水産業の新戦略 高鮮度化・ブランド力強化で単価UP!長崎県北九十九島地区~「浜プラン」農林中金理事長賞の紹介~ 2021.1.5 JF全漁連編集部 印刷する 「浜の活力再生プラン」、通称「浜プラン」は地域ごとの特性を踏まえて、漁師や漁協(以下JF“じぇいえふ”)、市町村などでつくる組織(地域水産業再生委員会)が自ら立てる取組計画。 その地域の人たちが自分たちで課題と解決策を考え、業界を越えた連携もしながら取り組む、ボトムアップの水産政策だ。 ▼浜プランについてはこちらの記事で 大臣賞など決定!「浜プラン」で所得UP 今回は、主要魚種のカタクチイワシと養殖トラフグの付加価値向上、異業種連携により魚価UPに成功した、長崎県北九十九島地区の事例を紹介する。 北九十九島地区は、昨年度の「浜の活力再生プラン優良事例表彰」で農林中金理事長賞を受賞した。 浜プラン.jpコラムから転載▼ 組織名:北九十九島地域水産業再生委員会 構成メンバー: 九十九島漁業協同組合(JF九十九島)、佐世保市 地域:北九十九島地区 漁業種類:まき網漁業、一本釣漁業、船びき網漁業(ごち網等)、養殖漁業 日本有数の煮干し・いりこ生産長崎県佐世保市にある九十九島は、208もの島々とリアス式海岸による複雑な海岸線がおりなす美しい景観が人気の観光地として知られている。 九十九島地域の北部に位置する北九十九島地区では、アジ・サバ・イワシ等を対象としたまき網漁業、タイ・イサキを対象とした一本釣漁業、ごち網等の漁船漁業がおこなわれている。 特に、まき網漁業により漁獲されるカタクチイワシを原料とした煮干し加工業は、日本有数の生産量を誇っており、従事者も多い。 しかし、魚価安や、海水温上昇によりイワシ漁場が遠くなったことに伴う燃油使用料の増加が、漁業者の経営を圧迫している状況にあった。 カタクチイワシの高鮮度化で煮干し単価向上を目指すそこで、当地区の漁業者たちは、良品質な煮干しを生産することで、煮干し単価の向上を目指すべく、「原料であるカタクチイワシの高鮮度化」に取り組むことにした。 煮干し製品の品質は、加工技術以上に原料であるカタクチイワシの鮮度に左右される。 そこで、カタクチイワシの漁獲後から水揚げまでの氷の使用量を増やし、氷水の撹拌作業を徹底することで、高鮮度の原料供給に努めた。 その結果、高品質な煮干しの生産にもつながり、2018年度の煮干しの平均単価は、2013年度に比べておよそ1.3倍以上となるなど、煮干し単価の向上に成功した。 養殖トラフグを独自ブランドにまた、北九十九島地区では、もう一つ別の取り組みも行った。 当地区では、複雑な海岸線が作り出す穏やかな潮流を活かした魚類養殖も盛んだ。 なかでも、養殖トラフグは全国有数の生産量を誇る。 2014年の統計では、当地区のある佐世保市の養殖フグの収穫量は全国2位。 しかし、水揚げされたトラフグの多くは、山口県下関市の市場へ「ノーブランド」で出荷されていた。 そこで、当地区の若手生産者を中心に、市などと協力して、地元の特産品であるミカンを餌に混ぜるなど独自の商品化を追求。 「九十九島とらふぐ」としてブランド力強化を目指した。 ▶「九十九島とらふぐ」についてはこちら 企業と連携して地元に「九十九島とらふぐ」を食べる文化をJF九十九島の漁業者たちは、「九十九島とらふぐ」を地域ブランドとして定着させるために、まずは地元での認知度アップを図ろうとした。 そこで目を付けたのが、「キリン絆プロジェクト」。 本プロジェクトを活用し、キリン株式会社による広報面や販路拡大の支援のもと、JF九十九島と佐世保市が連携・協力して、「九十九島とらふぐ」の市内向けキャンペーンを行った。 この活動では、市内のホテルや居酒屋への活魚・加工品の出荷や店頭販売等を行い、地元の人に「九十九島とらふぐ」を食べる習慣を作ってもらうことを目指した。 この活動は、佐世保市の他の特産品である赤マテ貝、世知原茶とともに、より規模の大きなブランド力強化プロジェクトへと拡大している。 