”漁業先進国”アメリカを旅する―Part1―

旅のはじまり

アメリカの漁業では、総漁獲可能量が魚種ごとに厳格に決められていて、さらに多くの漁業では個別の漁業者やその団体に漁獲枠が分配されているらしい—少し水産に詳しい方は、アメリカの漁業管理についてこのような認識を持っているかもしれません。

しかし、この認識は本当に正しいのでしょうか。

適切な総漁獲可能量を設定するためには、厳密な資源評価(調査をして水産資源や漁業の状況を把握しようとすること)が必要です。

また、個別漁獲枠管理をするためには、個別の漁業者の漁獲量を適宜監視できる体制が必要です。これらをすべての魚種・漁業で行うのはかなり大変そうです。

特に、魚種数や漁業者数が多い地域では相当のお金と時間が必要でしょう。

ニューイングランド地域

アメリカの漁業は実際にどのように管理されているんだろう?

この疑問を解決すべく、私は今回11日間かけてアメリカ東海岸のニューイングランド地域に調査に行ってきました。

ニューイングランド地域というのは、アメリカの北東部の6州を合わせた地域のことを指します。

今回私が訪問したのは、ロードアイランド州、マサチューセッツ州、メーン州です。

これらの州を南から順番に訪問し、研究者、行政官、漁業者それぞれに話を聞いてきました。

旅の相棒

クライスラー・300(筆者撮影)

まずは調査の足を確保しなくてはなりません。

あらかじめインターネットでエコノミークラス(燃費27マイル/ガロン)の車を予約しておいたのですが、レンタカー会社のカウンターに行ってみると、「I will see what I can find for you! (何があるか探してみるぜ!)」と言われ、出てきたのがこれです。

クライスラー・300(燃費22マイル/ガロン)。乗り心地は快適でしたが、やはりガソリンの飲みっぷりが豪快でした。

女性の名前が付いた漁船

ロードアイランドの底曳網漁船(筆者撮影)

ロードアイランド州に到着し、まずは漁港を散策しました。

アメリカでは船は女性として扱われ、代名詞には「she(彼女)」を用います。この漁船にもOLIVIA CATHERINEという女性らしい名前が付けられています。触角が2本(アウトリガー)あることから、この船が底曳網漁船であることが分かります。

操業するときはこれらを両側に広げて、それぞれの先端から1枚ずつ網を曳きます。日本の底曳網漁船では通常1度に1枚の網しか曳かないのとは対照的です。

州管理漁業と連邦管理漁業

Dr. Scott D. Olszewski, Deputy Chief, DEM(筆者撮影)

ロードアイランド州のDepartment of Environmental Management (DEM)で、実際に漁業管理を行っている方々に聞き取り調査を行いました。

確認された中で特に重要な点は、アメリカの漁業は沿岸3カイリ(約5.6キロメートル)以内で行われる州管理漁業と3カイリ以遠で行われる連邦管理漁業に分かれるという点です。

例えば、私たちがよく耳にするマグナソン・スティーブンス法(アメリカの漁業管理に関する基本法)というのは、連邦政府に対する法律ですので、州管理漁業には適用されません。

もしかすると、私たちがよく耳にするアメリカの漁業の話というのは、ほとんどが連邦管理漁業に関するものなのではないでしょうか。

調査は続きます。

1カイリ
1.852キロメートル
  • 阪井 裕太郎(さかい ゆうたろう)

    東京大学大学院農学生命科学研究科 農学国際専攻 国際水産開発学研究室 准教授。専門は漁業経済学。カナダのカルガリー大学経済学部で博士号を取得後、アリゾナ州立大学でビッグデータや機械学習を用いたアメリカ西海岸の漁業の研究に従事。2019年4月より現職。日本で耳にする海外の漁業管理の話題については情報が偏りがちなので、正しい情報をバランスよく発信していきたいと思います。

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