ニッポンさかな酒 ヴェネツィアのイカ墨&プロセッコ 文&写真:吉村喜彦 2024.4.4 吉村 喜彦(よしむら のぶひこ) 印刷する アドリア海に面したヴェネツィアは、 イカ墨パスタ発祥の地といわれている。 店によってそれぞれ味が違っていて、食べ比べてみるのも面白い。 この墨は、コウイカのもの。 イタリア語ではコウイカは「seppia(セピア)」。 あのセピア色のセピアである。 地中海沿岸では、古代からイカは食べられてきて、 イカ墨はインクとしても使われてきた。 イカ墨インクは耐光性・耐水性にすぐれ、 漬けペン用として長く使われていたそうだ。 しかし万年筆になってからは、イカ墨インクの粗い粒子が内部の詰まりの原因になって、 消えていったという。 イカ墨は粘性が高いので、 イカと同じ大きさくらいのかたまりになってしばらく消えず、 イカのダミーとして敵の目をそらす効果がある。 すなわち分身の術である。 ひるがえってタコの墨は、イカ墨ほど粘り気がないので、 水中で煙のように広がり、この煙幕効果で敵の視界をさえぎる。 同じ墨を出すにしても、使い方がちょっと違うわけである。 * * * さて。ヴェネツィアのイカ墨パスタ。 まろやかな甘みとうま味が広がり、生臭さ一切なし。 豊かな海のふくよかさが感じられる味わい。 このイカ墨に合わせるのは、プロセッコ。 ヴェネツィア近くで造られるスパークリング・ワインだ。 シャンパンのように値がはらず、カジュアルに飲めるので、 ヴェネツィアのひとたちはアペリティーボ(食前酒)として、 ふつうのワイングラスで軽く一杯やっている。 もちろん魚にも肉にもあうオールマイティなワインなので、 何を合わせるかと悩んだときはプロセッコ。 また桃のピューレで割ると、「ベリーニ」というカクテルになる。 こちらもヴェネツィアで生まれたもの。 プロセッコはいま日本でも人気。 世界でいちばん飲まれているスパークリングワインだそうだ。 春の夜。 イカ墨スパゲティやイカ墨リゾットに合わせて、みてはいかが? 文&写真:吉村喜彦 酒世界吉村 喜彦(よしむら のぶひこ)1954年大阪生まれ。京都大学教育学部卒業。サントリー宣伝部勤務を経て作家に。 著書に、小説『バー堂島』『バー・リバーサイド』『二子玉川物語』『酒の神さま』(ハルキ文庫) 『ビア・ボーイ』『こぼん』(新潮社、PHP文芸文庫)『ウイスキー・ボーイ』(PHP文芸文庫) ノンフィクションでは、『漁師になろうよ』『リキュール&スピリッツ通の本』(ともに小学館) 『マスター。ウイスキーください〜日本列島バーの旅』(コモンズ)『オキナワ海人日和』(三省堂) 『食べる、飲む、聞く 〜沖縄・美味の島』(光文社新書)『ヤポネシアちゃんぷるー』(アスペクト)など多数。 NHK-FMの人気番組「音楽遊覧飛行〜食と音楽でめぐる地球の旅」の構成・選曲・DJを長年つとめた。 現在、月刊「地域人」で全国の漁師を取材する「港町ブルース」を連載中。このライターの記事をもっと読む
四倉ホッキ貝と磐城壽 文&写真:吉村喜彦、写真:いわき市漁業協同組合(一部提供) 福島県いわき市は、ホッキ貝の名産地だと最近知った。 太平洋に面した四倉(よつくら)漁港で揚がるホッキ貝は絶品なのだという。 四倉では戦前から戦後にかけてホッキ貝漁が盛んにおこなわれていたそうだが2023.6.29ニッポンさかな酒吉村 喜彦(よしむら のぶひこ)
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