世界の漁業 魚と酒のマリアージュ ~マグロ愛は永遠に~ 2020.4.14 鳥居 享司(とりい たかし) 印刷する 世界のセレブも惹きつけるマルタの海マルタ共和国は美しく暖かな海に囲まれています。濃紺の海に魅せられ、毎年、数多くの観光客が訪れています。世界のセレブ達も自慢のクルーザーで乗り付け、美しい海を満喫しているようです。マルタ島の北部にあるコミノ島にも立派なレジャー船の姿がありました。 マグロをたずねて3000m温暖で穏やかなマルタの海は魚類養殖にも適しているようです。 マルタでは1990年ごろからスズキやヘダイの養殖がはじまりました。 2000年代に入るとクロマグロの養殖が行われるようになりました。 その後、クロマグロ養殖は順調に成長し、その生産量は約1.4万トンに達しています。マルタはヨーロッパでナンバーワンの生産国なのですよ。 マルタ人はその勤勉さゆえ、品質の優れたマグロを生産しており、非常に高く評価されているとのこと! そんなことを知ると… 食べてみたくなりますよね。 宿から500mほどの魚屋さんを覗いてみることにしました。おお、色々な魚介類が売られています。 ただ、クロマグロの姿は見えませんね。店員さんに尋ねると、「うちでは養殖マグロは置いてないよ」とのこと。 う~ん、それは残念!この日はオススメのヘダイを購入し、宿で調理しました。 どうしてもマルタ産クロマグロと出会いたい! 次に訪れたのは、宿から2.5kmほどにある繁華街・セントジュリアン。ここに人気の寿司店Club Sushiがあるのです。寿司屋にマグロが置かれていないはずはない!メニュー表を見ると、やっぱりありました。 店員さんに産地を確認するとマルタ産なのだとか。思わずニンマリ、もちろん注文しましたよ。その握りは日本で修業したというだけあり本格的なものです。 早速頂いてみますと、ほどよい脂ノリを感じられます。口の中でじゅわ~っと甘口の脂が溶け出すのが分かります。こうなると欲しくなってしまうのです、アレが。 マグロ寿司をアテに白ワインを堪能したのは言うまでもありません(ああ、またやってしまった魚と酒のマリアージュ)。 マグロ養殖場を訪れるさて、マルタ産クロマグロは美味しいことを確認すると… このマグロがどのように養殖されているのか気になってしまいます。マグロ養殖を手掛けるFish and Fishのご厚意で、出荷の様子を見学することができましたよ。 マグロ養殖場はマルタ島の北部と南部にありますが、こちらの養殖業者は南部に養殖場を構えています。港町・マルサシロックから1時間ほどの海域に、直径50mの生け簀がいくつも浮いています。 マグロ養殖の方法を簡単に説明しましょう。まず、マグロ養殖を行うにはマルタ政府の許可が必要です。許可を受けたら、定められた海域に生け簀を設置します。そして生け簀で育成するマグロを確保する必要があります。 ICCATという国際的な組織がクロマグロの管理を行っており、養殖業者は認められた範囲内でマグロを生け簀の中に入れることができます。どうやら地中海沿岸国からマグロを購入しているようですよ。 その後、3ヵ月から5ヵ月ほどクロマグロを飼育します。エサとしてニシン、サバ、イワシが用いられます。当初、100kgから200kgほどだったクロマグロは、150kgから300kgほどになります。 育成したマグロの処理は、冷凍運搬船で行われます。 まず、Fish and Fishのスタッフや取引先のバイヤー、マルタ政府やICCATの検査員の立ち会いのもと、尾数や重量などが記録されます。この記録は資源管理に役立てられるのだそうです。 なかには500kgを超えるマグロもおり、巨大な姿に圧倒されてしまいます。計量を終えたマグロは、若いインドネシア人乗船員らによってフィレーあるいはロインに処理され、マイナス60度の冷凍庫でカチンコチンに冷やされます。 日本でもマルタに出会えたよマルタ産クロマグロの大半は日本へ輸出されます。冷凍運搬船またはコンテナ船で1ヵ月から2ヵ月ほどかけて日本に運ばれます。長い航海を経て日本に到着したマグロは、スーパーや寿司店などで販売されます。 私が住んでいる鹿児島でもマルタ産クロマグロを食べることができます。鹿児島の盛り場・天文館にて営業歴63年を誇る二鶴寿司では、トロはマルタ産のものしか使わないそうです。その握りは、しつこさを感じさせないサラリとした旨味にあふれていました。どの業者のマグロだろう、お世話になったFish and Fishのものだったら嬉しいなあ。 皆さんも行きつけのお店で探してみてください、マルタ産クロマグロに出会えるかも知れません。いつもの晩酌がグレードアップすること間違いなし!? 次回は太平洋に浮かぶ小さな島国次回は太平洋に浮かぶ島国を旅します。海洋リゾートのイメージが強い某国、その「豊饒の海」では漁業も盛んに行われているのです。伝統的な集落の水産事情について紹介します。 酒世界鳥居 享司(とりい たかし)鹿児島大学水産学部准教授、NPO鹿児島おさかな倶楽部代表。 大学では、漁業経営の安定確保に向けた実証的な研究を行っています。漁業経営上の課題抽出とその緩和に向けた研究に力を注いでいます。 また、水産業界に貢献できる人材育成を目的に、ゼミ生とともに生産現場を訪れています。 近年は、国内はもとよりフィジーやマルタなど海外の漁業経営や資源管理について調査する機会にも恵まれています。 Sakanadiaでは、国内外の水産事情、それにまつわる小話などを楽しく紹介していきたいと思います。 大学を一歩離れると・・・趣味の世界が待っています。旬の魚と酒を求めた小料理屋探訪、食欲旺盛なボディを引き締めるべくジム通い、月2回の草野球、21歳を迎えた愛車との旅、一向に上達の兆しが見えないカメラ道、ほか多数。 また、旬魚の情報交換などを目的にした「鹿児島おさかな倶楽部」も主宰しています。Facebookには魚情報が盛りだくさん、是非、皆さんもご参加下さい。 鹿児島お魚倶楽部Facebookこのライターの記事をもっと読む
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