浜のリーダーを育てる「大輪田塾」~兵庫県の水産関係組織とJF系統が手を携えて~

創立から20周年を迎えた大輪田塾

兵庫県では、「大輪田塾」と呼ばれる、浜のリーダーを育てる教育機関が2005年に設立されました。当時、輸入水産物の増加や魚価の低迷などの課題が山積するなか、若手漁業者と先輩格の漁業者との漁業生産や経営に対する考え方の違いも鮮明化していました。
そこで、次代を担う有能な後継者を育成する場を作りたいという思いから兵庫県漁業協同組合連合会(JF兵庫漁連)、兵庫県庁、一般財団法人兵庫県水産振興基金(以下、振興基金)が連携して、大輪田塾を開設することとなりました。

大輪田塾の講義の様子(写真提供:兵庫県水産振興基金)

若手漁業者向けの研修は、多くの都道府県で行われていますが、大輪田塾は20年と長期にわたること、卒塾生が実際に浜のリーダーとして活躍していること、卒塾生の交流の輪が広がり、漁業経営の場でも生かされていること、といった数々の特筆すべき点があります。
ここでは、大輪田塾での教育課程や制度を見つつ、浜のリーダーに求められる資質について考察します。

入塾希望者の意欲や問題意識を事前に確認

大輪田塾に入塾するためには、兵庫県水産業に経営もしくは生活の基盤を有していることと、水産関係法人・組織の代表者の推薦が必要です。また原則として、年齢は45歳未満です。そして、漁業者の場合は漁業歴(就業、または従事)が10年以上、JF関係職員であれば職員歴が10年以上あることが求められます。これらの条件を満たした入塾希望者に対し、振興基金の役職員が面接を行い、本人の意欲や講義出席の可能性を聞き取ります。そして大輪田塾運営委員会(以下、運営委員会)が審査し、入塾の可否を判定します。毎年10月頃に入塾式と修了式が同時に開催されます。

在籍期間は原則2年間ですが、漁業の季節性などを考慮して3年以内となっています。この期間内に塾生は、基礎課程10単位、専門課程20単位の合計30単位を取得しなければなりません。基礎課程のうち、漁業法など漁業を営む上で土台となる制度や法律について学ぶ講座は必修で、5単位分あります。
専門課程のうちの5単位が修了論文に配分されており、塾生は、自分の関心事を深く掘り下げ、修了論文に仕上げ、毎年9月頃に水産関係者の前で発表します。
講義は毎月1回、多くの塾生が参加しやすい火曜日の午後に毎回2コマ分(1コマが90分)が主に兵庫県水産会館(明石市)で開催されています。これに加え、施設見学や県外研修なども開催されています。

兵庫県水産会館の外観
2025年度は豊洲市場を見学(写真提供:兵庫県水産振興基金)

大輪田塾を支える組織

兵庫県内の水産関係組織はそれぞれの得意分野を提供し、大輪田塾を支えています。例えば、兵庫県庁は水産に関する法律などの講師を、系統団体は信用、共済などそれぞれの事業内容について説明する講師を派遣します。
ところで、修了論文という難関があるにもかかわらず、入塾生が卒塾できている要因の1つには、大輪田塾では塾生に助言を行う指導員制度を設けていることが挙げられます。指導員は兵庫県庁やJF系統団体の職員が担当し、入塾生には初年度の4月に指導員が紹介されます。
入塾希望者の審査、年間スケジュールおよびカリキュラムの内容についての審議、修了時の審査など、公平性や専門性を保つために、5人の委員と2人のアドバイザーから成る運営委員会が設置されています。運営委員には、振興基金の理事長(大輪田塾の塾長)だけでなく、外部の学識経験者、兵庫県庁の職員が任命されています。
そして、振興基金は、塾生の関心事も踏まえ、カリキュラムを組みます。また、運営委員会や指導員会議、各種の行事の開催も担います。振興基金が大輪田塾の運営に関する経費を負担するため、塾生は授業料などを気にせず、勉学に打ち込めます。

