JFレポート イガイの普及に取り組むJFやまがた 2026.2.10 古江晋也(ふるえ しんや) 印刷する 山形県庄内地方の沿岸集落で食べられてきたイガイ山形県漁業協同組合(以下、JFやまがた)は、イガイの普及に力を入れています。イガイはムール貝に似た在来の二枚貝で、茹でるとアサリを濃縮したような旨味のある出汁が出ます。庄内地方の沿岸集落では、お盆の時期にイガイ汁を食べる習慣がありますが、県内の他の地域ではほとんど食べられていませんでした。 庄内地方沿岸地域の夏の風物詩「イガイ汁」(写真提供:JFやまがた)また、イガイは、ほとんど夏しか食べられておらず「夏が美味しい」というイメージが強かったのですが、山形県水産研究所(以下、県水研)の調査で、秋も身入りが良く、味も美味しいことが分かりました。 そこでJFやまがたでは、イガイを「夏だけでなく秋まで美味しい食材」として広めるとともに、「全国の人々にも食べてほしい」という思いから普及活動を開始しました。 アワビが減少するなか、資源量の豊富なイガイに着目山形県では、アワビ(エゾアワビ)が重要な水産資源の一つであり、船上から魚介を獲る磯見漁を行う漁業者にとっても貴重な収入源となっています。しかし、2000年代以降、アワビの漁獲量は減少傾向にあります。県水研の古山遥さんによると、減少の要因としては、①海水温の上昇により、天敵である魚類や磯ダコが活発になる時期が早まり、放流した稚貝が食べられやすくなったこと、②高水温による成長不良、などが考えられるそうです。 一方で、アワビは減少しましたが、比較的暖かい水温を好むサザエは増加しています。ただし、サザエに注目が集まると、採り過ぎにより資源量が減少する可能性もあります。そこでJFやまがたと県水研は、資源量が豊富なイガイに着目しました。イガイの寿命は10年程度とされていますが、現在山形県にある資源の多くは7年貝以上の高齢貝であるため、あと数年で寿命となり消えてしまう可能性があります。そのため、「夏だけでなく、長い期間にわたって美味しく食べることができるイガイを漁獲しないのはもったいない」という思いもありました。 イガイの酒蒸し(写真提供:JFやまがた)イガイの美味しさを周知するための取り組みを実施イガイは水深約1~5メートルの岩場に生息し、場所によっては高密度で重なり合っていることもあります。岩場には足糸(そくし)と呼ばれる細い毛で付着しています。漁業者の土田信明さんによると、岩場に付着したイガイは船上から長い竿の先に二股の鉤(かぎ)がついた漁具を使って引きはがすようにして漁獲するそうです。引きはがしたイガイは水中で網に集めて、溜まったら船上へ引き上げますが、漁具は漁業者ごとにオリジナルで、マジックハンドのような漁具を使って船上に引き上げる人もいます。 イガイは潮通しの良い場所に生息しているため、一人で操船しながら箱眼鏡を覗き、5mもの長い漁具を使って漁獲するのはかなり大変です。漁は日の出とともに始まり、午前中には終了します。 水揚げ後は、フジツボなどの付着物を丁寧に取り除きますが、漁業者の粕谷雅昭さんによれば、「出荷作業は漁と同じくらい手間がかかる」とのことです。 イガイの出荷処理(写真提供:JFやまがた)付着物の除去が終わると、イガイを大・中・小・小小の4つのサイズに分け、各サイズとも1箱6kgになるように箱詰めします。パスタやアヒージョに使われる4~5cm程度のイガイは小小に分類され、1箱に150個以上入ります。身入りの良いイガイは重く、殻が厚いという特徴があります。 海洋変化への対応とイガイの普及近年、庄内浜では水温の上昇など海洋環境の変化により、これまで獲れていた魚介類の水揚げや藻場が減少傾向にあります。多くの資源が減少する中で増加傾向にあるイガイは今後庄内浜に欠かせない資源の一つになる可能性があります。イガイの生態や生育については、わかっていないことが多いため、引き続き調査を行いながら、持続的に漁獲できるよう資源管理も行っていく必要があります。 左から漁業者の土田信明さん、JFやまがたの小川美和さん、 山形県水産研究所の古山遥さん、漁業者の粕谷雅昭さんJFやまがたではキャンペーンやイベントを通じ、イガイの価値向上にも積極的に取り組み、これからも漁業者、県水研等の関係者で連携しながらイガイを普及する取り組みを進めようとしています。 漁協(JF)東北古江晋也(ふるえ しんや)株式会社農林中金総合研究所調査第二部主任研究員。 専門は地域金融機関の経営戦略の研究ですが、国産食材を生産し続ける人々と、その人々を懸命に支え続ける組織の取材も行っています。 四季折々の「旬のもの」「地のもの」を頂くということは、私たちの健康を維持するだけでなく、地域経済や伝統文化を守り続けることでもあります。 現在、輸入食材はかつてないほど増加していますが、地球温暖化や自然災害が世界的な脅威となる中、農水産物の輸入がある日突然、途絶える可能性も否定できません。 豊かな日本の国土や自然を今一度見つめ直し、今一度、農水産物の生産者や生産を支える組織の人々の声に耳を傾けたいと思います。 ▶農林中金総合研究所研究員紹介ページ 著書:『地域金融機関のCSR戦略』(2011年、新評論)このライターの記事をもっと読む
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