水産業の新戦略 “大きすぎて”買いたたかれた「湘南はまぐり」の大逆転 2021.2.4 古江晋也(ふるえ しんや) 印刷する サーフィンなどのマリンスポーツで有名な神奈川県の鵠沼海岸から辻堂西海岸。この地域の海を漁場としているのが藤沢市漁業協同組合(以下、JF藤沢市)です。JF藤沢市は2007年からハマグリ漁を復活させ、2017年から「湘南はまぐり」のブランド化に取り組んでいます。 ▶JF藤沢市公式ブログ チョウセンハマグリ復活へ、漁協と漁師の取り組み湘南はまぐりJF藤沢市組合長の葉山一郎さんによると、1950年代頃の辻堂海岸には、たくさんのチョウセンハマグリ(汀線はまぐり)が生息しており、ハマグリ漁が盛んに行われていたそうです。しかし高度成長期を迎えると、工場排水などが流れ込み、水質が悪化。海岸付近のハマグリが激減しました。 そのため漁師は、ハマグリ漁から他の貝類を獲るアオヤギ漁やナガラミ漁へと転換するようになりました。一方でJF藤沢市は1975年頃からハマグリの調査を続け、チョウセンハマグリ復活の兆しを模索し続けました。 90年代後半になると、漁師たちがチョウセンハマグリの資源量を回復させるための取り組みを本格化。海底を撹拌する「海底耕耘」を実施したり、ハマグリの天敵であるヒトデを取り除いたりするなど、地道な作業を実施するとともに、千葉県から稚貝を調達し、放流するなどの取り組みも行いました。 左からJF藤沢市組合長・葉山一郎さん、神奈川県水産技術センター普及指導担当・荻野隆太さんこのような取り組みの結果、ハマグリの生息数は増加。ナガラミ漁の際にもハマグリが混獲されるようになりました。そしてついに2007年からハマグリ漁が本格的に再開したのです。 “大きすぎ”て買いたたかれた「湘南はまぐり」の大逆転「湘南はまぐり」は相模湾の豊富なプランクトンを食べるため「濃厚な出汁が出る」のが特徴です。また、大きさが横幅10㎝以上のものも少なくありません。 しかしブランド化する以前は、この大きさがネックとなり、市場で買い叩かれることもありました。大きすぎてお吸い物のお椀に収まりきらないなどといった理由からです。 そこで、JF藤沢市はこの「大きすぎる」という欠点を逆手に取り、ブランド化することにしました。 数々の水産資源のブランド化に取り組んできた神奈川県水産技術センター普及指導担当の荻野隆太さんの支援を受け、2017年1月にかながわブランド振興協議会(事務局・JA神奈川県中央会)が運営する「かながわブランド」、同年4月に「プライドフィッシュ」に登録することにしました。 「大きすぎる」ということが、藤沢の海の豊かさや味の良さへのポジティブなイメージを連想させ、差別化につながったのです。 「プライドフィッシュ」はJF全漁連が展開するプロジェクトで、地域ごと旬ごとに漁師がおススメする魚介類を「漁師が選んだ、本当においしい魚」として選定しています。「漁師自慢のさかな」というだけでなく、資源管理や品質管理など(サイズ、水揚げ海域など)の基準をクリアしていることも選定の条件になっています。 かながわブランドとプライドフィッシュの両方に登録するとほどなく、「湘南はまぐり」はメディアでも注目されるようになり、全国ネットのテレビ番組でも取材を受けるようになりました。 さらには地元のリゾートホテルや料亭などからも注文が来るようになり、サイズが“大きな”「湘南はまぐり」が地元の新たな名産品として認知されるようになりました。 漁獲から出荷まで「湘南はまぐり」品質UPの取り組み真空パックし、急速冷凍した「湘南はまぐり」ハマグリ漁は基本、1か月に4回、3人の漁業者が操業を行っています。漁には「貝桁(かいけた)」と呼ばれる道具を使います。ハマグリ漁で特に注意することは貝桁をゆっくりと動かすこと。