「JFシェルナース」によるクエの集魚効果レポート ―JF長崎漁連の取り組み―

JFシェルナース「放流保護育成礁 」(幅1.0m、奥行1.65m、礁高0.73m)

このコラムは、長崎県漁業協同組合連合会(JF長崎漁連)の広報誌『漁連だより』に掲載された、貝殻魚礁「JFシェルナース」設置によるクエの集魚効果についてのレポートです。

― JFシェルナースとは ―
環境に配慮した貝殻リサイクル魚礁のこと。目的や環境などに合わせて組み合わせることができ、バリエーションが豊富。
貝類養殖の副産物であるカキやホタテの貝殻を基質パイプに使用し、貝殻の重なりによって多数の小空間が形成されることで、エビ・カニなどの餌生物や幼稚魚の棲み処を創り出しています。「海のものを海に戻す」ことでリサイクルを実現しているだけでなく、各地の漁業者が基質パイプの製作に携わることで、豊かな海づくりに参画しています。

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放流種苗の受け皿としての活用事例

●「貝藻くん」「保護育成ユニット」の効果●

長崎県対馬市美津島町の漁港内浮桟橋直下では、2016年から継続して、クエの放流種苗の受け皿としてJFシェルナースの「貝藻くん」や保護育成ユニットが設置されています。

2022年12月、クエ種苗の放流が行われた14日後に潜水観察すると、クエ種苗が「貝藻くん」の内部や周囲、保護育成ユニット内の貝殻基質の間に隠れ、多くの種苗が残っている様子が確認できました。

「貝藻くん」の隙間に隠れるクエ種苗

もともと浮桟橋直下には影ができるので、魚を集める効果があります。

浮桟橋などの漁港施設に「貝藻くん」などを組み合わせたことにより、クエ種苗への保護育成効果が一層高まったものと考えられました。

●JFシェルナース「放流保護育成礁」の開発●

クエ種苗の放流用の受け皿礁として以前から開発していたJFシェルナース「放流保護育成礁」の実証試験が終了し、製品の販売を開始しました。2019年度から3年間、水槽実験や長崎県内でのフィールド実験から得た技術の集大成です。

初めて自然界に放たれるクエ種苗は、「放流保護育成礁」の近くでは素早く礁内へ隠れようとする(※)ので、外敵に襲われるリスクを軽減することが期待できます。

※放流直後の様子は以下の動画をご覧ください。放流保護育成礁に逃げ込むクエ種苗の様子が確認できます

また、「放流保護育成礁」にはエビ類やカニ類などが多く増殖する貝殻基質を使用しているので、人工飼料で育ってきたクエ種苗が天然の餌料動物を利用しやすくなります。

この「放流保護育成礁」には、幅1m・奥行1.6m・高さ0.7m・重量450kgの小型の礁もあるので、漁業者自ら漁船クレーンで設置が可能です。

長崎県内では離島漁業再生支援交付金事業を活用し、新上五島町や対馬市で採用されています。

クエ幼魚の集魚事例

JFシェルナース「プラス1.0型」(以下、保護礁)は、長崎県の県営事業の増殖礁として浅場で活用されています。

潜水調査をすると、保護礁周辺には全長20~40cm程度のクエ幼魚が確認できました。ダイバーが近づくと、クエ幼魚は珍奇な生物を警戒しているのか、一定の距離を保ってこちらの様子を伺う行動がよくみられます。

クエ幼魚が保護礁にすみ着けば、成長したクロメなどの海藻に近づくアイゴやイスズミに対しての抑制効果も期待できるかもしれません。

成長したクロメ種苗
クエ幼魚

クエ成魚の集魚事例

JFシェルナースは、長崎県の県営事業や対馬市事業の魚礁として、沖合に設置されています。

長崎県西海市崎戸江ノ島南沖合の水深70mのJFシェルナース「6.0型」や、長崎県対馬市上県町佐護地先の水深716mに設置されたJFシェルナース「10.0型」には、全長60~120cmのクエ複数尾が魚礁内部や周囲を遊泳していました。

このような大型のクエが繁殖期に集まり雌雄が遭遇する機会が増えることにより、JFシェルナースは産卵場としての効果も期待できます。

シェルナース6.0型で確認された大型のクエ (西海市崎戸江ノ島)

今後も水産資源を増やす技術を磨き、様々なご要望に応じた取り組みを提案していきたいと考えています。

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