世界の漁業 "漁業先進国"アメリカを旅する―Part2― 2020.1.30 阪井 裕太郎(さかい ゆうたろう) 印刷する 漁業経済学を専門とする東大 阪井 准教授が、アメリカの漁業を調査する旅に出ました。旅の記録とともに、アメリカの漁業に関する新たな発見や気づきを紹介します。 州管理漁業には及ばない連邦政府の権限法律というのは長くて難解です。 しかし、これまでに聞いた話を踏まえてもう一度「マグナソン・スティーブンス法(を基に作られたNOAAのガイドライン)」をよく読み返したら、州・連邦海域にまたがる魚種に関して以下のように書いてありました。 「連邦政府の漁業管理は、連邦政府の管轄する部分にしか適用されない。」 また、何が書かれて"いない"かという目線で見ると、州が排他的に管理している漁業については言及されていないことに気づきます。 やはり、州管理漁業は連邦管理漁業(国が管理する漁業)とは異なる法的枠組みの下にあるのです。 州漁業管理を規定するAtlantic Coastal Fisheries Cooperative Management Act米国海洋大気局東北部水産研究所(上の地図が所在地です)のEric Thunberg博士によれば、大西洋沿岸で州境を跨いで分布する27魚種については、Atlantic State Marine Fisheries Commission(ASMFC)という州の連合組織が管理しているそうです。 そして、この組織はAtlantic Coastal Fisheries Cooperative Management Act(ACFCMA)という法律の下にあります。ACFCMAでは、管理にあたって総漁獲可能量(TAC)を設定することは定められていません。 そのためASMFCが管理する魚種の半数にはTACが設定されていないのだそうです。 内田洋嗣先生のご自宅にて夕食ロードアイランド大学の内田先生と息子のタカヒロ君(筆者撮影)ロードアイランド州での最後の夜は、日米で活躍する漁業経済学者である内田洋嗣先生のご自宅で夕飯をいただきました。 内田先生は、カリフォルニア大学デイビス校のJames E. Wilen名誉教授に師事した唯一の日本人漁業経済学者です。 Wilen教授は数多くの優秀な弟子を輩出しており、その弟子たちは北米の漁業経済学者コミュニティーの中心的グループの一つを構成しています。 私も、内田先生の兄弟子のJoshua K. Abbott先生にポスドク(博士号を持つ研究員)として師事したので、ちゃっかりWilen教授の孫弟子であることにしています。 ロブスターは籠で獲るグロスター港のロブスター漁船(筆者撮影)マサチューセッツ州のグロスターに来ました。漁港には底曳網漁船とロブスター漁船がたくさん停泊しています。 ロブスター漁船には黄色いロブスタートラップ(籠)がたくさん積まれています。また、トラップを海に落としやすいように、船尾部分には仕切りがありません。 私は三重県のイセエビ漁業についても研究していますが、イセエビは刺し網で獲ります。ロブスターが籠で獲れるならイセエビも籠で獲れるのではないかと考えてしまいますが、イセエビは籠には入らないのだそうです。 どうしてなのか気になります。 連邦底魚漁業セクター制の苦境左から、内田先生、Angela Sanfilippo氏(Director)とAl Cottone氏(底魚漁師)、筆者。Massachusetts Fishermen’s Partnership事務所にて2010年に東海岸の連邦底魚漁業がセクター管理(譲渡可能グループ漁獲枠制度)に移行しました。 しかし、このセクター管理は現在までのところ成功しているとはいい難い状況だそうです。 資源量はいまだに十分に回復しない一方で、漁獲枠の削減に伴って漁船数は大きく減りました。 漁獲枠が厳しく制限されている魚種については洋上投棄が横行しており、これが資源評価の精度に悪影響を与えています。 ただ、それでも以前の管理(日別漁獲量制限+出漁日数制限)に戻るよりはましなのではないかと底魚漁師のAl氏が言っていたのが印象的でした。 資源管理世界阪井 裕太郎(さかい ゆうたろう)東京大学大学院農学生命科学研究科 農学国際専攻 国際水産開発学研究室 准教授。専門は漁業経済学。カナダのカルガリー大学経済学部で博士号を取得後、アリゾナ州立大学でビッグデータや機械学習を用いたアメリカ西海岸の漁業の研究に従事。2019年4月より現職。日本で耳にする海外の漁業管理の話題については情報が偏りがちなので、正しい情報をバランスよく発信していきたいと思います。このライターの記事をもっと読む
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