JFレポート 漁業者と研究者が海洋環境の変化などに関する情報を共有―「海洋環境の変化等に関する研修会」レポート― 2022.10.18 JF全漁連編集部 印刷する 近年、SDGs(持続可能な開発目標)に関連する取り組みが活発化し、地球温暖化をはじめとする環境問題などへの関心が世界的に高まっています。そのような中、漁業者の仕事場である「海」では、海洋環境の変化などを要因とする急激な漁獲量の減少や生態系への影響など、さまざまな問題に直面する一方、CO2の吸収源となる「ブルーカーボン生態系」など、水産分野が持つ多面的機能の役割に期待が寄せられています。 JF全漁連とJF全国漁青連は9月9日、これらの海洋環境の変化などに関する情報を漁業者と研究者が共有し、意見交換を行う「海洋環境の変化等に関する研修会」をオンライン併用で開催しました。 研修会はオンライン併用で開催研修会では、主催者を代表してJF全漁連の三浦秀樹常務があいさつし、「全国の浜からは海が変わった、魚が獲れなくなったと悲鳴に近い声が寄せられている。こうした現状を踏まえ、大切な生業の場である海の環境変化に対して正しい知識を持ち、持続可能な漁業を実現するためにどのように取り組んでいけばよいかを考える場として企画した。まずは漁業者と海を研究対象としている専門家の間で情報を共有し、共通認識を持つところから始めたい」と開催趣旨を説明しました。 続いて、5つの講演と参加者による意見交換が行われました。 瀬戸内海を例に沿岸環境の変遷を紹介松田治理事長はじめに、NPO里海づくり研究会議の松田治理事長が瀬戸内海を例として「我が国における沿岸環境の変遷」について講演しました。 瀬戸内海の環境管理の変遷について、松田理事長は「当初は公害対策の規制が中心だったが、近年は豊かな海を目指し、より積極的に人間が自然に関わりながら回復を目指す方向になっている」と指摘。その一方、「水質はかなり良くなったが、生物の生育環境は良くなっておらず、ようやく2015年に瀬戸内海環境保全特別措置法が改正され、瀬戸内海を豊かな海にする方向性が明記された」と語り、瀬戸内海が目指す「豊かな海」や「里海」について、「単なる過去への回帰や郷愁ではない。今後は海の恵みを今までになかったレベルまで多面的に高めていく必要がある」と述べました。 「近年における海の異変」の対応策を説明田中丈裕事務局長続いて、NPO里海づくり研究会議の田中丈裕事務局長が「近年における海の異変」と題し、現在起きている海洋環境の変化等に対応するために重要なことなどを紹介しました。 田中事務局長は、2010年以降の直近10年間に起きている急激な漁獲量の減少について、「国民への安定的な食料供給を担う漁業者にとって大きな脅威となっている。海水温の上昇など、海洋環境の変化に対応していくことが漁業者だけでなく国民共通の課題」と指摘。このような現状を踏まえ、今後に向け、数量管理を基本とした「新たな資源管理」で成果を上げるためには、「環境変化をいち早く知り得る現場の漁業者の声をしっかり聴き、その理解と協力を得た上で取り組んでいくことがなによりも重要。加えて、海洋環境の変化に対して、徹底的な原因究明と実効性ある対策が必要」と語りました。 沿岸域における酸性化・貧酸素化対策を紹介小埜恒夫主幹研究員3つ目の講演では、国立研究開発法人水産研究・教育機構水産資源研究所海洋環境部の小埜恒夫主幹研究員が沿岸域における酸性化・貧酸素化の現状評価と対策の考え方について説明しました。 小埜研究員は、日本財団とNPO里海づくり研究会議による「海洋酸性化適応プロジェクト」の定点観測で得られたデータの分析結果などから日本の沿岸域における酸性化の特性と今後の対策などを説明しました。 水素イオンの濃度の度合いを表すpHに注目すると、「日本の沿岸域では短期的な変動が大きく、このままいくと近い将来、沿岸のpHが短期的に低下した時に一時的に酸性化の影響が現れる可能性が高い」と指摘。これを回避する方策として、沿岸域のpHの変動幅を抑えるような方向に環境をコントロールすることを挙げ、「これまで貧酸素対策として行ってきた方策の多くが、そのままpH低下抑制策としても有効」との考えを示しました。 