「厚岸ウイスキーと牡蠣」  文&写真:吉村喜彦

釧路空港から車で1時間。
厚岸(あっけし)は人口8000あまりの小さな町である。

ウイスキー蒸留所ができ、透明なウイスキー原酒がはじめて滴ったのは
10年前、2016年の秋のこと。

もともとスコットランドのアイラ島のモルトウイスキーに憧れて造りはじめた。

製品を市場に出しはじめた頃(2018年)に飲んだ厚岸ウイスキーは、
たいへんスモーキーな味わいだった。

それから8年経ち、
熟成したウイスキーはどんな感じになっているんだろうと、厚岸を訪ねた。

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浜にさざ波が打ち寄せると、
エゾシカの親子が民家の庭で、のっそりと顔をあげる。

小高い丘の上にAKKESHI と書かれた白い建物が見えてきた。

淡い空の下、蒸留所と貯蔵庫が静謐なたたずまいを見せている。

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厚岸の風光は、スコットランドと似ている。
冷涼な気候。
海のそばの湿地帯。
ピートがふんだんにある。

冬はマイナス20℃。
夏は25℃。
大きな寒暖差がウイスキーの熟成を早める。

夏には海霧がかかり、しっとりした海の香りを運んでくる。

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厚岸ウイスキーでは現在5000樽以上を貯蔵。
ブレンドも試行錯誤をかさね、200以上の製品を世に送り出してきた。
コンペティションでの受賞も多い。

熟成樽は4タイプ。バーボン、シェリー、ワイン、ミズナラ。
なかでもミズナラ樽は、厚岸ウイスキーの「うまみ」=「だし感覚」を生みだしている。

蒸留所近くでとれるピートの燻香もほどよい。
琥珀色の液体には、潮風で育った塩気のなかに、
上品な「甘み」やドライフルーツのような果実味がある。

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厚岸は、牡蠣で有名だ。
夏でも海水温が低いため、一年中生食できる。
「カキえもん」というブランドは
シングルシード方式という養殖技術で育てあげた名品。

生まれたときから一粒ずつ丁寧に籠の中で育てられ、
カップが深く、殻がきれいで実入りがいい。
小ぶりだけれど、凝縮されたコクと甘みがある。

厚岸の牡蠣に、厚岸ウイスキーはとても合っている。

塩っぽいが、ふくよかな甘みのあるウイスキーは、
牡蠣のうま味を存分に引き出してくれる。
厚岸のテロワールが生んだこの組み合わせは絶品だ。

厚岸でしか売っていないウイスキー「牡蠣の子守唄」というブランドがある。
この酒を炭酸水で割って、牡蠣とともに食す。

ただ、それだけのために、厚岸を訪れる価値はあるんじゃないかな。

文&写真:吉村喜彦

  • 吉村 喜彦(よしむら のぶひこ)

    1954年大阪生まれ。京都大学教育学部卒業。サントリー宣伝部勤務を経て作家に。 著書に、小説『バー堂島』『バー・リバーサイド』『二子玉川物語』『酒の神さま』(ハルキ文庫) 『ビア・ボーイ』『こぼん』(新潮社、PHP文芸文庫)『ウイスキー・ボーイ』(PHP文芸文庫) ノンフィクションでは、『漁師になろうよ』『リキュール&スピリッツ通の本』(ともに小学館) 『マスター。ウイスキーください〜日本列島バーの旅』(コモンズ)『オキナワ海人日和』(三省堂) 『食べる、飲む、聞く 〜沖縄・美味の島』(光文社新書)『ヤポネシアちゃんぷるー』(アスペクト)など多数。 NHK-FMの人気番組「音楽遊覧飛行〜食と音楽でめぐる地球の旅」の構成・選曲・DJを長年つとめた。 現在、月刊「地域人」で全国の漁師を取材する「港町ブルース」を連載中。

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