日本の漁師たち 伝統のシロエビ漁でガッチリ稼ぐ【後編】“漁師嫌い”から親方へ 2019.11.14 JF全漁連編集部 印刷する 「子どものころは漁師がきらいだった」頼もしい親方としての野口さんの姿からは想像できない言葉だったが、子どものころは漁師になりたいと一度も思ったことがなかったという。潮の臭さや、魚しか出ない食卓、休みの日まで網仕事をする几帳面な父の姿。その上父はいつも「海の怖さ」を野口さんに話した。それでも「地元は好き」という野口さん。「原風景は内川沿いの家の前に親父の船が入ってくるところ」と目を細めた。 幼少時代を振り返る野口さん、漁協の会議室で高校時代は大好きな野球に没頭した。推薦で京都の立命館大学に入学。卒業をしたら富山に帰ることを父と約束し、大学に進学した。 父は後を継いでほしいと言ったことがなかったが、「漁師の息子なら船ぐらい動かせたほうがいいんじゃないか」と促され野口さんは大学在学中に船舶免許を取った。「もしかしたらうまいこと誘導されたのかもしれない」と野口さんは笑う。 周りの船と無線で会話をしながら、整然としたブリッジで大学卒業後は約束通り富山に戻り、地元の製造会社の営業職に就いた。ところが自ら手を挙げ、愛知の営業所に転勤し、同時に大学の同級生だった女性と結婚。「若い頃って都会で暮らしたいでしょ(笑)」と20代のサラリーマン時代を振り返る。 家業を継ごうと再び地元に戻ったのは30歳の時。入退院を繰り返す父の体調や乗組員の生活を考えると、いずれ誰かが継がなければいけないのではないかと、学生の頃からぼんやりとは考えていたが、30歳という節目に踏ん切りをつけた。 野口さんの独り立ちとともに新造した「正㐂丸(しょうきまる)」最年少の親方として独り立ち30歳から約7年間は、親方をする父と一緒に乗組員として漁業に従事した。38歳の時、ちょうど今の正㐂丸を新造しているときに父の体調が悪化し、独り立ちの時は突然訪れた。当時のシロエビ漁家の中で最年少の親方となった。「実際に親父に指導してもらい、親方として船を動かす練習は1カ月ぐらいしかできなかった」。“やってはいけないこと”を覚えるので精いっぱいだったという。「ちょっとした変化に気付いてほしい」という父の言葉が頭に残る。父は結局新しい正㐂丸には一度も乗れなかった。 作業をしながら笑顔で仲間と会話をする野口さん「自分で考えるようになって初めて漁師だ」と野口さん。父が亡くなり頼る人がいなくなってからは、分からないことがあると、とにかく自分でどうにかしなければならなかった。最初のころは網を入れて揚げるだけで精いっぱいだったという。ほとんど経験がなかった底引き網漁は、仲間の船に乗せてもらい一から教えてもらった。先輩と飲んでいて漁の話になると、こっそり携帯にメモをとったこともある。常に笑顔で話す野口さんは「みんなにかわいがってもらっている。親父はこんな感じじゃなかったけど」と話す。 一年一年積み上げてきた技術と、サラリーマン時代に磨いたコミュニケーション力で自分なりの正㐂丸を作り上げてきた。 資源保護のため、この日2回目は出漁せず 荷捌き場のホワイトボード水揚げも技術も仲間とシェアする「プール制」プール制を導入しているJF新湊のシロエビ漁は、5隻ずつ2班に分かれ一日おきに漁を行う。全体の水揚げ量を調整しながら、水揚げ金額をプールし、各船に均等に配分する仕組みだ。昔からこの方法で過度な漁獲競争を抑え、資源を維持してきた。「資源管理をするためにプール制はメリットが多い」と野口さんは言う。安定した漁獲に加え、ブランド化が功を奏し、今やシロエビ漁は地域でも有数の稼ぎだ。「今日たくさん捕れても、網一回分で終わらせる」。浜値の安定と、持続的な資源の利用を考え、網入れ回数も制限している。 野口さんの口から何度も「仲間だから」という言葉が出た。まさに野口さんが一番つらかったという独り立ちの時も「仲間」が助けてくれた。水揚げもコストもシェアし合うプール制の波及効果だ。 野口さんの父をはじめ、先代の漁師たちが苦労して築いてきたこの仕組みが、知識と技術を漸進させ、今も若い漁師たちを浜にとどめているのだろう。 