世界の漁業 "漁業先進国"アメリカを旅する―Part3―旅のおわり 2020.2.17 阪井 裕太郎(さかい ゆうたろう) 印刷する ロブスター・ロールで疲労回復ロブスター・ロール@BECKY’S(筆者撮影)メーン州にやってきました。だいぶ疲労が溜まってきたので、ここらで美味しいものを食べて体力回復を図りたいところです。 メーン州といえばやはりロブスター。州の水揚金額の約9割を占めています。 地元の人が続々と入っていくBECKY’Sというお店で、定番メニューのロブスター・ロールを注文しました。 ウエイトレス曰く、マヨネーズ派(写真右上)とバター派(写真右下)で人気が二分しているそうです。 私はバター陣営に加わりました。 素材の味を生かせているのかに若干の疑問を抱きつつも、とても美味しかったです。 さて、調査も最終段階です。 メーン州ロブスター漁業は絶好調左から、徳永佳奈恵氏(GMRI Associate Research Scientist)、Patrice F. McCarron氏(Executive Director)、筆者。 Maine Lobstermen’s Association, Inc.にてメーン州ロブスター漁業組合(Maine Lobstermen’s Association, MLA)は1954年に設立された強力な業界団体です。 ロブスターは元々連邦政府の管轄でしたが、MLAの働きかけで1997年から州政府連合ASMFCの管轄になりました。そのため現在ではマグナソン・スティーブンス法の下にはなく、総漁獲枠もありません。 ロブスターの漁獲量は1980年代から一貫して右肩上がりです。これは資源管理の効果もさることながら、気候変動やタラ資源の崩壊といった要因が関連しているようです。 メーン湾研究所にて聞き取り調査メーン湾研究所(Gulf of Maine Research Institute, GMRI) (筆者撮影)水産関係の専門家が集う「メーン湾研究所」で、連邦底魚漁業のセクター制についてお話をうかがいました。 底魚漁業は非常に多くの魚種を対象としており、漁獲量がとても少ない魚種もあります。 そのような魚種については、厳密な資源評価ができないため、CPUE(1回漁業を行ったときの漁獲量)を用いて資源動向を探りながら、漁獲枠の調整をするそうです。 また、個別漁獲枠管理の要は漁業者のモニタリングであるという話が印象的でした。 苦境に直面している東海岸の底魚漁業では、監視員が1割の船にしか乗っていません。一方、個別漁獲枠制度の成功例とされる西海岸の底魚漁業ではすべての船に監視員が乗っているのです。 最後の晩餐調査最終日の夜は、徳永さんのお宅でロブスターをいただきました。丸ごと一匹に大興奮です。 興奮しすぎて写真を撮らずに解体してしまったのを、あたかも解体前のように配置して撮ったのがこの写真であることは秘密です。 徳永さんとは2013年にフロリダで行われた北米漁業経済学会で初めてお会いしました。 その後、東大でも研究員を一時期一緒にしていました。昨年からメーン湾研究所に移籍され、現在アメリカで活躍している数少ない日本人漁業経済学者の一人です。 信頼できる仲間が、世界の色々なところで活躍しているのはとても励みになります。 旅のおわりメーン州ポートランドの漁港(筆者撮影)今回アメリカに調査に来てみて、日本で聞くような“漁業先進国”アメリカとは少し異なる一面を発見することができました。 “漁業先進国”というイメージは、主に沖合の連邦漁業に関するもののようです。沿岸部に目を向けると、実は日本とよく似た管理が行われている漁業も多いのです。 さらに、連邦漁業の中でも、東海岸の底魚漁業のように必ずしも漁獲枠管理がうまく機能していない例もありました。 日本語に翻訳されている情報だけをうのみにしないで、自分の目でちゃんと確かめに行くことが重要だ——ポートランドの美しい漁港を散策しながら、そんなことを考えました。 資源管理世界阪井 裕太郎(さかい ゆうたろう)東京大学大学院農学生命科学研究科 農学国際専攻 国際水産開発学研究室 准教授。専門は漁業経済学。カナダのカルガリー大学経済学部で博士号を取得後、アリゾナ州立大学でビッグデータや機械学習を用いたアメリカ西海岸の漁業の研究に従事。2019年4月より現職。日本で耳にする海外の漁業管理の話題については情報が偏りがちなので、正しい情報をバランスよく発信していきたいと思います。このライターの記事をもっと読む
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