カニカマに本麒麟  文&写真:吉村喜彦

カニカマが好きだ。
カニよりずっと好きかもしれない。

カニは身をとるのがメンドーだ。
殻の中を見つめ、押し黙ってホジホジする己(おのれ)の姿が、どうにもいじましい。

おまえ、そこまでしてカニを食いたいのか、と途中で自問自答し、
ふとカニフォークを置こうかと思うときもある。

しかも、カニは値が高い。贅沢品である。

「どうだ、おれはカニ様である」
と顔を赤くしてふんぞり返っている風情がある。
そのあたりが、どうも気にくわない。

それにひきかえ、カニカマの慎ましさはどうだ。

「わたし、カニもどきなんですけれど、よろしければ……」
という謙虚で誠実なスタンスが好ましい。

値段も安い。
スーパーで手軽に手に入る。
殻の中をホジホジしなくていい。
パッケージを破ると、すぐさま食べられる。

良いことづくめでないか。

                 *    *    *

さて最近のカニカマ事情はどうなんだろう、
と近くのスーパーに買いに行く。

ありました、ありました。
いやあ、カニカマってじつにたくさんの種類があるんですね。

いかにもフェイクという姿かたちのものから、これってまさにカニじゃん、
という身なりのものまで千差万別。

ぼくはカニそっくりのものを選んで、さっそく家で二杯酢でいただいた。

これが、想像以上に素晴らしい。

どう見てもカニとしか思えない、細くしなやかな繊維質。
きめ細やかな口あたり。
心地よいほぐれ感。
しっとりとした風合。
豊かな味の広がり。

この美味さは、はるかにカニを越えている。
これは酒がなくては――。
まずは日本酒をと思った。
しかし、それでは当たり前すぎる。

では、なにがいい?
そこで登場したのが、「本麒麟」。

「本麒麟」は酒税法上ビールではない。
(日本では、麦芽配合比率が50%未満のものはビールと名のれない。
ちなみにドイツでは、1516年以来ずっと麦芽100%でなければビールとは言えない)

「本麒麟」はビールもどき。ビール風アルコール飲料なのである。

しかし、これがとても美味い。
アルコール度数6%とやや高めの液体が、
のどを心地よくアタック。
引き締まった味わいで飲みあきない。

本麒麟クンも、
「いや、ぼくはビールそっくりな飲みものなんで……」
と遠慮がちにこたえるところが、イイ奴っぽい。

このマリアージュ。
試してみると、カニカマの甘さに本麒麟の苦みがばっちり。
やはり、この相性は抜群だった。

                 *    *    *

秀逸なモノマネ芸でつねにぼくらを抱腹絶倒させてくれる清水ミチコに、
『カニカマ人生論』という著書がある。

清水ミチコは矢野顕子を尊敬していて、自分にとってカニのような存在。
ひるがえって自分はカニカマ。
ずっとホンモノ=カニになりたいと思っていたそうだ。

はじめて共演したとき、清水はその思いを矢野に語った。

すると、矢野顕子は、こう答えたそうだ。
「でもさあ、カニだってカニカマにはなれないよ」
 
カニカマの二杯酢を食べ、本麒麟を飲みながら、
そんなこんなを思いだした。

「青は藍より出でて、藍より青し」
という言葉もあるではないか。

すべての芸能は「まねぶ=マネをする」ことからはじまる。

みにくいアヒルの子は、白鳥だったりするのだ。

さ、カニカマに本麒麟。
ぜひ。

文&写真:吉村喜彦

  • 吉村 喜彦(よしむら のぶひこ)

    1954年大阪生まれ。京都大学教育学部卒業。サントリー宣伝部勤務を経て作家に。 著書に、小説『バー堂島』『バー・リバーサイド』『二子玉川物語』『酒の神さま』(ハルキ文庫) 『ビア・ボーイ』『こぼん』(新潮社、PHP文芸文庫)『ウイスキー・ボーイ』(PHP文芸文庫) ノンフィクションでは、『漁師になろうよ』『リキュール&スピリッツ通の本』(ともに小学館) 『マスター。ウイスキーください〜日本列島バーの旅』(コモンズ)『オキナワ海人日和』(三省堂) 『食べる、飲む、聞く 〜沖縄・美味の島』(光文社新書)『ヤポネシアちゃんぷるー』(アスペクト)など多数。 NHK-FMの人気番組「音楽遊覧飛行〜食と音楽でめぐる地球の旅」の構成・選曲・DJを長年つとめた。 現在、月刊「地域人」で全国の漁師を取材する「港町ブルース」を連載中。

    このライターの記事をもっと読む

関連記事