水産業の新戦略 低・未利用魚の魚食普及活動に力を入れる魚庭漁青連 2026.1.19 古江晋也(ふるえ しんや) 印刷する 「大阪府産の魚介類を大阪の飲食店で出してほしい」という思い大阪府下の漁協青年部長たちがメンバーとなっている大阪府漁協青壮年漁業者連絡協議会(以下、魚庭(なにわ)漁青連)は現在、大阪の魚介類・漁業周知に加え、低利用魚や未利用魚の魚食普及活動にも力を入れています。 きっかけは、「大阪の漁業者が大阪の飲食店で食事をしても、大阪府産の魚介類をあまり食べることができない」という状況に危機感を持ったことでした。 魚庭漁青連会長の勝元一成さんは、「このような状況ではいけない。多くの人々に大阪の魚を手頃な価格で食べてもらわなければ」と考え、大阪産の低利用魚などの普及に向けて、魚庭漁青連のメンバーや大阪府漁業協同組合連合会(以下、JF大阪漁連)の担当者と協力し、さまざまなイベントに積極的に参加しています。 キッチンカーで海鮮丼を提供する魚庭漁青連(写真提供:JF大阪漁連)海鮮丼を盛り付ける魚庭漁青連会長の勝元一成さん(写真提供:JF大阪漁連)低利用魚の地産地消は生産者と消費者が「ウイン・ウイン」の関係になる大阪湾はいわし類、サワラ、アナゴ、キジハタ(アコウ)、ハモ、クロダイ(チヌ)、マダコ、えび類、イヌノシタ(アカシタ)など、さまざまな魚介類が漁獲される豊かな漁場です。しかし、旬の時期ではなかったり、知名度が低かったりする魚介類は、美味しくても魚価が低い傾向にあります。 例えば、冬場のクロダイは脂の乗りがよく、「マダイよりもおいしい」ともいわれていますが、旬の時期から外れると魚価が低くなります。アカエイの肝は、「カワハギの肝のような味わい」であるともいわれますが、認知度が低いことなどから魚価は低迷しています。 また、ニシンの仲間であるヒラは深い味わいがありますが、小骨が多く「骨切り」という処理が必要なことや認知度の低さから、大阪ではあまり食卓に並ぶことはありません。そして、大阪湾で多く水揚げされるボラは、刺身やフライにするとおいしい魚ですが、地元ではあまり食べられず、その多くは輸出に回っています(海外では、大阪府産のボラは鮮度の良さから評価を得ています)。 このようなクロダイ、アカエイ、ヒラ、ボラなどの低利用魚は、刺網漁法や底びき網漁法などで漁獲されます。低利用魚などが日常的に食卓に並ぶようになれば、大阪府民は「安くておいしい魚を食べることができる」ようになり、漁業者は「燃料代や氷代などの経費を賄うことができ、漁業を継続できる」ことにつながります。このように大阪湾における低利用魚などの地産地消は、生産者と消費者が「ウイン・ウイン」の関係になる取り組みといえます。 左からJF大阪漁連の柳慶士朗さん、魚庭漁青連会長の勝元一成さん、JF大阪漁連の成木壮光さん低利用魚等を活用した「海鮮丼」魚庭漁青連による魚食普及活動は、消費者とのフェイス・トゥ・フェイスを重視し、「食べてもらって、美味しさを分かってもらう」ことに力を入れています。そのためメンバーは、大阪市や岸和田市などで開催されるイベントに積極的に参加し、ボラ、クロダイ、エイ、ブリの若魚であるツバスなどの低利用魚などを使った漬け丼や海鮮丼、海鮮巻きなどをテントブースやキッチンカーで販売してきました。これらを食べた人々は、そのおいしさに驚くそうです。キッチンカーは、魚庭漁青連役員など有志が資金を出し合って2025年に購入しました。キッチンカーを導入したことで活動範囲も広がり、準備もスムーズになりました。 低利用魚を使用した海鮮丼(写真提供:JF大阪漁連)一方、こうした活動をバックアップしているのがJF大阪漁連の成木壮光さんと柳慶士朗さんです。