水戸の鮟鱇と「一品」   文&写真:吉村喜彦

水戸にアンコウを食べに行った。
いままで2度、水戸へは行ったことがあるが、
この地でアンコウを食べるのははじめてだ。

まずは、大洗海岸で太平洋をみて、水戸市街へ。

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はじめてゆっくり街をあるいた。

高い建築物がない。
空が広い。
珈琲専門店が多い。
人びとの反応にユーモアがある。やわらかい。

なんだか、ホッとする。

さすが徳川御三家水戸藩の城下町。
弘道館と偕楽園をたずねた。
斉昭公のすすめた文武両道の痕跡がみえる。

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ホテルからあるいて、アンコウ鍋の「山翠」に。

食べられるアンコウは、すべてメスとのこと。
オスはメスに寄生するため、単独では成長することがない。

市場に出回っているのは、身体が大きくなるメスだけだという。
メスは最大120センチほどになるが、オスは数センチ。
せいぜい15センチほどだそうだ。

「山翠」の鍋は、醤油ベースのだしに、
アン肝を練りこんだ秘伝の焼きみそで味つけされている。

アンコウはグロテスクな見た目に似合わず、その味は淡泊で、さっぱり。
しかも、捨てるところがない。

11月から2月の寒い季節が旬。
低い水温で身が締まり、春の産卵に向けて肝臓が大きくなって、おいしくなる。
あの黄門・水戸光圀も食したそうだ。
   
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酒は「一品」。水戸生まれの酒。

辛口ながら、うまみがある。
サラッとしていて、甘辛い鍋に合う。

1790年(寛政2年)創業・吉久保酒造の代表銘柄である。
もともと手広く米をあきなう米穀商だったが、酒造りに転業したそうだ。
確かな目利きで選んだ米と水戸徳川家が茶の湯に使った超軟水をつかい、水戸の名酒を生んだ。
徳川斉昭の藩政改革をささえた儒学者・藤田東湖も好んだという。

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「山翠」のおねえさんも、
「鍋は2名分たのむと、ちょっと量が多いかも。1名分で充分よ」
と言ってくれる。
無理やりオーダーをとろうとせず、正直な対応がじつにいい。

さて。
明日は、那珂湊おさかな市場に行こうか。

文&写真:吉村喜彦

  • 吉村 喜彦(よしむら のぶひこ)

    1954年大阪生まれ。京都大学教育学部卒業。サントリー宣伝部勤務を経て作家に。 著書に、小説『バー堂島』『バー・リバーサイド』『二子玉川物語』『酒の神さま』(ハルキ文庫) 『ビア・ボーイ』『こぼん』(新潮社、PHP文芸文庫)『ウイスキー・ボーイ』(PHP文芸文庫) ノンフィクションでは、『漁師になろうよ』『リキュール&スピリッツ通の本』(ともに小学館) 『マスター。ウイスキーください〜日本列島バーの旅』(コモンズ)『オキナワ海人日和』(三省堂) 『食べる、飲む、聞く 〜沖縄・美味の島』(光文社新書)『ヤポネシアちゃんぷるー』(アスペクト)など多数。 NHK-FMの人気番組「音楽遊覧飛行〜食と音楽でめぐる地球の旅」の構成・選曲・DJを長年つとめた。 現在、月刊「地域人」で全国の漁師を取材する「港町ブルース」を連載中。

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