日本の漁師たち 大阪からのⅠターン漁師・中井恭佑さんの挑戦(三重県尾鷲市早田町) 2019.12.4 JF全漁連編集部 印刷する 大型定置網の水揚げ(提供:早田大敷)大雨が降った翌朝の三重県尾鷲市早田(はいだ)漁港。朝日を背に受けてひとりの漁師が歩いてきた。人口122人(2019年10月現在)の早田町にある株式会社「早田大敷(はいだおおしき)」の漁労長、中井恭佑さん(31歳)だ。大阪府吹田市の高校を卒業して単身、早田に移住した。 早田で毎年行われる例大祭では、船上神楽や大漁祈願が行われる大阪から尾鷲へⅠターン著しい人口の減少で地域の存在が危ぶまれる早田町は、漁業が唯一の産業であり、JF三重外湾尾鷲事業所早田事務所の購買部がたったひとつの小売店という地域だ。水産資源に恵まれた早田町の漁業をなくしてはならないと、市やJF(漁協)が三重大学と協力し漁業体験教室を、そして三重県とJF三重漁連協力で長期に研修できる漁師塾を開いた。 将来の道を模索していた中井さんが、タイミングよく見つけたのが漁業体験教室だった。早田、梶賀と体験し早田に戻ってきた中井さんは移住を決意し、21歳で早田大敷に入った。 大都市・大阪からIターンしてきた中井恭佑さん(31歳)「自然を相手にする仕事がしたかった。それも大阪近辺で」と語りだす中井さん。「将来的には漁師になりたかった」のだという。 漁業体験は日本各地で開かれているが、実際に移住して地域に定着するのは難しい。悩む地域が多い中で、早田大敷では今や17人の従業員の中で10人が外部からの参入というから驚きだ。中井さんが定着できたのは「僕はタイミングと、人との出会いに恵まれていた」から。受け入れ側が真剣かつ親身になって対応した。 早田では空き家をきれいに清掃し、生活備品まで集めてきて、新規参入者に提供する。独身男性でも、近隣の住民らが「多めに作ったから」と食事を持ってきてくれる。そこで研修を重ね、独り立ちできるようになったら、新たな住居に移る仕組みだ。 中井さんも25歳で結婚し、紀北町に居を構えた。今や一男二女のお父さんで、休日は「子どもたちと過ごすのがすごく楽しい」とにっこり。 沖が荒れている朝、大敷のみんなで定置網を繕う29歳の若さで漁労長になる早田大敷は、JFと地域住民が出資し大型定置網を株式会社化した。定年制を敷き、定年退職した漁業者は、早田大敷の網を繕ったり、小型刺し網漁業などで生活できる。小さな集落でありながら、そこに暮らす漁業者たちのことをしっかりとサポートしている。 21歳で漁師になった中井さんも「移住や仕事への不安はなかった。毎日が楽しくて仕方がなかった」と頬をほころばす。着実に知識と技術を積み重ね、29歳という若さで漁労長になった。大敷の漁業者のほとんどが年上の人ばかりで「確かに周囲からの反発もあった。でも蓄えた知識とコミュニケーションで乗り越えられた」と振り返る。 携帯端末で動画をチェックする中井さん漁労長になってまもなく、はこだて未来大学の協力のもと、ユビキタスを導入した。定置網2カ所に魚探と発信装置を装着し、24時間リアルタイムで網の中の様子が把握できる。これにより、出漁のタイミングや出荷調整が可能となった。氷の無駄使いもなくなったという。ただし初期費用は600万円、メンテナンスも費用がかかるため、コスト増が課題となっている。 さらに取り組んだのが情報発信だ。Facebookで日々の漁模様を発信する。スマートフォンや携帯端末タブレット、水中ドローンを駆使し、さくさくと動画をアップする姿は、まさに新世代の漁師像だ。 ブランド化された早田のサバ(提供:早田大敷)「意識改革」と「持続可能」早田の春の訪れはブリ。大敷にかかる天然ブリは、中井さんたちの手によってブランド化された。船上で活締めされたブリは、特製のラベルが貼られて尾鷲港へ水揚げされ、その日のうちに流通される。脂がほどよくのったブリは、尾鷲では捨てるところがないほど様々な食べ方で消費されている。 今年の初夏、異常に小型のブリが定置網にかかった。もともと定置網の網目は大きくしていたのだが、成魚とともに小型魚が大量に揚がってしまった。全体の魚価も下落した。「養殖の餌になるくらいなら、放流しよう」――そう決めた中井さんたちは、傷がないか一匹ずつ選別して海へ放った。その量は1トン以上だったという。それでも「大きくなって帰ってこいよ」と続けた。 放流の様子も動画にしてFacebookで発信したところ、大きな反響があったそうだ。小型魚の放流が漁業者たちの意識改革へとつながった。「早田の漁業を持続可能に」。いつしか漁業者たちの心にしっかりと植え付けられていた。 株式会社早田大敷Facebook Iターン・Uターン漁師若手資源管理近畿定置網JF全漁連編集部漁師の団体JF(漁業協同組合)の全国組織として、日本各地のかっこいい漁師、漁村で働く人々、美味しいお魚を皆様にご紹介します。 地域産業としての成功事例や、地域リーダーの言葉から、ビジネスにも役立つ話題も提供します。 SakanadiaFacebookこのライターの記事をもっと読む
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「漁師になりたい小学生」からの質問に、現役漁師さんが回答!JF全国漁青連(若手漁師を中心とした漁協青年部の全国団体)では毎年、東京・練馬区立春日小学校で出前授業を行っています。 ▶若手漁師が東京・練馬区立春日小学校で出前授業 ▶JF全国漁青連が東京・練馬区立2022.12.21日本の漁師たちJF全漁連編集部