女性部メンバーは大活躍している。

写真:NPO法人釜石東部漁協管内復興市民会議

JF釜石東部の佐々木哲也参事は「10年でようやく復興を果たし、今が本当の出発点です。サケの不漁など漁業が厳しい中、付加価値を生む活動は重要であり、女性たちの明るさと度胸には、希望を感じますね」と、期待を寄せる。

昨年10月、JF釜石東部管内に新たな活動拠点となる「釜石漁師みんなの家」が完成した。
建築家から市に寄贈されたおしゃれな建物で、昨年末には、この施設でホタテの佃煮など6品のギフトセットを作り、全国に送り出すことができた。

震災前に260人だった女性部員は77人に減ったが、連携の輪を広げ、その活動はよりしなやかで強くなっていくようだ。

  • 大浦 佳代(おおうら かよ)

    漁業・農業・環境教育が専門のライター。漁村の文化や地域活性化などをテーマに取材し執筆。とくに漁業体験の面白さにハマり、都市と漁村、生産現場と食卓をつなぐ「都市漁村交流」をライフワークとし、全国の漁業体験や漁村観光の現場を訪ね歩いている。海と漁の体験研究所主宰。著書に『漁師になるには』、『港で働く人たち』、『牧場・農場で働く人たち』(ぺりかん社)、『持続可能な漁村の“交流術”1・2』(東京水産振興会)など。 Facebook:https://ja-jp.facebook.com/kayo.oura.9

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