ニッポンさかな酒 「厚岸ウイスキーと牡蠣」 文&写真:吉村喜彦 2026.1.29 吉村 喜彦(よしむら のぶひこ) 印刷する 釧路空港から車で1時間。 厚岸(あっけし)は人口8000あまりの小さな町である。 ウイスキー蒸留所ができ、透明なウイスキー原酒がはじめて滴ったのは 10年前、2016年の秋のこと。 もともとスコットランドのアイラ島のモルトウイスキーに憧れて造りはじめた。 製品を市場に出しはじめた頃(2018年)に飲んだ厚岸ウイスキーは、 たいへんスモーキーな味わいだった。 それから8年経ち、 熟成したウイスキーはどんな感じになっているんだろうと、厚岸を訪ねた。 * * * 浜にさざ波が打ち寄せると、 エゾシカの親子が民家の庭で、のっそりと顔をあげる。 小高い丘の上にAKKESHI と書かれた白い建物が見えてきた。 淡い空の下、蒸留所と貯蔵庫が静謐なたたずまいを見せている。 * * * 厚岸の風光は、スコットランドと似ている。 冷涼な気候。 海のそばの湿地帯。 ピートがふんだんにある。 冬はマイナス20℃。 夏は25℃。 大きな寒暖差がウイスキーの熟成を早める。 夏には海霧がかかり、しっとりした海の香りを運んでくる。 * * * 厚岸ウイスキーでは現在5000樽以上を貯蔵。 ブレンドも試行錯誤をかさね、200以上の製品を世に送り出してきた。 コンペティションでの受賞も多い。 熟成樽は4タイプ。バーボン、シェリー、ワイン、ミズナラ。 なかでもミズナラ樽は、厚岸ウイスキーの「うまみ」=「だし感覚」を生みだしている。 蒸留所近くでとれるピートの燻香もほどよい。 琥珀色の液体には、潮風で育った塩気のなかに、 上品な「甘み」やドライフルーツのような果実味がある。 * * * 厚岸は、牡蠣で有名だ。 夏でも海水温が低いため、一年中生食できる。 「カキえもん」というブランドは シングルシード方式という養殖技術で育てあげた名品。 生まれたときから一粒ずつ丁寧に籠の中で育てられ、 カップが深く、殻がきれいで実入りがいい。 小ぶりだけれど、凝縮されたコクと甘みがある。 厚岸の牡蠣に、厚岸ウイスキーはとても合っている。 塩っぽいが、ふくよかな甘みのあるウイスキーは、 牡蠣のうま味を存分に引き出してくれる。 厚岸のテロワールが生んだこの組み合わせは絶品だ。 厚岸でしか売っていないウイスキー「牡蠣の子守唄」というブランドがある。 この酒を炭酸水で割って、牡蠣とともに食す。 ただ、それだけのために、厚岸を訪れる価値はあるんじゃないかな。 文&写真:吉村喜彦 漁協(JF)酒北海道吉村 喜彦(よしむら のぶひこ)1954年大阪生まれ。京都大学教育学部卒業。サントリー宣伝部勤務を経て作家に。 著書に、小説『バー堂島』『バー・リバーサイド』『二子玉川物語』『酒の神さま』(ハルキ文庫) 『ビア・ボーイ』『こぼん』(新潮社、PHP文芸文庫)『ウイスキー・ボーイ』(PHP文芸文庫) ノンフィクションでは、『漁師になろうよ』『リキュール&スピリッツ通の本』(ともに小学館) 『マスター。ウイスキーください〜日本列島バーの旅』(コモンズ)『オキナワ海人日和』(三省堂) 『食べる、飲む、聞く 〜沖縄・美味の島』(光文社新書)『ヤポネシアちゃんぷるー』(アスペクト)など多数。 NHK-FMの人気番組「音楽遊覧飛行〜食と音楽でめぐる地球の旅」の構成・選曲・DJを長年つとめた。 現在、月刊「地域人」で全国の漁師を取材する「港町ブルース」を連載中。このライターの記事をもっと読む
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