水産業の新戦略 新技術の導入と積極的なコミュニケーションで地理的な困難を克服したJF国頭 2026.3.3 古江晋也(ふるえ しんや) 印刷する 沖縄本島最北端に位置するJF国頭が取り組んだ改革沖縄県国頭村に本所を置く国頭漁業協同組合(JF国頭)では、定置網漁、潜水漁、一本釣り、はえ縄漁など、多様な漁法によってさまざまな魚種を漁獲しています。一方で県最北端に位置する漁協であるため、県南部の那覇市などへ水揚げした魚介類を輸送するには相応の時間がかかっていました。この地理的な課題を乗り越えるため、漁協職員はこれまで水揚げ後の迅速な作業で鮮度維持をはかってきましたが、そのことが大きな作業負荷にもなっていました。 この課題を克服するため、JF国頭は2021年にシャーベットアイス製氷機を導入し、鮮度保持期間の延長を実現しました。この取り組みにより、新鮮な魚介類を県中部や南部へ無理なく出荷できるようになっただけでなく、県外への出荷も可能となりました。また飲食店との積極的なコミュニケーションを図ることで、JF国頭の魚介類の評価を高めています。ここでは、「輸送時間による鮮度劣化」という課題を克服し、県内外の飲食店の評価を得るようになったJF国頭の取り組みを紹介します。 水揚げされたさまざまな魚(写真提供:JF国頭)シャーベットアイスで「輸送時間による鮮度劣化」を克服前述のとおり、JF国頭は県内の他の漁協と比較して、水揚げした魚介類を消費地へ輸送するのに時間がかかるという地域特有の課題がありました。そのため、同JFでは鮮度維持を最優先に作業スピードを重視していましたが、この取り組みは職員に負担を強いることにもつながっていました。 そうしたなか、高砂熱学工業のシャーベットアイス製造デモ機を導入し、試験的な運用を開始しました。シャーベットアイスとは、ゼロ度を下回る温度で魚を凍結させることなく冷却できる氷のことで、従来に比べて魚介類の鮮度保持期間を2倍ほど延ばすことができるため、漁業者や仲買人からも好評でした。2021年に設備を正式に導入すると、まず職員の作業負担が軽減されるというメリットが確認されました。また導入前に魚が大量に水揚げされた際には、魚価が下がる傾向がありましたが、鮮度保持期間が伸びたことで出荷調整が可能となりました。参事の比嘉高志さんは「シャーベットアイスを導入したことで、出荷や販売業務に自信が持てるようになった」と率直に話します。 写真左から販売担当の池原喜啓さんと参事の比嘉高志さん漁業者は現在、出漁時に漁船へシャーベットアイスを積み込み、漁獲した時点から使用します。また、JF国頭では組合員の了解を得て、神経締めや血抜きなどの処理を指導しています。魚の保管については、シャーベットアイスに含まれる酸素を窒素ガスで置換するナノバブル技術を採用しました。これらの技術を活用することで「輸送時間による鮮度劣化」という地域特有の課題を克服することができました。 「グループLINE」で取引先飲食店のニーズをきめ細かく把握JF国頭で水揚げされた魚介類は通常、組合のセリにかけられますが、漁獲量が多い日は沖縄県中部や南部の市場にも出荷されていました。しかし、JF国頭で水揚げが多い日は他の組合でも水揚げが多い傾向があり、魚価が低迷しやすいという課題がありました。そこでJF国頭は県外出荷にも力を入れ始めました。現在では東京都の大田市場への出荷に加え、ECサイト「魚ポチ」も活用しています。魚ポチは飲食店向けサイトであることから、県内外の飲食店の間でJF国頭の知名度向上につながっています。 水揚げされたハマダイ(写真提供:JF国頭)水揚げされたツチホゼリ(写真提供:JF国頭)水揚げされたスジアラ(写真提供:JF国頭)県外出荷ルートが確立したことで、県内で魚価が安い場合には県外への出荷量を増やすなど柔軟な出荷調整が可能となり、魚価の安定にも寄与しました。注文状況や相場などを勘案しながら出荷先を決定しているのが、販売担当の池原喜啓さんと枝川博也さんです。 一方、県内飲食店への出荷は、宅配便を活用しています。午前中に出荷した魚介類は、その日の午後には新鮮な状態で飲食店に届けられます。JF国頭では魚種別の個別注文に対応せず、その日に水揚げされた新鮮な魚介類を箱詰めして発送するというスタイルを採用しています。このため販売担当者は、当日水揚げされた魚の写真を「グループLINE」に投稿しています。グループLINEには参加する飲食店からの感想や要望が寄せられ、各店の好みを把握する重要なコミュニケーションツールとなっています。 水揚げされた魚の写真を投稿したグループLINE(画像提供:JF国頭)2025年10月には「やんばるイーユ」(北部の魚)という名称を商標登録し、「やんばるイーユ」のロゴをあしらった幟などの販促ツールも製作しました。これらを飲食店に配布することで、さらなる認知度の向上を目指しています。 海外出荷と「グルクマ」のPRを目指す比嘉さんと池原さんによると、今後の目標は2つあるそうです。1つ目は海外出荷の再開です。コロナ禍以前は、シンガポールや台湾、香港、タイなどへ出荷し、ミシュランで1つ星を獲得したレストランにも定期便で魚を届けていましたが、コロナ禍で航空便が減少したことから出荷は中断しました。こうした経緯を踏まえ、再び海外出荷を目指しています。 2つ目の目標は、定置網で水揚げされる「グルクマ」の普及です。グルクマはサバの仲間で、「鮮度が落ちやすい」という特徴があり、シャーベットアイスを活用しても通常の魚より鮮度保持が難しい魚です。そのため長年、「おいしさを知っているのは地元の漁業者だけ」という状態が続いていました。 グルクマ(写真提供:JF国頭)こうした状況を受け、JF国頭では試行錯誤を重ね、2025年4月にグルクマのなまり節「グルクマくん」を商品化しました。チャンプルーに使ったり、チーズと合わせたりしてもおいしいと評判です。 グルクマのなまり節「グルクマくん」JF国頭の取り組みは、シャーベットアイスの導入が業務効率や魚価向上に重要な役割を果たした好例ですが、それだけには留まりません。県内相場の的確な把握や、グループLINEを活用した飲食店との積極的なコミュニケーションなど、販売担当者による手間を惜しまない努力にも注目が集まります。 新技術の導入と積極的なコミュニケーションという両輪で、地理的な困難を乗り越えてきたJF国頭の戦略は、多くの課題に直面している漁協に大きな示唆を与えることでしょう。 漁協(JF)九州魚市場古江晋也(ふるえ しんや)株式会社農林中金総合研究所調査第二部主任研究員。 専門は地域金融機関の経営戦略の研究ですが、国産食材を生産し続ける人々と、その人々を懸命に支え続ける組織の取材も行っています。 四季折々の「旬のもの」「地のもの」を頂くということは、私たちの健康を維持するだけでなく、地域経済や伝統文化を守り続けることでもあります。 現在、輸入食材はかつてないほど増加していますが、地球温暖化や自然災害が世界的な脅威となる中、農水産物の輸入がある日突然、途絶える可能性も否定できません。 豊かな日本の国土や自然を今一度見つめ直し、今一度、農水産物の生産者や生産を支える組織の人々の声に耳を傾けたいと思います。 ▶農林中金総合研究所研究員紹介ページ 著書:『地域金融機関のCSR戦略』(2011年、新評論)このライターの記事をもっと読む
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