クーブとオリオンビール      文&写真:吉村喜彦

五年ぶりに沖縄に旅をした。

那覇に行くと必ず立ち寄る牧志公設市場も、
コロナ禍のあいだに建て替えられて、新しいビルに入っていたが、
その店は以前のままあった。

「山城こんぶ屋」である。

創業75年。市場唯一の昆布専門店。
粟國和子さんと長男の智光さんが店頭に立つ。

拙著『食べる、飲む、聞く 沖縄・美味の島』でも取材させていただき、
以来、パワフルで滋味深い和子さんとのおしゃべりを楽しみながら、
昆布(クーブ)やメンマ(スンシー)を買って帰る。

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かつて沖縄は昆布の消費量ナンバーワンを誇っていた「こんぶ大国」だったが、
現在は、ずいぶん順位を下げている。

しかし、昆布はウチナーンチュ(沖縄人)にとって、
豆腐、豚肉とならぶ三大食品であることに変わりはない。
(余談だが、うるま市には「昆布」という集落もある)

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北海道でとれる昆布がなぜ沖縄でたくさん食されるのか。

それは北前船が関係する。

琉球王朝時代、昆布は北前船で
北海道→北陸(富山など)→下関→大坂に運ばれ、
大坂から江戸や長崎にいき、
長崎→鹿児島→琉球というルートで流通していった。

では、なぜ琉球に昆布が運ばれたのか。

薩摩藩が琉球を支配(1609年~)して以降、
薩摩は昆布を中国に輸出して金儲けをしようとした。

そのためには中国と長年進貢貿易を続ける琉球を利用するのが得策と考えたわけである。

那覇には薩摩藩の出先機関=昆布座(昆布取引所)がもうけられ、
琉球はいやおうなく昆布の中継基地となり、
琉球全土に昆布食がひろまっていった。

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粟國和子さんは言う。

「ウチナーンチュ(沖縄人)は昆布はウチナー(沖縄)のものとして定着させてきました。
わたしたちはいろんな食べものを取り入れてきました。
沖縄の昆布は食べるもの。
結果として出汁もでる。
ふつうのお野菜みたいに食べてます」

かつては高級品だった昆布。
まずは宮廷料理に登場し、やがて沖縄の庶民の食卓へと広がっていった。

薩摩の魂胆で琉球にやってきた昆布を、
ウチナーンチュは上手に自分たちの食べものとして取り込んだのである。

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首里にある宮廷料理屋「赤田風(あかたふう)」で昆布(クーブ)イリチーを食べる。

イリチーとは炒め煮のこと。
一度炒めたものを出汁などを加えて煮る。

クーブイリチーは、よく洗われてぬめりを取った昆布を使う。
昆布はやわらかいなかにもシャキシャキ感があって、
海の野菜を食べているよう。

短冊に切られたこんにゃくやカマボコ、豚三枚肉の質感もいい。
昆布が豚とカツオに出合って、出汁部門に参加している感じ。
沖縄独特の複合出汁=チャンプルー出汁の美味しさがここに生きている。

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「赤田風」の料理のエンディング近くに出てくるのがジューシー(雑炊)。
ヤマトでいう「炊きこみご飯」。

お祝いや行事のときに食べる食事だけれど、
「赤田風」では昆布、ゴボウ、人参、カマボコ、しいたけが入っている。

クーブイリチーもジューシーも、たいへん繊細かつ上品だ。
沖縄の青空と海風を思いおこさせる爽やかさ。

やはり、沖縄の代表のような食べものには、
その土地で生まれた自慢のビール、オリオンだろう。

オリオンビールをいちど取材したことがあるが、
当初はドイツタイプのビールを造ったが、沖縄の気候風土にあわず、
アメリカのバドワイザーを研究して、あの味わいにしていったと聞いた。

なるほど。
そう言われてみると、あの軽やかさに納得できる。

沖縄の、しかも海辺で、海からの幸とともに飲むのにぴったりのビールだ。

文&写真:吉村喜彦

  • 吉村 喜彦(よしむら のぶひこ)

    1954年大阪生まれ。京都大学教育学部卒業。サントリー宣伝部勤務を経て作家に。 著書に、小説『バー堂島』『バー・リバーサイド』『二子玉川物語』『酒の神さま』(ハルキ文庫) 『ビア・ボーイ』『こぼん』(新潮社、PHP文芸文庫)『ウイスキー・ボーイ』(PHP文芸文庫) ノンフィクションでは、『漁師になろうよ』『リキュール&スピリッツ通の本』(ともに小学館) 『マスター。ウイスキーください〜日本列島バーの旅』(コモンズ)『オキナワ海人日和』(三省堂) 『食べる、飲む、聞く 〜沖縄・美味の島』(光文社新書)『ヤポネシアちゃんぷるー』(アスペクト)など多数。 NHK-FMの人気番組「音楽遊覧飛行〜食と音楽でめぐる地球の旅」の構成・選曲・DJを長年つとめた。 現在、月刊「地域人」で全国の漁師を取材する「港町ブルース」を連載中。

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