富山県の漁協青年部の団体で代表者に再任まだまだ勉強!2018年度から全国漁青連の役員になり、日本全国の若手漁師たちと交流を持つようになった野口さんは、各地の青年部がさまざまな活動をしていることを知った。「とても刺激になるし、勉強にもなる」と限られた漁の合間で東京に集まる全国漁青連の仲間たちとの時間を振り返る。 仲間の活動を知ったことで、「魚を捕る」ことだけを考えていてはだめだと思った。特に、富山湾でシロエビを捕る漁師として、資源管理は自分たち自身がしっかりとやっていかなければならないと感じている。「いいものを捕らせてもらっている。でも、海の環境しだいで一気に変わるかもしれない」。漁が安定している今だからこそ、富山湾のシロエビ漁の将来をみんなで考えていきたいと野口さんは将来を見据える。 全国漁青連の役員として、東京の研修会でもリーダーシップを発揮野口さんが部長を務めるJF新湊青年部は年に一回開催される海鮮祭で、仲買の青年部たちと協力し水産物の販売を行っている。また、JAの青年部との連携も始まっているという。まさに漁業が地域を支える新湊で、野口さんは若手のリーダーとして地域をけん引している。 人当たりがよく社交的な野口さんだが、「漁の腕前も、まだまだ磨きたい。人ができることを自分ができないと悔しいでしょ」と、雄々しい漁師の一面も印象的だった。 JF新湊のシロエビはここで食べられます! JF新湊女性部食堂 漁師若手資源管理浜プランプライドフィッシュ北陸中堅青年部JF全漁連編集部漁師の団体JF(漁業協同組合)の全国組織として、日本各地のかっこいい漁師、漁村で働く人々、美味しいお魚を皆様にご紹介します。 地域産業としての成功事例や、地域リーダーの言葉から、ビジネスにも役立つ話題も提供します。 SakanadiaFacebookこのライターの記事をもっと読む 伝統のシロエビ漁でガッチリ稼ぐ【前編】富山湾のUターン漁師2019.11.14 伝統のシロエビ漁でガッチリ稼ぐ【後編】“漁師嫌い”から親方へ2019.11.14
【漁業×農業】JF全国漁青連がJA全青協とWEB交流会漁業協同組合青年部の全国団体であるJF全国漁青連は8月26日、農業協同組合青年部の全国団体である全国農協青年組織協議会(JA全青協)とWEB交流会を開催しました。 この交流会は、「一次産業の生産者とし2021.9.7日本の漁師たちJF全漁連編集部
漁村女性の活躍へ! 「第23回 JF全国女性連フレッシュ・ミズ・プログラム」開催JF全漁連は11月22日、「第23回JF全国女性連フレッシュ・ミズ・プログラム」をオンライン開催しました(共催:JF全国女性連)。 このプログラムは、漁協女性部員および若手の漁村女性が将来の女性部活動2022.12.13日本の漁師たちJF全漁連編集部
第22回JF全国女性連フレッシュ・ミズ・プログラムをオンライン開催JF全漁連は11月5日、「第22回JF全国女性連フレッシュ・ミズ・プログラム」をオンライン開催しました(共催:JF全国女性連)。 JF全国女性連は、漁村女性の地位向上を目指した活動を展開している漁協(2021.12.10日本の漁師たちJF全漁連編集部
長崎のポジティブ漁師、明日の漁業を照らす長崎県長崎市野母(のも)半島で定置網を経営する平山孝文さん(46歳)。浜に出ると、地域の人たちが笑顔で話し掛けてくる。水揚げが終わり、陸に上がると「よく働くなぁ」と先輩たちが寄ってくる。 人生の先輩方2020.3.12日本の漁師たちJF全漁連編集部
JF全国漁青連が日本文化を学ぶカルチャースクールで魚食普及 —富山湾のシロエビ漁と漁師文化を発信—JF全国漁青連 理事の野口和宏さんは10月24日、日本の過去から今を体系的に学ぶカルチャースクール「令和アカデミー俱楽部」の講座で、地元富山湾の漁業や文化を紹介しました。 講座には、令和アカデミー俱楽2021.11.12日本の漁師たちJF全漁連編集部
JF全国漁青連がオンライン子ども大学「こどハピ」で出前授業JF全国漁青連は10月31日、11月14日、27日の全3回、株式会社シンシアージュが運営するオンライン子ども大学「こどハピ」で、全国の小学生を対象にオンライン出前授業を実施しました。 講師をつとめたの2021.12.17日本の漁師たちJF全漁連編集部