【特集 特別座談会】「SDGsから未来の海を考える」前編1/2

この情報は、北海道漁業協同組合連合会(JF北海道ぎょれん)からの提供です。

前後編を、それぞれ2回にわたって公開します。
以下、前編1/2回目をお届けします。

※前編2/2回目はこちら

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<出席者>
さかなクン / JF全漁連 魚食普及推進委員
渋澤温之氏(以下、渋澤専務) / パルシステム生活協同組合連合会 代表理事専務 
三浦秀樹氏(以下、三浦常務) / 全国漁業協同組合連合会 常務理事 
安田昌樹氏(以下、安田専務) / 北海道漁業協同組合連合会 代表理事専務(進行)

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安田専務 
早速ですが、まずは日本の漁業の現状と世論や国の考え方などを全漁連の三浦常務からお願いします。

三浦常務
まず、日本の漁業生産についてお話しすると、総漁獲量は1984年にピークを迎えるとその後はずっと減少し続け、2020年時では423万トンとピーク時の3分の1にまで減少しています。ですがその実態を詳細に見ると、減少は遠洋漁業とマイワシが主な原因で、それ以外の沿岸漁業、沖合漁業、海面養殖業、内水面漁業の生産量はほとんど変動していません。

その原因の一つ、遠洋漁業の生産量は、1970年代の後半から各国が相次いで200海里水域を設定したことで日本の漁船がそれまでの漁場から締め出された結果、大きく減少しました。他方、マイワシの漁獲量についてはレジームシフト(数十年間隔で起こる水温を始めとする気候変動)の影響を強く受けて、ピークの449万トンから大きく減少したことが原因で、これらの影響を除けば日本の漁業・養殖業の生産量には極端な変動が見られていないのが現実です。

JF全漁連の三浦秀樹常務

また、マイワシを除いた沿岸漁業は1988年以降、2010年までの20年以上、おおよそなだらかに減少しながらも140万トン前後でずっと推移していました。それが2010年以降、海洋環境の激変により急激に減少し、2020年では74万トンと10年間で約50万トンも減少します。

10年前までの長期的ななだらかな減少の原因の一つに挙げられるのは、高度経済成長以降に行われた沿岸域の開発です。埋め立てなどにより沿岸域にあった藻場・干潟が4割も無くなり、加えて護岸工事等によって森からの栄養塩が海に届かなくなるなど、様々な要因や影響によってアサリを始めとする底生生物、それから魚の稚魚のゆりかごとなっている藻場が減少したことがボディブローのように効いてきて、生物多様性が失われてしまった。こうしたことを要因として徐々に徐々に日本の漁業生産量は減少してきたということです。

こうしたなか、最近は漁業者から海の状況が変わったという声がかなり聞こえます。若手漁業者を中心にアンケートを行ったところ、「漁期が変化してきた」、「南方系の魚が獲れるようになった」など、毎日のように海に出ている漁師のうち、何と96.4%が海洋環境の変化を感じていると答えました。国はこういう事実をしっかりと受け止めながら、現場の声を聞く必要があると我々は考えています。

国内漁業・養殖業の生産量の推移

これら海洋環境の変化による漁獲量の大幅な減少というのは、水産食糧の安定供給という観点からも、漁師や沿岸地域の住民だけの問題ではなく、国民全体の脅威となっている、というのが私たちの今の認識です。そして今年の3月、これからの10年間を見据えた水産基本計画が作成されました。そこでようやく国も私たちJFグループがずっと主張し続けてきた海洋環境の激変が資源減少の原因の一つであるとし、計画の前書きにしっかりと記述されると共に、海洋環境の変化を前提とした資源管理を推進していくということになりました。他にも来遊漁をフル活用する魚種転換や養殖業の導入など、沿岸漁業の存続をかけた対応や取組が盛り込まれ、国はこの1~2年の間で「海洋環境の激変を前提とした様々な取組が重要である」という考え方に転嫁してきた、というのが現状だと思っています。

安田専務 
ありがとうございました。今、三浦常務からお話のあったことを踏まえて、今日は「SDGsから未来の海を考える」というテーマで対談を進めたいと思っています。

まずはパルシステムさんから。パルシステムさんは、2017年の12月に政府が新設した「ジャパンSDGsアワード」において、内閣官房長官賞を受賞しました。40年以上の歴史を持つ独自の産直が目指してきたのは、「産地も地域も環境も守っていける持続的な取組」であると伺っていますが、そうした取組について渋澤専務お願いします。

渋澤専務 
今、三浦常務のお話を聞いて、海洋環境が大変な状況だということを改めて感じました。そのうえでSDGsの話をするには、出発点をどこに置くかによって全然捉え方が違ってきます。私たちが1990年代から行ってきた産直の取組について、何を目標に掲げ、何を進めてきたのか。そして、2017年時に今後の計画を含めて検討したなかで、私たちの到達点そのものがSDGsで掲げている2030年の開発目標であり、ゴールの姿だとなりました。そのことから私たちは「パルシステム2030ビジョン」という目標を設定しまして、その「ビジョン」でSDGs達成に向けた到達点を評価しながらゴールに向けて進めていこう、と現在活動しています。

パルシステムの渋澤温之専務

水産の話しから少し離れてしまいましたが、私どもが制作している「産直データブック2022」では「持続的な水産業の実現へ」という項目のページがあります。具体的にSDGsの「持続可能」についてどのような形や方法、さらには消費者である組合員をどのように巻き込んで取り組んでいるのか紹介しています。先ほど出発点をどこに置くかとお話しをしましたが、組合員をしっかり迎え入れて、一緒になって進めなければならないということです。現在、道内のえりも漁協さん、釧路市漁協さん、野付漁協さん、船泊漁協さんをはじめ、全国14の漁協さん・産地さんと産直提携をさせていただいてますが、当初は「海はみんな一緒なのに産直ってどうなのだろう」と議論がありました。ですが、私たちはどこで獲れるのか、誰が獲るのか、そこに敢えてこだわってやってきたところです。