「九十九島とらふぐ」を全国展開、認知度アップへ地元での取り組みをベースに、「九十九島とらふぐ」の全国展開にも注力した。 これまで、「九十九島とらふぐ」は、山口県や関西などを中心に出荷されていた。 そこで、横浜レンガ倉庫や、東京都内の長崎県アンテナショップ「日本橋長崎館」など、首都圏でも試食販売やPRを行い、認知度向上に努めた。 これらの取り組みが実を結び、新聞・テレビにも取り上げられ、全国的な認知度獲得に成功しつつある。 販売実績も順調に伸び、トラフグの平均単価も浜プランを策定した2014年以降、大幅に改善している。 「絆」の力で販売強化、単価向上に成功北九十九島地区では、漁業者と漁協、市、県が一体となって、企業等とも連携しながら、カタクチイワシの鮮度向上や養殖トラフグの付加価値向上、販売強化に取り組み、単価UPに成功した。 第2期浜プランにおいても、煮干し原料の鮮度保持のため、安定的な氷の供給を図る製氷工場の増設等に取り組む。 また、国の事業等をを活用し、「九十九島とらふぐ」の料理を提供する飲食店を発信するなどして、ブランド力の強化に注力している。 認知度向上、所得UPのため、北九十九島地区の漁業者たちは努力し続ける。 浜プラン九州JF全漁連編集部漁師の団体JF(漁業協同組合)の全国組織として、日本各地のかっこいい漁師、漁村で働く人々、美味しいお魚を皆様にご紹介します。 地域産業としての成功事例や、地域リーダーの言葉から、ビジネスにも役立つ話題も提供します。 SakanadiaFacebookこのライターの記事をもっと読む
話し合いで風通しのよい漁村づくり、担い手確保へ 山口県下関市豊浦地区~「浜プラン」共水連会長賞の紹介~「浜の活力再生プラン」、通称「浜プラン」は地域ごとの特性を踏まえて、漁師や漁協(以下JF“じぇいえふ”)、市町村などでつくる組織(地域水産業再生委員会)が自ら立てる取組計画。 その地域の人たちが自分た2021.2.19水産業の新戦略JF全漁連編集部
「淀川河口域を考える会」の議論を通じて干潟の再生を実現 ~JF大阪市による淀川河口域再生の取り組み~大阪市漁業協同組合(以下、JF大阪市)は、2019年から淀川河口域に浜をつくり、浜の恵みを享受するとともに、皆で楽しむことを目指して、「淀川河口域を考える会」(以下、考える会)を開催しています。この会2024.9.9水産業の新戦略田口 さつき(たぐち さつき)
「地産地消」に力を入れるJFやまがた由良水産加工場の取り組み山形県漁業協同組合(以下、JFやまがた)の由良水産加工場(以下、加工場、所在地:鶴岡市)は、地元の庄内浜で水揚げされた魚介類を使って、真いかの塩辛や一夜干し、真鯛や口細カレイの一夜干しなどを製造してい2025.6.18水産業の新戦略古江晋也(ふるえ しんや)
地域でつくる「答志島トロさわら」~基準徹底でハイブランド化実現~「サワラ」は、魚へんに春(鰆)と書き、春の季語にもなっています。 しかし、三重県答志島(とうしじま)の漁師は、伊勢湾のサワラは「秋から冬が旬」と考えてきました。 答志島(とうしじま)のサワラは、このと2020.7.8水産業の新戦略田口 さつき(たぐち さつき)
環境変化に直面する浜名湖とJF浜名雄踏支所の今静岡県西部地域に位置し、浜松市と湖西市にまたがる浜名湖は、遠州灘とつながる汽水湖です。そのため「袋網」(または「角立」)と呼ばれる小型定置網漁、夜間に船上からモリやすくい網で魚やエビ、カニを漁獲するタ2024.9.17水産業の新戦略古江晋也(ふるえ しんや)
マダイは春の大切な食材 ―持続可能な漁業を目指すJF勝山の取り組み―東京湾の入り口に面する千葉県の勝山港では、四季折々にさまざまな魚介類が水揚げされます。なかでも桜が咲く時期に漁獲されるマダイは、色の美しさや魚体のよさが評価されてきました。このマダイは鋸南町勝山漁業協2022.6.30水産業の新戦略田口 さつき(たぐち さつき)