水産業の新戦略 加工品の開発・販売で全国的にも高く評価されている秋穂女性部 2026.8.3 古江晋也(ふるえ しんや) 印刷する くるまえびの塩を製造している様子(写真提供:JF山口)瀬戸内海に面する山口市南部の秋穂(あいお)地域は、1960年代に塩田跡を利用したクルマエビの養殖事業が始まったことから、「クルマエビ養殖発祥の地」として知られています。 この地域では底曳き網漁が盛んで、クルマエビ、アカエビ、エソ、コノシロなどの魚介類が豊富に漁獲されてきました。1978年には「秋穂漁協女性部」が設立され、漁獲されたエソやコノシロをすり身に加工し、地元小学校の給食食材として提供するなど、地域に密着した活動を展開してきました。 しかし、秋穂地域の開発に伴う干潟の減少や、下水処理施設の高度化による栄養塩不足などの影響により、魚介類の漁獲量は徐々に減少しています。また、漁協の合併に伴い、女性部の名称は「JF山口吉佐支店山口支所秋穂女性部」(以下、秋穂女性部)に変更されましたが、秋穂女性部は設立当初の思いを受け継ぎ、秋穂産の魚介類にこだわった加工品の開発・販売を通じて、全国的にも高く評価されています。 秋穂女性部の皆さん(2026年5月撮影)JF山口吉佐支店山口支所職員の皆さん「もったいない」という思いからスタートした海老塩の開発秋穂地域は、アカエビが豊富に漁獲されてきたことから、底曳き網漁業者の家庭では、保存食として「海老味噌」がつくられてきました。主な材料はアカエビ、味噌、砂糖で、保存性を高めるために1時間以上、弱火でじっくりと煮詰めてつくられます。海老味噌は、ご飯にのせたり、生野菜のディップにしたりして食べるほか、お湯に溶くとエビ風味の味噌汁として楽しむことができます。秋穂女性部では、2010年代初頭に「あいおの海老味噌」を商品化し、地元のイベントなどで販売しました(「あいおの海老味噌」は2021年度開催第53回山口県水産加工展にて水産庁長官賞)。 あいおの海老味噌(写真提供:JF山口)ただ、海老味噌を調理する過程でエビからは多くの殻が出ます。これらのエビの殻は廃棄されていましたが、「新鮮なエビの殻を捨てるのはもったいない」という思いが高まったことから女性部では、アカエビの殻を活用した商品づくりに着手しました。当初は、乾燥させた殻を細かく砕いてうどんに練り込みましたが、麺が切れやすく、うまくいきませんでした。またふりかけにも挑戦しましたが、満足のいく仕上がりには至りませんでした。 その後も試行錯誤を重ねた結果、たどり着いたのが海老塩でした。海老塩は、乾燥機で1日ほど水分を飛ばした後、香ばしさを引き出すために炒り、サラサラの粉末状に加工されます。また、使用する塩についても複数の種類を取り寄せて試作を行い、女性部員で検討を重ねました。 山口市には、地域の事業者などが集まった「山口市南部地域特産品開発会議」という組織があります。秋穂女性部は、海老塩の試作品を同会議で発表し、海老塩に合う天ぷら、焼きそば、フライドポテト、市販のポテトチップスなども併せて用意しました。その結果、海老塩は高い評価を得て、地元の道の駅で販売されることになりました。「あいおの海老塩」は「日本調味料選手権2019」で入賞を果たしています。 また、2021年からは秋穂産のアカエビを使った総菜の素「秋穂のえび なんでも具~」を開発しました。この商品は、家庭でも郷土食であるアカエビを「手軽に味わうことができるように」との思いから生まれたもので、ちらし寿司、炊き込みご飯、お好み焼き、茶わん蒸しなどに利用できます。また、道の駅の来店客からは、混ぜるだけで使える手軽さが好評を得ました。 秋穂のえび なんでも具~(写真提供:JF山口)アカエビの水揚げ減少をきっかけに生まれた「くるまえびの塩」しかし、アカエビの漁獲量は2022年頃から徐々に減少するようになり、その当時は、リニューアルする地元の道の駅で海老塩の販売を計画していたことから、女性部員は対応に悩んだといいます。