新たな水産資源として特定外来生物「アメリカナマズ」を活用するJF霞ヶ浦

アメリカナマズを新たな水産資源に

養殖アメリカナマズをパテに使ったバーガー

茨城県南東に位置する霞ヶ浦は、西浦、北浦(鰐川を含む)、常陸利根川(北利根川、外浪(そとな)逆浦(さかうら)、常陸川)の総称であり、湖の面積は220㎢と琵琶湖に次ぐ広さを誇ります。
西浦や北浦では、わかさぎ・しらうおひき網漁業や小割式養殖業(網いけす養殖業)、定置網漁業などが行われ、ワカサギ、シラウオ、テナガエビ、コイなどが漁獲されてきました。しかし最近では、ワカサギやテナガエビが不漁となっています。確定的な原因はまだわかっていませんが、近年の高水温も影響しているのではないかといわれています。特に霞ヶ浦の平均水深は4mと浅いことから、猛暑が続くと霞ヶ浦に生息する水生生物にも大きな影響を与えます。こうしたなか、茨城県行方市に本所を置く霞ヶ浦漁業協同組合(JF霞ヶ浦)は、ワカサギの人工ふ化などにも取り組む一方、霞ヶ浦で増加している特定外来生物「アメリカナマズ」(チャネルキャットフィッシュ)に着目し、新たな水産資源にしようと取り組んでいます。

霞ヶ浦(西浦)の様子

アメリカナマズが霞ヶ浦に定着した経緯

アメリカナマズ(写真提供:JF霞ヶ浦)

アメリカナマズは1971年、新たな水産資源の利活用や水産振興を目的に日本に輸入されました。霞ヶ浦では1980年頃からナマズの養殖がスタートし、1982~1985年にかけて多くの養殖業者が試験的に手掛けるようになりました。しかし、コールドチェーンが普及し、海水魚が各地で販売されるようになると、アメリカナマズの需要は落ち込みました。
一方、アメリカナマズが霞ヶ浦に定着するようになった理由は諸説あり、はっきりとはわかりませんが、一説には台風によって逃げ出したナマズが利根川経由で入ってきたからだといわれています。アメリカナマズの特徴は1mほどの大きさまで成長し、背ビレや胸ビレに鋭いトゲがあることです。湖底に生息していることから、遊泳しているワカサギを捕食することはありませんが、底生生物やテナガエビを捕食します。またアメリカナマズが定置網に入ると、網のなかの多くの漁獲物を捕食することから「厄介者」とみなされています。なお、JF霞ヶ浦事務長の沼口京介さんによると、霞ヶ浦では在来種のナマズ(マナマズ)は少なく、アメリカナマズが大半を占めているそうです。
2010年代には、JF霞ヶ浦が県の委託を受け、未利用魚の回収事業の一環としてアメリカナマズを回収し、肥料などに加工したこともあります。ただ現在は、ワカサギやテナガエビなどの不漁が続くなか、今一度、アメリカナマズを新たな水産資源として活用することを試みました。

JF霞ヶ浦事務長の沼口京介さん

道の駅で販売されている養殖アメリカナマズの冷凍フィレ、冷凍総菜

霞ヶ浦では現在、特別な許可を得てアメリカナマズを養殖している漁業者と、延縄漁で漁獲している漁業者がいます。霞ヶ浦ではコイ養殖が行われてきましたが、アメリカナマズ養殖は空いたコイ用の生け簀にエサを撒き、ナマズを誘導することから始まります。
生け簀はアメリカナマズが一度入ると、出ることができない仕掛けになっており、生け簀のなかで成長します。そしてアメリカナマズが成長すると、陸上の生け簀に移され、その後、加工、出荷されます。この養殖スタイルは、まさに「畜養」でもあり、「駆除」でもあります。養殖アメリカナマズはサイズが揃うため、加工しやすくなるという特徴があり、道の駅などで冷凍フィレ、冷凍総菜(唐揚げ、香草焼き、かば焼きなど)として販売されています。また養殖アメリカナマズをパテに使ったバーガー「なめパックン」も人気があるそうです。

養殖アメリカナマズの冷凍総菜(手前左から照り焼き、から揚げ、かば焼き)
フィレ状に加工したアメリカナマズ

延縄漁で漁獲されたアメリカナマズ

一方、延縄漁でアメリカナマズを漁獲することが始まったのは2023年からです。きっかけはアメリカナマズが頻繁に定置網に入るようになり、JF霞ヶ浦組合員が「何とかならないか」と組合に相談したためです。そこでJF霞ヶ浦と茨城県が協議し、漁獲したアメリカナマズの加工を試みるようになりました。
具体的には、県担当者が水産加工業者にアメリカナマズの加工について声掛けを行うことから始まりました。アメリカナマズは特定外来生物ですが、霞ヶ浦で獲れたアメリカナマズは「地魚」でもあります。また切り身に加工すると、タラやサケのように細かな骨がありません。そのため、料理に使いやすいという特徴があります。最近では東南アジアに生息するナマズの一種「パンガシウス」という魚がスーパーで販売されていますが、アメリカナマズはパンガシウスよりも触感が良く、「鶏肉のようだ」という意見もあります。ただ、天然の淡水魚であることから、生息していた場所、エサなどに加え、漁獲した時期や締め方によって風味にばらつきがあるそうです。そのため、魚体に傷が付きにくい延縄漁で漁獲するとともに、漁獲するとすぐに血抜きを行い、捌いた後は、真空パックにして冷凍することで、おいしさを維持しているそうです。漁獲したアメリカナマズは、フィレに加工して販売しているほか、大洗マリンタワーでは「なまずカレー」として販売されています。ただ延縄漁は準備に時間がかかることなどから現在は1人の漁業者しか漁を行っておらず、出荷量は限られているそうです。

鋭いトゲを持つアメリカナマズの透明骨格標本

日本の河川や湖の多くは戦後、ダムや河口堰、水門の建設、砂利採取、コンクリートによる三面護岸への改修などの影響を受けてきました。これらの開発によって都市化が進行し、利便性は高まりましたが、その一方で水生生物は生息地域や産卵場所などが奪われるようになりました。霞ヶ浦においても常陸川水門の建設以降、ヤマトシジミの再生産、ウナギ等遡上がスムーズにいかなくなっています。また近年の温暖化による高水温は、水生生物にとって厳しい環境となり、漁獲高の減少の一因となっています。そうしたなか、アメリカナマズを新たな水産資源に活用するJF霞ヶ浦の試みは、現在の河川や湖の状況を今一度見つめなおすとともに、減少する資源への対応と、駆除対象である特定外来生物を食用資源として活用することで環境再生と新たな食文化の創造を同時に実現する重要な取り組みとなっています。

  • 古江晋也(ふるえ しんや)

    株式会社農林中金総合研究所調査第二部主任研究員。   専門は地域金融機関の経営戦略の研究ですが、国産食材を生産し続ける人々と、その人々を懸命に支え続ける組織の取材も行っています。 四季折々の「旬のもの」「地のもの」を頂くということは、私たちの健康を維持するだけでなく、地域経済や伝統文化を守り続けることでもあります。   現在、輸入食材はかつてないほど増加していますが、地球温暖化や自然災害が世界的な脅威となる中、農水産物の輸入がある日突然、途絶える可能性も否定できません。 豊かな日本の国土や自然を今一度見つめ直し、今一度、農水産物の生産者や生産を支える組織の人々の声に耳を傾けたいと思います。   ▶農林中金総合研究所研究員紹介ページ 著書:『地域金融機関のCSR戦略』(2011年、新評論)

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