二人は「大阪の魚がおいしいことをもっと多くの人に知ってほしい」という思いから、大阪府のブランド“大阪産(もん)”に関する出展イベントや大阪関西万博でのステージイベントなど漁業者と行政の間に立ち、大阪産魚介類の魅力を伝えられるよう調整を行ってきました。その結果、最近ではイベントの運営側から魚庭漁青連に声がかかるようになり、大阪の漁業の現状を訴える機会が増加するなど、大阪府民とのコミュニケーションを深めています。 大阪産(もん)マルシェLink to EXPO 2025のトークイベントに参加した魚庭漁青連の皆さん(写真提供:JF大阪漁連)高校生が考案・開発した「アカエイのトルティーヤ」魚庭漁青連は2025年4月から、低利用魚などの活用をテーマに岸和田市立産業高等学校の授業に協力しています。同授業は課題研究の授業としてスタートし、生徒は大阪の漁業について学習するとともに、低利用魚などの活用方法の検討を行い、レシピづくりやメニュー開発などに取り組みます。 魚庭漁青連は2か月に1回ほど出前授業や、漁港・漁船視察、試食会などを実施しており、刺身やフライを食べた生徒は、「思っていたよりもおいしい」と喜んだそうです。25年9月には、授業やアンケート結果をもとに、生徒らによるクロダイ、ボラ、アカエイを使ったレシピづくりやメニュー開発に関するプレゼン大会をJF大阪漁連とともに審査しました。生徒たちは4つのレシピを考案し、そのうち「アカエイのトルティーヤ(商品名:エイエイオー!ラップ)」が最優秀となり、商品化が決定しました。魚庭漁青連とJF大阪漁連では、これを生徒による商品企画・開発と位置づけ、26年3月末までにイベント等でトルティーヤを販売する予定です。 岸和田市立産業高校の授業(写真提供:JF大阪漁連)海洋環境の変化が進行する今だからこそ、低利用魚などの魚食普及活動を 前述したように大阪湾はさまざまな魚種が水揚げされますが、人気があるのは認知度の高い、なじみのある魚種ばかりです。人気魚種が今後も継続して漁獲されるのであれば、低利用魚などの普及よりも、人気魚種のさらなる認知度向上に力を入れたほうが、PR効果は高いでしょう。しかし、人気のあるイカナゴやアナゴの漁獲量が減少するなど、海洋環境の変化は大阪湾でも確実に進行しています。このような状況を目の当たりにしてきた勝元さんは「将来に困ってから、未利用魚や低利用魚の魚食普及活動を行っても遅すぎる」と話します。 そうしたなか、魚庭漁青連が取り組んでいる活動は、これまで低利用魚等とされてきた魚種の美味しさを消費者に広く訴えることで、大阪府産の魚介類の評価を高めるとともに、将来的な魚種転換をも視野に入れた基盤づくりとしても注目されます。 漁協(JF)漁師若手近畿青年部イベント古江晋也(ふるえ しんや)株式会社農林中金総合研究所調査第二部主任研究員。 専門は地域金融機関の経営戦略の研究ですが、国産食材を生産し続ける人々と、その人々を懸命に支え続ける組織の取材も行っています。 四季折々の「旬のもの」「地のもの」を頂くということは、私たちの健康を維持するだけでなく、地域経済や伝統文化を守り続けることでもあります。 現在、輸入食材はかつてないほど増加していますが、地球温暖化や自然災害が世界的な脅威となる中、農水産物の輸入がある日突然、途絶える可能性も否定できません。 豊かな日本の国土や自然を今一度見つめ直し、今一度、農水産物の生産者や生産を支える組織の人々の声に耳を傾けたいと思います。 ▶農林中金総合研究所研究員紹介ページ 著書:『地域金融機関のCSR戦略』(2011年、新評論)このライターの記事をもっと読む
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