そうした中、山口市南部地域特産品開発会議のメンバーであり、漁業者でもある「海眺の宿あいお荘」の経営者から、地元産のクルマエビの殻を原材料として無償で提供してもらえることになりました。 アカエビからクルマエビへと原材料を変更したことで、女性部はエビの殻と塩の配合を見直すなど、レシピを再検討しました。また、商品名を「くるまえびの塩」と変えたことで、クルマエビのインパクトが際立ち、地元の新聞やテレビにとどまらず、全国紙にも取り上げられました。さらに、クルマエビの殻を活用している点が評価され、SDGsの観点からも注目されるようになりました(「くるまえびの塩」は2025年度開催、第57回山口県水産加工展にて山口県知事賞を受賞)。 くるまえびの塩(写真提供:JF山口)漁協女性部の活動は「地域に貢献することが目的」秋穂女性部が手掛けた海老味噌や海老塩などは、秋穂産の原材料にこだわってつくられています。特に「くるまえびの塩」については、「これだけ人気があるのであれば、他地域の原材料を使って生産量を増やしてはどうか」、「秋穂地区以外でも販売したらどうか」といった声が寄せられることもあるといいます。しかし、「くるまえびの塩」は、生産数量は月に100個ほどに限られているため、「道の駅あいお」、「道の駅きららあじす」、「あいお荘」と地元の3か所のみでの販売となり、購入を希望する場合は秋穂地域を訪れる必要があります。この販売スタイルについて秋穂女性部は、「地域に貢献することが目的である」、「コマーシャルベースに乗せるためにつくっているのではない」、「漁協女性部は企業ではなく、利益追求のために取り組んでいるわけではない」と話します。 海眺の宿あいお荘海洋環境の変化に対応する「フロントランナー」としての漁協女性部「海老味噌」、「あいおの海老塩」、「秋穂のえび なんでも具~」、「くるまえびの塩」に加え、地元のハモを使用した「あいおの鱧味噌」は、2021年開催の第53回山口県水産加工展で水産庁長官賞を受賞しました。このように、秋穂女性部が開発した加工品は、多くのイベントなどで高い評価を受けています。秋穂女性部の皆さんは、こうした活動を継続できた背景について、「家族の支えがあったから」と話しています。 近年、海洋環境の変化により、これまで漁獲されてきた魚介類が減少する一方で、従来はなじみのなかった魚介類が新たに水揚げされるようになっています。こうした状況の中で、限られた地域資源をどのように加工し、特産品としてブラッシュアップしていくのかは、地域経済を支えるうえでも重要な課題となっています。このような課題が全国的に広がる中、秋穂女性部の取り組みは、試行錯誤しながら優れた特産品を生み出した事例として注目されます。また、海洋環境が変化している今だからこそ、その活動は、変化に対応する「フロントランナー」としての役割を担う、かけがえのない存在であることを示しています。 レシピ漁協(JF)女性活躍ベテラン中国・四国女性部古江晋也(ふるえ しんや)株式会社農林中金総合研究所調査第二部主任研究員。 専門は地域金融機関の経営戦略の研究ですが、国産食材を生産し続ける人々と、その人々を懸命に支え続ける組織の取材も行っています。 四季折々の「旬のもの」「地のもの」を頂くということは、私たちの健康を維持するだけでなく、地域経済や伝統文化を守り続けることでもあります。 現在、輸入食材はかつてないほど増加していますが、地球温暖化や自然災害が世界的な脅威となる中、農水産物の輸入がある日突然、途絶える可能性も否定できません。 豊かな日本の国土や自然を今一度見つめ直し、今一度、農水産物の生産者や生産を支える組織の人々の声に耳を傾けたいと思います。 ▶農林中金総合研究所研究員紹介ページ 著書:『地域金融機関のCSR戦略』(2011年、新評論)このライターの記事をもっと読む
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