カリキュラム作成の工夫

大輪田塾の講義は、入塾年度が違う塾生も一緒に受講できるようになっています。基礎課程の必修科目である漁業法などの講義は特に重要なので毎年開催されますが、基礎課程の選択科目は、在籍期間内で科目の重複がないように設計されています。
例えば、系統事業に関する科目であれば、ある年は信用事業、その翌年は共済事業というように開設して、重複を避けています。運営委員の田和正孝さんが創立20周年にあたり、卒塾生(2025年11月時点で89人)にアンケートを行ったところ、基礎課程の必修科目の「漁業法概要」、「水産業協同組合法概要」の2科目が「興味深かった、役に立った講座科目」として上位になりました。
また、振興基金では講師を選定し、出講の依頼をしています。さらに運営委員会の意見を踏まえ、新たな講座開講の準備も行います。
振興基金の池田敬剛さんは、「自分自身、学ぶことが多いです。特に塾生や卒塾生である漁業者や漁協・系統団体の職員の皆さんとの交流は自分の財産になっています」と語ります。

兵庫県水産振興基金で大輪田塾事務局を担う天川源さん(左)と池田敬剛さん(右)

卒塾生の活躍

卒塾生は、大輪田塾での経験を通し、自分の考えをまとめ、表現する力が向上します。
例えば、17期生である糸谷謙一さんは、2025年11月に開催されたJF大阪市主催の第8回「淀川河口域を考える会」で、所属するJF兵庫の有志で行う兵庫運河の再生の取り組みを発表しました。冒頭で防人(さきもり)としての漁業者の役割について、「食料の安定供給」、「国境監視」、「海洋保全」と紹介しました。特に3番目の海洋保全については、大輪田塾の講義を受け、自身の兵庫運河での活動と重なったと糸谷さんは考えています。
また、「森・海・川のなかに『都市』という視点が必要であり、漁業者と行政、教育機関、企業、地域市民が手を携えて活動をしていく」ことの大切さを伝えました。
発表の締めくくりで「淀川河口域が大阪湾、瀬戸内海にとって重要である」ことも指摘し、参加者に多くの気づきを与えました。

第8回「淀川河口域を考える会」で発表する卒塾生の糸谷謙一さん

田和さんは、塾生の修了論文を分析し、水産資源の管理において、塾生は操業を通じて獲得した「伝統的な生態学的知識」(Traditional Ecological Knowledge)だけでなく、調査・実験によって獲得する「科学的な生態学的知識」(Scientific Ecological Knowledge)に基づいて思考していることに注目しています。
この2つの知に基づいた漁業者の考えは、漁業を知らない人々にもわかりやすく、さらに、含蓄に富んだ情報が多く含まれています。

浜のリーダーに必要な資質とは

大輪田塾は、少数精鋭かつ対面を基本としており、塾生は講義が開催される兵庫県水産会館まで足を運んで受講します。
近年、オンラインでの開催などの提案もありますが、大輪田塾関係者は塾生が席を並べて学ぶことで生まれる「化学反応」を重んじています。
また、日本海側の塾生がより参加しやすくできないか、卒塾生が参加できる講義があれば参加したいといったさまざまな要望もあります。

塾生が休憩時に眺める海と明石海峡大橋

大輪田塾の運営については、時代の変化とともにいろいろな議論がなされるかもしれません。
しかし、以下に掲げる大輪田塾の理念は今後も変わらないでしょう。それは、設立時の問題意識を強く反映したものであり、浜のリーダーに必要な資質を表現しています。そして、兵庫県水産関係者が目指し、塾生が実践してきた考えそのものだからです。

【大輪田塾の理念】
1.自然環境の望ましい活用方策、変化する社会経済構造への対応を提示し、実践する能力を培うとともに、状況に応じた適切な判断力と責任を持って行動する能力を養う。
2.専門的な知識・技術を身につけるとともに、自発的に課題を探求し、問題を解決する論理的な思考能力を開発する。

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【参考文献】
・一般財団法人兵庫県水産振興基金(2025)「大輪田塾 創立20周年記念誌」
・田和正孝・西詰宗弘・戎本裕明(2017)「浜のリーダーを育てる『大輪田塾』の活動」、地域漁業研究第57巻、第3号、pp.17-27

  • 田口 さつき(たぐち さつき)

    農林中金総合研究所主任研究員。専門分野は農林水産業・食料・環境。   日本全国の浜を訪れるたびに、魚種の多さや漁法の多様さに驚きます。漁村には、お料理、お祭り、昔話など、沢山の文化があります。日本のなかには一つも同じ漁村はなく、魅力にあふれています。また、漁業者は、日々、天体、潮、海の生き物を見ているので、とても深い自然観を持っています。漁業者とお話をしていると、いつも新たな発見があります。   Sakanadiaでは、そんな漁業者の「丁寧な仕事をすることで、鮮度の高い魚介類を消費者の食卓に届けよう」という努力や思いをお伝えできればと、思っています。   ▶農林中金総合研究所研究員紹介ページ

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