「グルクマくん」と「山原くいな」   文&写真:吉村喜彦

沖縄のコザに住む先輩から、
「このまえ山原(やんばる)に遊びに行ったからよ-」
とお土産をもらった。

山原というのは、沖縄本島北部、みどりの森の土地である。

いただいたのは、「グルクマくん」。
グルクマという魚の、味つけなまり節だ。

グルクマは、サバ科の魚。
かたちもサバに似ているが、体高がたかい。
鮮度が落ちるのが早く、脂がのりにくいため、あまり市場には流通していない。

グルクンは知っていたが、グルクマは初めて食べる。
この魚、沿岸を群れをなして泳ぎ、えさを食べるときには大きく口を開けるという。
その様子からヒントを得た「グルクマくん」のパッケージがなんとも可愛い。

国頭(くにがみ)漁業協同組合の大型定置網で水揚げされたグルクマを、
特製醤油のタレに漬け込み、
やんばるの琉球松を燃やして煙でいぶし、
カツオ節のように乾燥させて(焙乾)つくるそうだ。

化学物質無添加のヘルシーさも良い。

*    *    *

さて。
同時に、先輩からは、沖縄本島最北端にある泡盛蒸留所・やんばる酒造の酒も頂戴した。
8割は地元やんばるで飲まれていると聞くと、ますます興味がわく。

熟成古酒「山原くいな KUINA BLACK」5年もの。
アルコール度数43度とラベルにある。

先輩は何も言わずこの酒と「グルクマくん」を手渡してくれた──ということは、この古酒と合わせなさい、ということだ。

「グルクマくん」をひとくち頬ばる。

燻香と醤油の甘さが口いっぱいに広がる。
見た目より、はるかに美味。
ふんわりとした風合。食感もよい。

すぐさま、「山原くいな クイナブラック5年熟成古酒」ストレートで舌を洗う。

おおっ!
この古酒は香ばしい。

直火蒸留だろうか。
いい具合に焦げた香りがいい。
ぼくの好きなタイプの泡盛だ。

伊是名島の「常盤(ときわ)」や石垣島の「於茂登(おもと)に似ている。

このタイプの泡盛は、燻香に包まれた「グルクマくん」との相性抜群だ。

先輩はこのことを見越し、黙って、二つのおみやげをくれたのだ。
なんと粋なことだろう。

*    *    *

「クイナブラック5年古酒」は、
女房がつくってくれた昆布イリチーにもよく合った。

やんばるは山も海も近い。
海のものとのマリアージュは最高なのかもしれない。

やはり、泡盛は海洋性の酒なのだ。

あらためて、そう思った。

 

文&写真:吉村喜彦

  • 吉村 喜彦(よしむら のぶひこ)

    1954年大阪生まれ。京都大学教育学部卒業。サントリー宣伝部勤務を経て作家に。 著書に、小説『バー堂島』『バー・リバーサイド』『二子玉川物語』『酒の神さま』(ハルキ文庫) 『ビア・ボーイ』『こぼん』(新潮社、PHP文芸文庫)『ウイスキー・ボーイ』(PHP文芸文庫) ノンフィクションでは、『漁師になろうよ』『リキュール&スピリッツ通の本』(ともに小学館) 『マスター。ウイスキーください〜日本列島バーの旅』(コモンズ)『オキナワ海人日和』(三省堂) 『食べる、飲む、聞く 〜沖縄・美味の島』(光文社新書)『ヤポネシアちゃんぷるー』(アスペクト)など多数。 NHK-FMの人気番組「音楽遊覧飛行〜食と音楽でめぐる地球の旅」の構成・選曲・DJを長年つとめた。 現在、月刊「地域人」で全国の漁師を取材する「港町ブルース」を連載中。

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