世界の漁業 小さな島の水産業~ノルウェー ヒュッソイ島~ 2019.11.14 副島 久実(そえじま くみ) 印刷する 漁業大国ノルウェーのもう一つの姿ヒュッソイ島漁業大国として有名なノルウェー。水産政策が大きく転換しつつある日本ではいつも参考とされる国だ。この国ではクォーター制が盛り込まれたことで、クォーターの価格が上昇し、多くの若者は資金に乏しいため漁業に参入することが難しくなっているという。また特にノルウェー北部には主な産業はなく漁業と数種類の加工業で生きていくしかないような小さな漁村がたくさん存在している。しかし、今のノルウェーでの水産政策や都市部集中化政策などが相まって、地域の漁業だけでなく、コミュニティそのものが崩壊してしまったケースがたくさんあり、大きな社会問題となっている。 ※クオーター制:漁獲枠を漁船ごとに割り当て、国全体の漁獲量を管理する。資源管理方法の一つ。 ノルウェーの小さな島ヒュッソイ島の船着き場そのような中、水産業と水産加工業が盛んなノルウェー北部の小さな、小さな島がある。ノルウェー北部にあるトロムソという町からバスと船を乗り継いでようやく到着できるヒュッソイ(Husøy)という島だ。20分もあれば徒歩で島を一周できるような小さなところだが、人口は285人(2017年)で安定している。新たに家を建てる人たちのために、今まさに土地を造成しているところもある。 島を支える水産業と加工業ヒュッソイ島の入り口。看板は住民たちの手作りここには島の経済の中核を担うカールセンという名前の水産加工会社がある。カールセンは地域内外の漁船が水揚げした魚の加工、サーモン養殖、サーモン種苗生産、輸出などを手掛けるほか、島でのスーパー経営も行っている。このスーパーには住民が集えるスペースが設けられていて、特にみんな用事がなくてもふらっとこのスーパーに立ち寄り、井戸端会議をしょっちゅう行っている。 カールセンが島にもたらしたものおびただしい数のタラの頭があたり一面に干してあるタラのシーズンには山ほどのタラがカールセンの水産加工場に水揚げされ、島の子供たちがタラの舌をひたすら手作業で切り落とす。タラの舌も貴重な部位で、ノルウェー人の食事の楽しみの一つだ。子供たちは自分が切った舌をカールセンに売る。子供たちはタラの舌きり作業を行うことで、子供のころから島の水産業に携わり、技能も磨く。「お金を稼ぐ」ということも学ぶ。ここでは男の子だけでなく、多くの女の子も従事している。そのきっかけを作ったのもカールセンだ。 島の人たちに親しまれるタラの舌の料理カールセンで現場責任者をしているアンさんは言う。 「この島では地元の学校を出るとみんな一度は島を出る。でも島を出て行った男の子の多くは島に戻ってきていたのに、女の子は戻ってこなかった。私たちはなぜかと考えたの。その理由の一つに、男の子は漁業という仕事が島にあったから帰って来られた。けれど、女の子には島に仕事がない。だから女の子にも仕事の機会を作らなければと考えたの。タラの舌きり仕事の経験を通じて、女の子も小さなころから水産加工の経験と技能をもつ。今ではたくさんの女性がこの会社で働いているわ。島に幼稚園があるから、お母さんだって働ける」。 今では進学などのために一度島を出た女の子たちが再び島に戻ってきてカールセンで働いたり、結婚を機に島にやってきた女性もたくさん働いている。地域に仕事があるというのはとても重要だと痛感した。 付記:アークティック大学のシリ・グラッド氏(The Arctic University of Norway, Dr.Siri Gerrard)に多大なご協力とご教示をいただいた。 この内容は、OECDのCo-operative Research Programmeの一環で行った調査成果の一部である。また、うみ・ひと・くらしフォーラム/東京水産振興会『うみ・ひと・くらし通信』Vol.12,2018.8.に加筆修正をしたものである。 クオーター制漁獲枠を漁船ごとに割り当て、国全体の漁獲量を管理する。資源管理方法の一つ。女性活躍世界副島 久実(そえじま くみ)国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産大学校 水産流通経営学科 講師 大阪生まれ。鹿児島大学水産学部卒、広島大学大学院修了、博士(農学)。 OECD(国連経済協力開発機構)の研究プログラムCo-operative Research Programmeを受けてデンマークにあるオールボー大学で客員研究員をしました。その時に見聞した漁業や漁村に関わることなどを中心にご紹介します。このライターの記事をもっと読む
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