具体的な方策については、「養殖密度、給餌量の適正化」、「藻場、干潟の造成による沿岸からの懸濁粒子の輸送抑制」などを挙げました。 一方、小埜研究員はこのような対策を講じたとしてもこのまま酸性化が続いた場合、「2100年には日本中の沿岸で、pHが生物に影響するレベルにまで低下することが予測される」と言及。これを回避するためにも「世界中でCO2排出量の削減を続けるとともに、耐性のある生物種への転換、陸上養殖への切り替えなどが必要」と強調しました。 ブルーカーボン研究の成果などを紹介堀正和グループ長4つ目の講演では、国立研究開発法人水産研究・教育機構水産資源研究所社会・生態系システム部の堀正和グループ長がブルーカーボンに関する研究の成果などについて紹介しました。 ブルーカーボンは、海藻などの海洋生物に取り込まれた大気中CO2由来の炭素のこと。海底に貯留されるCO2由来の炭素の約8割は、海草藻場、海藻藻場、湿地・干潟などの沿岸浅海域(ブルーカーボン生態系)に存在していますが、ブルーカーボンの吸収源は森林の減少率よりも高い減少率で消失しているため、早急な対策が必要となっています。 堀グループ長は、漁業者が行う藻場再生、藻場拡大などの漁場整備や海藻養殖などについて、「これらは気候変動対策の有効な手段の一つ」と評価し、漁業者の活動が脱炭素社会の構築に与える影響の大きさを指摘しました。 また、ブルーカーボンを対象とするカーボンクレジット制度(CO2など温室効果ガスの排出削減量を、主に企業間で売買可能にする仕組み)についても紹介され、「これを行うことによって、ブルーカーボン生態系の新しい価値や産業(化石燃料代替のバイオマス製品)が創出される」との見解を示しました。 青年漁業者によるブルーカーボンに関する活動を紹介川畑友和会長(中央)と袈裟丸彰蔵理事(左)続いて、JF全国漁青連の川畑友和会長と袈裟丸彰蔵理事が地元で取り組んでいるブルーカーボンに関する活動を紹介しました。 川畑会長は、地元で行っているアマモ場の造成の活動を紹介するとともに、鹿児島相互信用金庫との持続可能な開発目標(SDGs)を目指す取り組みや、セブンイレブン記念財団と指宿市、JF山川町との3者間協定におけるブルーカーボンに関する企業との連携などについて紹介しました。 袈裟丸理事は食害生物の駆除などを行うことによって、アカモク、アラメなど多種多様な海藻が増え、磯焼けした浜を回復させたことを紹介し、取り組みを継続する重要性を強調しました。 講演のまとめとして、川畑会長が「藻場造成活動は時間も労力もかかるので、青年部として体力がある今、取り組んでいくことがベスト。青年部同士、わからないことや情報を共有することで助け合いながら、豊かな海を目指していきたい」と語りました。 オンラインを含めた参加者全員が意見交換専門家、JFグループ関係者、オンライン参加者が意見交換最後に、オンラインを含めた参加者全員による意見交換が行われ、米国・ワシントン大学の太田義孝教授が世界中の海で、海洋熱波や酸性化の影響による自然環境の変化などが起きていることについて話題提供を行いました。 太田教授はこれまでの講演内容を踏まえ、「日本の漁師は意識が高い。我々研究者と協力しながら、危機を乗り越え、世界をリードするかたちで頑張ってほしい」と語りました。 このほか、研究者からは「青年漁業者による横の情報共有で、活動の広域化・効率化を図ってほしい」、「現場の取り組み内容の報告が国や研究機関まで上がってこないので、施策に反映しきれていない」などの意見が多数上がり、活発な情報交換が行われました。 JF全漁連漁協(JF)研修JF全漁連編集部漁師の団体JF(漁業協同組合)の全国組織として、日本各地のかっこいい漁師、漁村で働く人々、美味しいお魚を皆様にご紹介します。 地域産業としての成功事例や、地域リーダーの言葉から、ビジネスにも役立つ話題も提供します。 SakanadiaFacebookこのライターの記事をもっと読む
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