JF春木の若い漁業者と地域社会の接点づくり

若者の未来のため、地域との関係づくり

大阪府岸和田市の春木漁業協同組合(以下、JF春木)は船びき網漁業、中型まき網漁業が中心であり、これらの漁業に従事する若い後継者、漁業従事者が多い組合です。JF春木の代表理事組合長である中武司さんは、若い漁業者の未来のために、地域社会との関係づくりに意欲的に取り組んでいます。

特に、岸和田市地蔵浜で毎週日曜日に開催される「地蔵浜みなとマルシェ」(以下、マルシェ)に欠かさず出店し、管内で漁獲されるタコの揚げ物を定番商品として販売しています。若い後継者は2人1組がチームとなってマルシェの担当となり、タコの揚げ物の調理から出品されている魚介類の販売までを行います。またJF春木では、若手の漁業者を中心に近年、マガキ養殖にも取り組み始め、地元での認知度向上を目指しています。

ここでは、地域の賑わいを取り戻し、地域の人々との交流を促進するためのタコの揚げ物の提供と若者の漁業収入向上のためにマガキの養殖に取り組むJF春木の活動について紹介します。

JF春木の皆さんの集合写真(組合建物前)(JF春木提供)

JF春木の地先でとれたタコの揚げ物

マルシェは、2015年から大阪湾の漁業や魚介類の認知度の向上と賑わいの創出のため、泉州地域の漁協が参加し、毎週日曜日に開催されています。JF春木では、イカナゴ・シラスの加工品、カレイなどのほか、管内でとれるタコの揚げ物を販売してきました。特に串揚げにしたタコの天ぷらは、手頃な価格で食べ歩きができることから、いつしか定番の商品となりました。

原料となるタコはJF春木管内においてタコ壺やタコ籠を用いて漁獲されたものです。現在は組合員4人ほどが、船びき網漁業などの合間に漁具を仕掛けます。JF春木の周辺の海はエビやカニといったタコの餌になる生物がいます。漁業者は漁具を投入してから1週間程度で壺や籠に取り付けたロープを引き上げます。ただ、漁場が陸域に近いことなどから、遊漁者のものと思われるルアーなどがロープに引っかかり、漁業者がケガをしそうになることもあるそうです。

JF春木ならではのタココロッケ

冷凍したタココロッケ

採捕されたタコはJF春木が全量買い上げます。JF春木では2022年からタコのコロッケの委託製造を始めました。それまでは大阪湾のタコを原料にしたタココロッケを仕入れてマルシェで販売していましたが、仕入先が製造を取りやめることとなりました。タココロッケはタコの天ぷらとともに、マルシェの人気商品であったことから、JF春木事務局長の永井正則さんが、大阪府内でコロッケを製造している工場があることを聞きつけ、漁協役員会で話し合い、JF春木のタコを原料にしたタココロッケを製造委託することとしました。

タココロッケの復活に向け、漁協職員や組合員は試行錯誤を繰り返しました。永井さんによると、最も苦労したことはタコを切り分ける大きさだったそうです。具体的には「小さいと特色がなくなるが、大きいと揚げたときにタコがコロッケから飛び出してしまう」ため、ちょうど良い大きさを決定するのに悩んだそうです。

このように職員や漁業者の意見を取り入れてできたタココロッケは現在、マルシェに加え、さまざまなイベントでも販売される商品となっています。中さんは、「若手漁業者がマルシェで販売を担当することで、社会経験を積むいい機会」ととらえており、タコの串揚げやタココロッケは地域の人々と交流するツールともなっています。

JF春木組合長の中武司さん(右)と事務局長の永井正則さん(左)

マガキ養殖に挑戦

近年、大阪湾ではそれまで漁獲されていたマアナゴなどが減少しています。また、冬の代表的な漁獲対象種であるイカナゴの不漁も続いています。このような状況を受け、中さんは冬にマガキを垂下式で養殖する実験を2022年に始めました。するとマガキは順調に生育し、食べてみると美味しいことがわかりました。2023年には購入したいという人も現れました。ただ、JF春木は港湾地区でもあり、筏を設置する場所の確保が非常に難しくなっています。そこでJF春木を含む7つの漁協が共同で区画漁業権の免許を申請し、無事に漁業権を取得できました。JF春木はこの漁業権漁場に2024年漁期から10台の筏を設置し、養殖したマガキが本格的に販売できる生産体制となりました。これらの7組合の生産したマガキは「泉州かきフライングオイスター」と名付けられました。中さんは、若い漁業者とともに養殖カキの作業もしており、彼らが熟練するまで見守りたいと話します。

若手が取り組むマガキ養殖(JF春木提供)
JF春木の組合員が育てた「泉州かきフライングオイスター」(パッケージ)
JF春木の組合員が育てた「泉州かきフライングオイスター」(中身)

地元での認知度向上へ

JF春木では2024年の12月からカキの販売促進を開始しました。若い漁業者が需要を開拓しています。基本的に、カキは殻付きで販売されますが、若い漁業者は注文があればカキを剥いて出荷します。量的には限りがあるのですが、「地元で生産されたカキなので買いたい」「お買い得だ」と好評で、リピーターもいます。岸和田市はカキの販売促進にも協力的で、ふるさと納税の返礼品にも採用されています。

中さんは、さらにワカメの養殖にも挑戦していきたいという夢を持っています。ワカメの養殖作業を小学校の子どもたちと一緒に行い、地先でワカメが養殖できることを見せたいと考えています。
若い漁業者が定着する一方で、これまでとれていた魚介類が減り、その餌となる生き物も少なくなるなか、JF春木では、地域との対話による魚食普及と養殖業への参入で未来への足掛かりを築こうとしています。

  • 田口 さつき(たぐち さつき)

    農林中金総合研究所主任研究員。専門分野は農林水産業・食料・環境。   日本全国の浜を訪れるたびに、魚種の多さや漁法の多様さに驚きます。漁村には、お料理、お祭り、昔話など、沢山の文化があります。日本のなかには一つも同じ漁村はなく、魅力にあふれています。また、漁業者は、日々、天体、潮、海の生き物を見ているので、とても深い自然観を持っています。漁業者とお話をしていると、いつも新たな発見があります。   Sakanadiaでは、そんな漁業者の「丁寧な仕事をすることで、鮮度の高い魚介類を消費者の食卓に届けよう」という努力や思いをお伝えできればと、思っています。   ▶農林中金総合研究所研究員紹介ページ

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