ニッポンさかな酒 スモークサーモンに、アクアヴィット 2020.9.23 吉村 喜彦(よしむら のぶひこ) 印刷する 『バー堂島』『ビアボーイ』などの著者、吉村喜彦氏の連載! 今回の「酒とさかな」は、スモークサーモンとアクアヴィット。心地よい秋の空の下で爽やかなひとときを。 スモークサーモンに、アクアヴィット 文&写真:吉村喜彦アクアヴィットというお酒がある。 ジャガイモを主原料とした蒸留酒で、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーなどの北欧とドイツでつくられている。 アクアヴィットという名前は、ラテン語の「aqua vitae (アクアヴィテ)=生命の水」に由来する。 無色透明。ハーブで香りづけしたジャガイモ焼酎といったところだろうか。その歴史は、15世紀頃(日本の室町時代)にさかのぼるそうだ。 デンマークに取材に行き、その地で飲んだアクアヴィットの味が忘れられない。 季節はちょうど9月の半ば。 北欧はすでに秋色が濃く、透きとおった青空が広がっていた。 そして、いつも風が渡っていた。 というのも、デンマークにはこれといった山がなく、ほとんど平坦な土地(最高地点は標高171メートル)だからだという。 雲の流れは早く、その姿がとても美しい。 街を歩いていて、ふと見上げると、ビルの屋上で旗が凛々しくはためいている。旗はこうあるべきだというふうな理想的なすがた。颯爽として、カッコイイのだ。 写真:JF全漁連レストランのテラス席で、淡い陽光を浴びながら、スモークサーモンをおつまみに、アクアヴィットをゆるゆると飲む。 ボトルごとキンキンに冷やしたデンマーク産の「オールボー」。グラスに注ぐと、びっしりと白い霜がつく。その姿に、ごくりとのどが鳴る。 オールボーは微かにキャラウエイの香りがして、スモークサーモンとは抜群に相性がよかった。 * * * 過日、青森県の深浦でサーモン養殖の取材をした。 澄みきって清々しい空が広がっていて、デンマークとよく似ていると思った。同じような環境では育つものも似てくるのかもしれない。 深浦のサーモンはみずみずしく、食べるというよりも飲むという感じがして、ことのほか美味しかった。とても上品な味わいだった。 深浦の空。千畳敷海岸そんなきれいな青空を思いながら、秋の休日、ベランダに出てスモークサーモンのサンドイッチを食べる。横には、オールボー。 サーモンを食べて、アクアヴィットをくいっ。 すっきりとした爽やかな香りが、秋風のようにさらりと舌を洗ってくれ、なんだか心身ともにきれいになるようだ。 ちなみにアルコール度数は40度。でも、そんな感じがまったくしない。それが不思議。 北欧では、アクアヴィットを飲んだ後には、チェイサーでビールを飲む。これが美味しい。爽やかが倍加する。できれば、デンマーク生まれのカールスバーグがぴったり。 じつは、サントリーがビール事業に進出するときに参考にしたのが、デンマーク・タイプのビールだった。 さらりと喉ごしがよく、キレのある、クリアな味わい。何杯でも飲みたくなる、爽やかなビールだ。 * * * キンキンに冷やさずとも、オールボーが美味しかった経験がある。 ユトランド半島最先端の砂州でむかえた夜明け。海は北海とバルト海の両方向からくる潮がぶつかって、かなり波立っていた。 海鳥たちは大きな羽音をたて、魚を求めて海にダイビングしていた。 その勇壮な姿を眺めながら、波しぶきを浴びつつ、デンマーク人の友人と、ボトルごとオールボーを飲んだ。 朴訥だけれどハードなジャガイモのスピリッツ(たましい)に、ほろ苦い塩気がきいて、絶妙な味がした。 冷えたからだに暖を入れる、まさに火酒。 生命の水といわれる由縁だと思った。 文&写真:吉村喜彦 【お知らせ】 吉村喜彦氏の新刊小説『たそがれ御堂筋~バー堂島2~』が10月15日に発売されます。 Amazonの事前予約は▶こちら 酒東北吉村 喜彦(よしむら のぶひこ)1954年大阪生まれ。京都大学教育学部卒業。サントリー宣伝部勤務を経て作家に。 著書に、小説『バー堂島』『バー・リバーサイド』『二子玉川物語』『酒の神さま』(ハルキ文庫) 『ビア・ボーイ』『こぼん』(新潮社、PHP文芸文庫)『ウイスキー・ボーイ』(PHP文芸文庫) ノンフィクションでは、『漁師になろうよ』『リキュール&スピリッツ通の本』(ともに小学館) 『マスター。ウイスキーください〜日本列島バーの旅』(コモンズ)『オキナワ海人日和』(三省堂) 『食べる、飲む、聞く 〜沖縄・美味の島』(光文社新書)『ヤポネシアちゃんぷるー』(アスペクト)など多数。 NHK-FMの人気番組「音楽遊覧飛行〜食と音楽でめぐる地球の旅」の構成・選曲・DJを長年つとめた。 現在、月刊「地域人」で全国の漁師を取材する「港町ブルース」を連載中。このライターの記事をもっと読む
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