ヨーロッパの漁村女性ネットワークAKTEA

漁業を支える世界の女性たち

仕分けをする日本の漁村女性(山口県)

漁業を担っているのは、主に海上作業を行う男性ばかりではありません。

選別作業や加工、販売などの陸上作業を通じて多くの女性も漁業を支えています。漁村女性起業も盛んになっていますし、漁村での生活や地域社会においても、女性たちが多方面で大きな役割を果たしています。

日本の漁協女性部などは、魚食普及活動や浜の環境保全活動、福祉活動、東日本大震災被災地への支援活動など様々な取り組みをしています。

では、海外ではどうでしょうか。もちろん、海外でもたくさんの女性たちが漁業・漁村に関わっていて、色々な取り組みを行っています。ここでは、ヨーロッパの漁村女性ネットワーク(AKTEA)をご紹介します。

共に船に乗り漁業をする夫婦(オランダ)

ヨーロッパにも漁業や養殖業に携わる女性たちがいます。

夫と共に船に乗り漁業をする女性もいますし(ちなみに、フランスでは女性2人で船にのって操業している女性漁業者にも会いました)、フランスでは多くのカキ養殖業者の女性が経営面でも労働面でも深く関与しています。スペインなどでは採貝漁業は女性の重要な仕事です。

採貝漁業をする女性(スペイン)

網の修繕、延縄の餌付け、魚の販売、水揚げ金額の管理など事務仕事も含めて色々なところで女性が貢献しています。

網の修繕をする女性(スペイン)
延縄の餌付けをする女性(ポルトガル)
魚の販売をする女性(フランス)

最近では、魚食普及を目的とした水産加工品の開発も活発に行われていますし、ヨーロッパでは魚の皮は食べずに捨ててしまうことも多いので皮を有効活用しようと、アクセサリーに仕立てる取り組みも出てきています。

さらに子供たちへ漁業や環境について教える教育プログラムを考え提供している女性も増えてきています。

漁村女性は見えない存在?!

もともとはEUの3年間の研究プロジェクトで漁業者や漁村女性たち、研究者が集まり、色々な勉強会や情報交換を積み重ねていました。

その中で、海上作業や陸上作業を通じて漁業の仕事をしているのに、社会的に仕事として認められていない、つまり見えない存在であるため、ヨーロッパの漁業の女性たちは、自分たちが法的な地位も、退職年金や医療制度、産休のシステムなどにアクセスすることもできないのではと気づきました。

そこで、女性たちが、状況を改善するために動き出そうと立ち上がり、緩やかなネットワークを2006年に作ったのがAKTEAの始まりです。

AKTEAの名前は海岸を象徴するギリシャ神話の女神の名前に由来しているそうです。

色々な法的権利を漁業・養殖業に携わる女性たちも手にできるようにすること、資源管理など漁業に関する意思決定過程に女性も参加できることなどについて、色々な集まりで勉強したり、提案したり、ロビー活動をしたりしています。

法的権利へのアクセスについては少しずつ成果が出てきています。

「私の価値観を変えた」AKTEAの取り組み

飲んで、歌って、踊って、情報交換

AKTEAの総会の時には国を越えてヨーロッパの女性たちが集まり、質疑応答を活発にします。会議の後は、一緒に食べて、飲んで、歌って、踊って、情報交換の話に花が咲きます。そしてまたお互い頑張ろうね、と言い合って、それぞれの国に帰ります。

AKTEAの代表をしているマリアは

「AKTEAが私の価値観を変えた。AKTEAに出会うまで、私は自分がやっている仕事が『仕事』とは思っていなかった。
日常の中でただ過ごしていただけ。だけど、勉強会をする中で、私がやっていた『仕事』にはこんなにも価値があるのかと知ったとき、感激して涙が出て仕方が無かった。
これからの世代の漁業・養殖業に携わる女性たちも、自分たちの『仕事』に誇りをもって生きて欲しい」

と言っていました。

日本の女性たちにも伝わるメッセージだと思います。

  • 副島 久実(そえじま くみ)

    国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産大学校 水産流通経営学科 講師 大阪生まれ。鹿児島大学水産学部卒、広島大学大学院修了、博士(農学)。 OECD(国連経済協力開発機構)の研究プログラムCo-operative Research Programmeを受けてデンマークにあるオールボー大学で客員研究員をしました。その時に見聞した漁業や漁村に関わることなどを中心にご紹介します。

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