JF全漁連取り扱い20年「JFシェルナース」大森敏弘専務インタビュー

※この記事は、2021年1月5日の水産経済新聞に掲載されたものです。水産経済新聞社の許可を得て転載しております。

貝殻魚礁として知られるJFシェルナース。海洋建設が開発・製造を手掛け、全国の漁業者にも浸透した。JF全漁連が取り扱いを開始してちょうど20年が経過したことを機に、大森敏弘専務にJFシェルナースが果たしてきた役割や今後の海づくりに向けた取り組みなどを聞いた。

今後の展望を示す大森専務

貝殻魚礁のパイオニア

—JFシェルナースの20年を振り返りたいと思います。これまでに果たしてきた役割をお聞かせください。

大森専務 シェルナースの歴史を説明すると、海洋建設さんが1994年に試験礁を開発したのが始まりです。本会では2000年に取り扱いを開始し、ちょうど20年が経過しました。

JFブランドとして認定し、「JFシェルナース」として展開し始めてからは15年が経過しています。さまざまな面で推進にご協力いただいたJFグループの皆さまや、貝殻パイプの製作に協力していただいた全国の漁業者に改めて感謝申し上げます。

JFシェルナースは、養殖現場のカキなどの貝殻を活用した「貝殻魚礁」のパイオニアです。これまで主に国の公共事業で採用され、全国35都道府県において設置されてきました。

機能的にみると、魚礁内では貝殻の重なりによって複雑な空間が生まれ、そこがエビやカニ、ゴカイといった魚の餌になる小型生物のすみかになります。こうした点が各地の海域で優れた増殖効果を発揮してきました。餌生物の発生に加え、幼魚や稚魚の隠れ場にもなることで保護機能を有し、藻場造成機能などにも優れ、資源増殖や藻場造成、さらには漁業者の所得向上にも貢献してきました。

 

——漁業者自らが製作に関与することも特徴の一つです。

大森専務 先ほども少し触れましたが、JFシェルナースの基質となる貝殻パイプは、全国の漁業者の方が自ら製作をしていただいています。言い換えると、漁業者の方が自ら「豊かな海づくり」に参画していることになります。本来なら貝殻は廃棄物になりますが、再利用することで浜の副次的な収入につながっていることも大きな役割を果たしてきました。

貝殻のリサイクルは「海のものを海に戻す」という大自然の法則にも沿っている取り組みです。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の「目標14」では海洋資源に言及し、この中の2番目のターゲットとして海の豊かさを守るために「海洋および沿岸の生態系の回復のための取り組みを行う」と明記されています。20年果たしてきた役割はSDGsの目標にも通じると思います。

今後は水産分野での役割に加え、貝殻利用技術がもつ安全やエコといった特性を生かし、社会全体のニーズにも応えていきたいと考えています。

豊かな海、所得向上にも貢献

貝殻パイプは漁業者自ら製作

—JF全漁連としても豊かな海づくりに対する取り組みを多角的に進めています。

大森専務 18年12月に漁業法が一部改正され、昨年12月1日に施行されました。水産政策改革が本格的に始まったところです。わが国漁業の成長産業化に向けて水産資源の適切な管理、持続的な利用に向け機運が高まっています。

一方で抱える問題は少なくありません。海水温上昇による魚種の変遷、主要魚種の著しい漁獲減など極めて厳しい状況です。これらの多くの課題解決に向け引き続き尽力し、これまでわが国漁業が果たしてきた各浜での資源管理の取り組みや、これに関連した藻場・干潟保全などの多面的機能を守っていく必要があります。

JFグループとして、国民の皆さまに安全でおいしい水産物を届けるという使命を果たしていくことと併せて、次世代の方にとっても魅力ある漁業を引き継ぐため、豊かな海づくりを今後も取り組みます。新たなJFグループ運動方針でも「水産資源の適切な管理と水産業の成長産業化を両立させた活力ある漁業の構築」を位置付けました。その方策の一つとして、JFシェルナースの取り組みが効果的な手法だと考えています。

重ねて申し上げますが、JFシェルナースは水産資源の増大、藻場造成や漁場造成の改善など、豊かな海づくりに資する機能を多数有し、最近では小型魚礁の「貝藻くん」も加わりました。漁業者自らが設置したうえで海藻の種付け、種苗放流の受け皿とするなどの取り組みも広がっています。培ってきた貝殻利用技術の知見を生かし、浜プランの活用を含めて多方面からアプローチしていきます。

 

—最後に今後についておうかがいします。

大森専務 JFシェルナースは国の水産環境整備事業において、全国各地で継続的に採用していただいています。直近では秋田県(18年)、茨城県(19年)で初採用されました。各浜の漁業者の要望や評価をいただきながら、漁場造成や資源保護に貢献してきたと認識しています。

新たな取り組みとしては、千葉・市原市の海釣り公園施設内への設置(19年)、大阪では都市部の港湾へ基質を設置し、生物多様性の創出を図る環境モデル事業に使用(19年)されるなど、活用の幅が広がっています。

環境省、経済産業省、国土交通省などから20以上の技術評価をいただき、さまざまな分野から評価を受けています。従来の使い方以外にも幅広い取り組みを進め、一般市民にも理解を広げるため小学校や東京湾大感謝祭などの環境イベントなどにも出展し、環境学習の一環としてJFシェルナースをはじめとした貝殻利用技術を役立てていきます。

JFシェルナースは小型の「貝藻くん」から大型魚礁まで、多くラインアップがあり、設置海域や対象魚種、操業形態などに合わせてオーダーメードのような形で要望に寄り添うことができます。事後調査をフィードアップし、PDCAサイクルを回すことができるため、今後も海洋建設さんを含めてJFグループが一体となり、豊かな海づくりの実現に向け、JFシェルナースの発展に取り組んでいきたいと思います。

 

▼事例紹介/現地の声
早期に蝟集効果を確認17、19年に6.0型を設置 福岡・岩屋漁港沖の海域に

 

※この記事は、2021年1月5日の水産経済新聞に掲載されたものです。水産経済新聞社の許可を得て転載しております。

  • JF全漁連編集部

    漁師の団体JF(漁業協同組合)の全国組織として、日本各地のかっこいい漁師、漁村で働く人々、美味しいお魚を皆様にご紹介します。 地域産業としての成功事例や、地域リーダーの言葉から、ビジネスにも役立つ話題も提供します。 SakanadiaFacebook

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