世界が考える持続可能な水産業

FAO(国連食糧農業機関)シンポジウムが開催

シンポジウムの様子。熱心に議論が行われた

2019年11月18~21日に、FAO(国連食糧農業機関)のローマ本部で持続可能な水産業のための国際シンポジウムが開催されました。

不束者ではありますが、この度、FAOからお声かけいただき、パネリストの1人としてこのシンポジウムに参加してきたので、今回は、このシンポジウムについて簡単にレポートします。

「持続可能な開発目標(SDGs)」と水産業

シンポジウムのテーマはSTRENGTHENING THE SCIENCE-POLICY NEXUS(科学と政策の結びつきの強化)でした。今、各国では「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(このアジェンダにかかげられた目標が今、色々なところで目にする「持続可能な開発目標(SDGs)」です)を通じて、あらゆる次元の貧困を根絶し、すべての人々の持続可能な開発を達成するために、「経済」「社会」「環境」という3つの側面からの検討が必要だと認識されています。こうした視点から、このシンポジウムでは、食料、栄養、くらしの安全に重要な役割を果たしている水産業がいかに持続可能性の状態を改善しながら成長し続けられるかということを話し合い、そのために必要なことをメッセージとして発信していこうというものです。

持続可能な水産業のくらしの確保

セッション4の様子

このシンポジウムには世界各国の研究者、国連関係者、政府関係者、漁業者、NGOなど様々なステークホルダーが500人以上集まりました。全部で8つのセッションが企画・開催されましたが、ここでは私が登壇したセッション4「Securing Sustainable Fisheries Livelihoods(持続可能な水産業のくらしの確保)」についてご紹介します。

このセッションの目的の一つは、水産業をより持続可能なものにするためには、政策立案の面からも研究の面からも水産業を正確に理解することが必要で、そのためには「漁業者」の知識や経験を結びつけていくことが重要だというメッセージを発信することです。

この「漁業者」の中には、男性も女性も、老いも若きも、海上作業も陸上作業も、バリューチェーンに関わる人々も、異なる文化的背景のコミュニティの人々も全て含まれます。

カリブ海の小規模イカ漁師 ミッチ

プレゼンテーションを行う小規模イカ漁師のミッチ

基調講演者の一人であるミッチ(Mitchell Lay)は中南米にある、種子島とほぼ同じ面積のアンティグア・バーブーダの小規模イカ漁師。カリブ海の漁業者ネットワーク(Caribbean Network of FisherFolk: CNFO)のメンバーの一人でもあります。

今、世界中の政策立案者や企業投資家らは海洋と水資源に経済発展の大きなチャンスがあると大きな関心を寄せています。「ブルー・エコノミー」といわれるものです。

これらはミッチのような小規模漁業者たちにとって、大きなリスクとなる可能性があると心配されています。小規模漁業がブルー・エコノミーの障害であるとみなされたり、逆に無関係とみなされたりすることなく、小規模漁業が持っている経験や情報などもきちんと世界的な政策の議論にのせていくことが必要であると訴えました。

座長ともう一人の基調講演者のほか、10人のパネリストが多様な視点からメッセージを発しました。私からは、女性も若者も水産業のガバナンスと意志決定過程にもっと関われる環境を整えていくことが重要だと伝えました。

おわりに

セッション4のメンバー

このシンポジウムでとりまとめられた各セッションからのメッセージは、このシンポジウム後に開催されるCOFI(FAO水産委員会)やUNFCCC COP25(気候変動枠組条約第25回締約国会議)、国連海洋会議、そしてFAO責任ある漁業行動規範の25周年に向けての会議などで活用されるそうです。

このシンポジウムのメッセージがこれからどのように展開していくのか楽しみです。

シンポジウムが行われた2019年11月21日は世界水産業の日(World Fisheries Day)。海と海に生活を依存している人々をお祝いする日です

シンポジウムの詳細ページへ(2019/12/06時点)

  • 副島 久実(そえじま くみ)

    国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産大学校 水産流通経営学科 講師 大阪生まれ。鹿児島大学水産学部卒、広島大学大学院修了、博士(農学)。 OECD(国連経済協力開発機構)の研究プログラムCo-operative Research Programmeを受けてデンマークにあるオールボー大学で客員研究員をしました。その時に見聞した漁業や漁村に関わることなどを中心にご紹介します。

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