ニッポンさかな酒 土佐の清水さばには、久礼をくれ 文&写真:吉村喜彦 2021.5.28 吉村 喜彦(よしむら のぶひこ) 印刷する 四国の最南端。 太平洋にグッと突き出た足摺岬を擁する土佐清水市は、高知空港から約160キロ。 高速をつかっても空港から車で4時間。 羽田を発つこと7時間で、やっと土佐清水に到着する。 東京からはホーチミンに行くよりずっと時間がかかるのだ。 土佐清水はソウダガツオから作られる宗田節の生産量が全国一。 近年は、足摺岬の沖でとれるゴマサバが「土佐の清水さば」として有名だ。 魚はなにより鮮度がいのち。 ことにサバは「サバの生き腐れ」といわれるほど、傷むスピードが早い。 そんなサバを、地元の漁師が食べているように、新鮮な刺身で食べてもらいたいというのが「土佐の清水さば」のコンセプトだ。 * * * ●まず、立縄漁で一匹一匹ていねいに獲ったゴマサバを活きたまま港まで持ち帰る。 身を焼かないために、船上でも港でも魚のからだに手は触れない。 ●港に着いたゴマサバは、漁師がタモで優しくすくいあげ、岸壁で待ち受ける漁協職員がそのタモを受け取ると、活魚槽(水槽)まで全速力で走って運ぶ(サバ・ダッシュ)。 サバ・ダッシュ!サバ・ダッシュ! ●活魚槽では2日間畜養。魚のストレスをやわらげ、排泄物を出してきれいにする。 ●活魚槽のなかには、ファインバブル(微細気泡)の発生装置をつけ、水中の酸素量を増やし、魚の体力回復の時間を短くする。 ●ストレスをとった魚を、できるだけ早くお客さんに届ける。 * * * こうして生まれた「土佐の清水さば」を居酒屋で食べさせてもらった。 まず、サバの腹皮を食べる。脂が甘い。まったく生臭くない。クリオネみたいな形をした心臓はコリコリした食感がありつつ、ちょっとぬめりもあって、エロティックな味わい。 石焼きのサバは、ブリのよう。土佐清水では昔から家庭料理として石焼きをやっていたそうだ。焼きサバ寿司はスモーキーさと品のいい脂の絶妙なバランスがいい。 やはり、土佐の清水さばには、土佐の酒だろう。 辛口純米「久礼(くれ)」がいい。 淡麗でキレのよいタイプ。しかし、米のふくよかな香りがある。 ゴマサバの脂をさーっと流してくれ、水のように飲めてしまう。「いい酒は水に近い」というが、まさに、その通り。 舌を洗ってくれるので、また、次のサバ料理の味が新鮮に味わえる。 杯を傾けるたびに、足摺岬の青い海と波しぶきが、舌の上に広がる。 ああ、なんという爽快感──。 酒漁師吉村 喜彦(よしむら のぶひこ)1954年大阪生まれ。京都大学教育学部卒業。サントリー宣伝部勤務を経て作家に。 著書に、小説『バー堂島』『バー・リバーサイド』『二子玉川物語』『酒の神さま』(ハルキ文庫) 『ビア・ボーイ』『こぼん』(新潮社、PHP文芸文庫)『ウイスキー・ボーイ』(PHP文芸文庫) ノンフィクションでは、『漁師になろうよ』『リキュール&スピリッツ通の本』(ともに小学館) 『マスター。ウイスキーください〜日本列島バーの旅』(コモンズ)『オキナワ海人日和』(三省堂) 『食べる、飲む、聞く 〜沖縄・美味の島』(光文社新書)『ヤポネシアちゃんぷるー』(アスペクト)など多数。 NHK-FMの人気番組「音楽遊覧飛行〜食と音楽でめぐる地球の旅」の構成・選曲・DJを長年つとめた。 現在、月刊「地域人」で全国の漁師を取材する「港町ブルース」を連載中。このライターの記事をもっと読む
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