「銚子のつりきんめ」に千葉の酒   文&写真:吉村喜彦

銚子は魚のまちとして有名だ。

沖合には寒流と暖流の潮目があり、
そこに利根川からの淡水も混ざり合い、
植物プランクトンが大量に発生する。

そのプランクトンを狙ってイワシなどの小魚が集まり、
小魚たちを追いかけてサバ、カツオなどがやってくる。

なので、銚子で上がる魚は種類が豊富で、
じつにバラエティーに富んでいる。

なかでもキンメダイは銚子のスター。

東京豊洲市場でトップクラスの評価で、
仲卸のあいだでは、
「銚キン(銚子のキンメダイ)」
とリスペクトを込めて呼ばれている。

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キンメダイは深海魚。
銚子・外川(とがわ)支所のキンメダイ漁場は犬吠埼の南南東50キロの沖合。

水深300~500メートル。
底立縄(そこたてなわ)と呼ばれる一本釣り漁法によって、
1尾ずつ丁寧に釣り上げられている。

港から漁場までは1時間半。
かつては我先にと急いだそうだが、
いまはエンジンを吹かさず、わざわざ3時間ほどかけて行く。

「燃料もくわない。エンジンの消耗もない。安全面でもいいからです。
いまは朝まずめ(かわたれどき)を狙って操業をはじめるので、
朝日が昇る前に漁場に着けばいいんです」
と外川の漁師は言う。

操業は夜明け前からはじまり、
その日の午前中には市場で入札できるようにしている。

また、獲りすぎないよう漁具の縄の数は乗組員プラス1本(たとえば二人乗りならば、3本の縄)。
釣り針の数は1縄あたり60本。
操業時間は1日3時間以内に制限。
全長25㎝以下のキンメダイを獲った場合は再放流するようにしている。
違反があった場合には罰則もつくった。

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外川支所のスローガンは「少なく獲って、高く売る」

漁師たちは、すべて自分たちの頭で考え、おのれの身体で変革してきた。
小難しい言葉を使う、無責任なコンサルタントなどの力は一切借りていない。

そのことがじつは自信にもつながっている。
資源を守りながら、愛情をこめて大切に扱う銚子のキンメダイは、
「銚子のつりきんめ」として、
2013年に千葉ブランド水産物生鮮第一号に認定され、商標登録もされた。

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そんな「銚子のつりきんめ」を外川の寿司屋では、炙って握る。

塩でいただくと、これがまた上品な脂がのっていて、たまらない。

ひとくち頬ばると、甘い香りにつつまれた白身肉がすーっと溶けていき、
豊かな味わいが広がっていく。

春がもうすぐの今の季節。
千葉の酒「寒菊 OCEAN99シリーズ 凪〜Spring Misty 純米大吟醸 うすにごり無濾過生原酒」
を合わせるのはいかがだろう。
少し日が長くなりはじめた日々、
水面にきらめく陽光をイメージしてつくった酒だという。

精米歩合50%。
雑味が少なく、やわらかく、すっきりとした味わい。
ほのかな甘みと引き締まった酸味にメリハリがあり、後口もすっきり。

微発泡のこの酒は、
炙ったキンメダイや甘辛い煮つけにぴったり。

早春におすすめのペアリングだ。

文&写真:吉村喜彦

  • 吉村 喜彦(よしむら のぶひこ)

    1954年大阪生まれ。京都大学教育学部卒業。サントリー宣伝部勤務を経て作家に。 著書に、小説『バー堂島』『バー・リバーサイド』『二子玉川物語』『酒の神さま』(ハルキ文庫) 『ビア・ボーイ』『こぼん』(新潮社、PHP文芸文庫)『ウイスキー・ボーイ』(PHP文芸文庫) ノンフィクションでは、『漁師になろうよ』『リキュール&スピリッツ通の本』(ともに小学館) 『マスター。ウイスキーください〜日本列島バーの旅』(コモンズ)『オキナワ海人日和』(三省堂) 『食べる、飲む、聞く 〜沖縄・美味の島』(光文社新書)『ヤポネシアちゃんぷるー』(アスペクト)など多数。 NHK-FMの人気番組「音楽遊覧飛行〜食と音楽でめぐる地球の旅」の構成・選曲・DJを長年つとめた。 現在、月刊「地域人」で全国の漁師を取材する「港町ブルース」を連載中。

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