一方で、先ほど藻場の話が出ましたけれども、沖縄県の恩納村(おんなそん)漁協さんとモズクで取引をしていますが、モズクの生産とサンゴを守るという活動を一致付けた取組をしています。具体的にはモズクを利用する度に一点あたり10円をプールして、そのお金を貯めてサンゴの植樹を行うというもので、こうした活動を恩納村漁協と恩納村、それからメーカーさんと生協で一緒になって取り組んできました。

実はこの活動はパルシステムだけではなく、全国32の生協と共に「里海を守る」という共通目的のために取り組んでいます。SDGsを語る上では、具体的に何を目的として取り組んでいくのか、ということが大事ですし、そのことをしっかりと伝えていく必要があります。私どもで言えば、組合員、そして社会に対して発信し続けていくことが非常に大事だということです。

それともう一点、2009年に当時私たちは取引先と一緒に4つの柱で構成される水産方針を作りました。その中の一つ、一番重要だと思っているのが「日本の魚食文化を守る」です。ただ単に魚を獲ったり、売ったりということではなく、食べることによって魚食の文化は守られていきます。獲って、加工して、食べて、そしてその食べた人の声を生産者に返していく。パルシステムとしてはこの循環に力を込めてやってきたところです。

パルシステム「2030ビジョン」のイメージ

安田専務 
ありがとうございます。次にさかなクンの方から日常の活動や千葉県館山市に住まわれて海を身近にするなかで、海洋環境の変化等に関するご意見や、SDGsの関わりについてご紹介お願いします。

さかなクン 
私は元々神奈川県の内陸部に住んでいたのですが、「海の近くに暮らしたい」と、1999年から千葉県の館山市で暮らし、今では地元の漁師さんの定置網漁に週2・3回くらいは同行させていただくようになりました。今年も現時点で73回乗船させていただいています。もう20年余りも漁船に乗せていただいてますが、年々獲れる魚種が変わってきていると肌で感じています。

房総半島は親潮と黒潮の影響がとても強く、沿岸の磯魚も多いですし、底魚等も色んな種類が獲れるのですが、房総というと名産の「なめろう」でよく使われるマアジが非常においしくて代表的なお魚なのですが、近年はとても少なく感じています。

また、館山に暮らして最初の頃は、秋になりますとサケが獲れていました。「迷い鮭」と言うそうで、北海道や三陸を回遊しているサケがごく少数、ブナ模様が出ていたので川に遡上する状態だったと思いますが、房総半島でも定置網に入っていました。

さかなクン

それが2010年の秋、館山では各漁村でサケがものすギョく獲れていたのです。毎朝、もう何トンという感じでした!定置網漁船のクレーンで吊ったでっかいたも網で港に揚げると、網の中がほとんどサケだったこともありました。「こんなに獲れるというのはどういうことなんだろう」と、とてもびっくりしたことを今でも覚えています。

それが翌年の東日本大震災以降、殆ど獲れなくなってしまいました。このこともびっくりで、地元の漁協の皆さまに聞いても震災以降は「一回も見たこと無い」って言うんです。

そして、震災以降増えたのがアイゴです。アイゴは元々温かい海域の磯魚で、徳島県では「アイゴの皿ねぶり」という、あまりにもおいしくて煮魚にするとお皿まで舐めてしまう、そんなお料理があるほどとっても重宝されるお魚なんですけれども、他県ではあまり流通しません。アイゴは背、腹、臀の各ひれ合わせて24本の毒針があるのですが、それさえ取ってしまえば安心で、オニオコゼと同様とてもおいしいお魚です。近年水温が上がってきた影響なのかアイゴが房総半島の海でも増えてきたのです。

今、日本各地で磯焼けが深刻な状況にあるなか、アイゴは少し残った海藻も根こそぎ食べてしまうので、厄介者として扱われることもあります。沢山獲れてますし、食用流通すべきお魚なのに全く流通されないので、そのことが非常にもったいなく感じています。

少しだけ手間は掛かりますが、とげを取って、エラとワタを取ってお配りすると、皆さま「とってもおいしい!」と、すギョく喜んで下さるんですね。獲れてすぐにエラとワタを取れば、独特の磯臭さも感じられなくなるので、お刺身にしても煮魚にしても様々なお料理でとってもおいしいです。そういった食用として注目されずあまり流通されない、いわゆる低利用魚と言われるお魚をもっと活用するのが、とても大切なことと思います。

アイゴの他にもびっくりするのが、沖縄県では“ぐるくん”という名前で県魚としても重要なお魚のタカサゴの仲間が、館山の定置網に入ってくるようになりました。以前は数匹網に入ることは度々あり、「“ぐるくん”が房総まで来るんだ!」とワクワクしていましたが、今だと多いときは400キロ入るダンべ(※)の半分以上が“ぐるくん”というときもあります。それもやっぱり食用としては流通にならない低利用魚という扱いで、おいしいお魚ですので非常にもったいなく感じています。

安田専務 
現地ならではの色々な事情を教えていただき、ありがとうございました。三浦常務からもSDGsに関わるような取組についてお願いします。

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次回につづきます。

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前後編を、それぞれ2回にわたってお届けしています。

前後編を、それぞれ2回に分けてお届けしています。

【特集 特別座談会】「SDGsから未来の海を考える」前後編で公開
【特集 特別座談会】~前編1/2~
【特集 特別座談会】~前編2/2~
【特集 特別座談会】~後編1/2~
【特集 特別座談会】~後編2/2~

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