話し合いで風通しのよい漁村づくり、担い手確保へ 山口県下関市豊浦地区~「浜プラン」共水連会長賞の紹介~

「浜の活力再生プラン」、通称「浜プラン」は地域ごとの特性を踏まえて、漁師や漁協(以下JF“じぇいえふ”)、市町村などでつくる組織(地域水産業再生委員会)が自ら立てる取組計画。

その地域の人たちが自分たちで課題と解決策を考え、業界を越えた連携もしながら取り組む、ボトムアップの水産政策だ。

▼浜プランについてはこちらの記事で
大臣賞など決定!「浜プラン」で所得UP

今回は、現場の声を確実に取り入れるために、工夫をこらして浜プランを策定した山口県下関市豊浦地区の事例を紹介する。
豊浦地区は、昨年度の「浜の活力再生プラン優良事例表彰」で共水連会長賞を受賞した。

浜プラン.jpコラムから転載▼

組織名:豊浦地区地域水産業再生委員会
構成メンバー: JF山口 豊浦統括支店(豊浦、二見、粟野、阿川、肥中、特牛、和久、矢玉、豊浦室津、小串、川棚、湯玉 以上12支店)、JF山口 本店
地域:下関市豊浦地区
漁業種類:一本釣り漁業、採介藻漁業、刺網・建網漁業、延縄漁業、小型定置網漁業など

豊かな漁場、漁村の悩み

山口県西部、響灘に面する豊浦地区。
この地区は、豊浦(統括支店)、二見、粟野、阿川、肥中、特牛、和久、矢玉、豊浦室津、小串、川棚、湯玉の計12の漁村に分かれており、それぞれに漁協(以下、JF)の支店がある。
多くの島々や岩礁、そこに流れ込む関門海峡の潮流の影響で、古くから優良な漁場として漁業が栄えてきた。
一本釣りの他、刺し網・建網、採介藻、養殖など多様な漁業が営まれており、ケンサキイカ、イサキ、マアジ、ヒラメ、フグ、アワビ、サザエ、ウニなどの水産物が漁獲される。

一方で近年は、魚価の低迷や船の燃料代などが漁業経営に大きな打撃を与えている。
さらに漁業者の高齢化・減少も進んだことから、漁村地域の衰退が懸念されていた。

悩み解決の第一手!第1期浜プランで担い手対策、経営改善

豊浦地区では、このような悩みや課題の解決のための初めの一手として、第1期浜プラン(活動期間:2014~2018年度)を策定・実践した。
第1期浜プランに盛り込んだ取り組みは、収入向上や担い手対策。

新たに漁業に就業した人向けに住宅の確保などの支援を行う「担い手育成部会」の設立や、地区の特産品であるケンサキイカのブランド「下関北浦特牛イカ」の販路拡大のための普及活動など、具体的な活動計画を立て地域漁業の存続を図った。

漁師から行政まで「話し合い」で浜プランをレベルアップ、第2期浜プラン

第1期浜プランの実践では一定の成果がでた。しかし、担い手の確保・定着などまだまだ課題は残されていた。
そのため、豊浦地区では第2期浜プラン(2019年~)の“つくり方”を工夫してみることにした。
第1期浜プラン策定の際、「策定にかかわる行政や漁協の担当者が現場の要望を把握しきれておらず、政策に反映されていないのでは」という意見があったのだ。
浜プラン立案の際に各地域で事前に話し合いを行い、きめ細かな施策をつくる必要性が指摘された。

そこで導入したのが「支店会議」。豊浦地区内の12漁村(支店)ごとに、漁師とJF・行政など浜プラン策定にかかわる担当者が直接「話し合い」をする場を開いた。
この「支店会議」には水産大学校の教員もオブザーバーとして招き、専門家の意見も交えながら、それぞれ地域の漁業の経営戦略について意見交換を行った。

現場の声を浜プランに確実に取り入れるために工夫をこらしたこの取り組みは、全国でも珍しい事例として評価された。

地区内の連携で新規就業者定着へ

「支店会議」の話合いにより、豊浦地区では、新規就業者を定着させるための取り組みについて地区内の漁村どうしで連携を図ることで合意した。
山口県では、新たに漁業に就業した方がベテラン漁師のもとで研修を行う制度を導入している。
それまでは一人のベテラン漁師が一人の新規就業者を独立まで指導し続ける仕組みだったが、豊浦地区内の漁村をまたいで複数のベテラン漁師が指導に当たることにした。

そうすることで、新規就業者はさまざまな漁法や技術を学ぶことができる。
新規就業者がより安定して漁業を続けるために、多様な漁法を知ることはリスク分散にもつながる。

この方法で研修を行ったことで、研修を終えた新規就業者の約8割が、独立後も豊浦地区の漁業に定着しているという。

「担い手支援日本一」をけん引する地域へ

新規就業者の定着に成果を上げた豊浦地区では、ほかにもブランド力強化や販路拡大、資源管理対策なども第1期浜プランから継続している。
研修を終え定着した若手の漁師たちの将来を見据え、地域の水産業全般の振興に貢献する活動を展開している。

新たに漁業に就業する人たちへの支援が手厚く、「担い手支援日本一」を掲げる山口県。
現場の声を反映した柔軟な制度運用を行った豊浦地区は、この「担い手支援日本一」をけん引する。

  • JF全漁連編集部

    漁師の団体JF(漁業協同組合)の全国組織として、日本各地のかっこいい漁師、漁村で働く人々、美味しいお魚を皆様にご紹介します。 地域産業としての成功事例や、地域リーダーの言葉から、ビジネスにも役立つ話題も提供します。 SakanadiaFacebook

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