ハマグリは身の危険を感じると素早く殻を閉じる習性があり、その際に「ベロ」と呼ばれる足を切断してしまうことがあるからです。これは「ベロ切れ」という状態であり、商品価値が低下します。 水揚げした「湘南はまぐり」は、3日間砂抜きした後、4割ほどは生きたまま出荷します。残りの6割は真空パックにし、マイナス45℃で急速冷凍。この方法により、高い鮮度を保ちながら、より安定して出荷することができます。 出荷の最盛期は3月の桃の節句。最盛期に備えて資源を保護するため、1月から2月下旬までは禁漁にしています。 限られた漁場が育んだ「育てる漁業」の意識JF藤沢市の漁場は海岸線でいうと3.6㎞(写真赤丸のエリア)。他の地域の漁場に比べて狭い範囲です。しかし、漁場が限られているからこそJF藤沢市は「湘南はまぐり」の「育てる漁業」の取り組みに力を入れてきました。 葉山組合長は地元の漁師たちに、水産資源を丁寧に扱う漁の仕方を積極的にレクチャーしています。「育てる漁業」を継続していくためには「水産資源だけではなく、漁師の育成も重要」と強調します。 ▶プライドフィッシュ「湘南はまぐり」 ▶JF藤沢市公式ブログ 漁協(JF)プライドフィッシュ関東古江晋也(ふるえ しんや)株式会社農林中金総合研究所調査第二部主任研究員。 専門は地域金融機関の経営戦略の研究ですが、国産食材を生産し続ける人々と、その人々を懸命に支え続ける組織の取材も行っています。 四季折々の「旬のもの」「地のもの」を頂くということは、私たちの健康を維持するだけでなく、地域経済や伝統文化を守り続けることでもあります。 現在、輸入食材はかつてないほど増加していますが、地球温暖化や自然災害が世界的な脅威となる中、農水産物の輸入がある日突然、途絶える可能性も否定できません。 豊かな日本の国土や自然を今一度見つめ直し、今一度、農水産物の生産者や生産を支える組織の人々の声に耳を傾けたいと思います。 ▶農林中金総合研究所研究員紹介ページ 著書:『地域金融機関のCSR戦略』(2011年、新評論)このライターの記事をもっと読む
未利用魚を缶詰にしたJF福島漁連の取り組み近年、これまであまり食べられることがなかった未利用魚を活用する動きが広まりつつあります。その背景には、地域の新たな名産品の開発、漁業者の所得向上などがありますが、やはり、「漁獲した魚をムダにしない」と2025.4.11水産業の新戦略古江晋也(ふるえ しんや)
海外でも注目される「小田原のイシダイ」―高評価を支える小田原市漁協のチームプレー神奈川県西部の小田原市は、定置網漁が盛んな地域であり、イワシ、アジ、サバ、タイ、ホウボウ、カワハギ、カマス、イカなどさまざまな種類の魚介類が水揚げされます。2022.6.2水産業の新戦略古江晋也(ふるえ しんや)
低利用魚や未利用部位を商品化する「エコフィッシュ宮崎」の取り組み宮崎県の漁業はカツオの一本釣り、マグロの延縄、定置網などが中心です。ただ最近は海水温の上昇などの影響を受け、これまでよりも漁獲時期や旬の時期がズレているそうです。このことは魚価の低下や、漁業関係者の収2025.7.11水産業の新戦略古江晋也(ふるえ しんや)
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「淀川河口域を考える会」の議論を通じて干潟の再生を実現 ~JF大阪市による淀川河口域再生の取り組み~大阪市漁業協同組合(以下、JF大阪市)は、2019年から淀川河口域に浜をつくり、浜の恵みを享受するとともに、皆で楽しむことを目指して、「淀川河口域を考える会」(以下、考える会)を開催しています。この会2024.9.9水産業の新戦略田口 さつき(たぐち さつき)