長崎のポジティブ漁師、明日の漁業を照らす

平山水産社長、JF全国漁青連会長理事 平山孝文さん

平山孝文さん

長崎県長崎市野母(のも)半島で定置網を経営する平山孝文さん(46歳)。浜に出ると、地域の人たちが笑顔で話し掛けてくる。水揚げが終わり、陸に上がると「よく働くなぁ」と先輩たちが寄ってくる。
人生の先輩方をうならせる平山さんの仕事ぶりは、本当によく考えよく試す。早朝から昼前にかけて2統の定置の水揚げをし、地元の直売所や長崎魚市場へと、魚の量や種類によって出荷先を選ぶ。たくさん試してきた彼は、「今が一番稼いでいる」という。

広い海で丁寧な仕事

いけすに移し出荷調整を行う平山さん

朝6時、JF 野母崎三和蚊焼事業所の船着き場で黙々と出漁の準備をする平山さん。穏やかな所作で淡々と作業を進め、1つ目の定置の水揚げに船を走らせる。

平山さんは長崎の野母半島沿岸で2つの小型定置を経営している。普段は兄と2人で操業し、父と母が加工を手掛け地元の直売所にも出荷している。

全長300メートルほどの定置網の箱網を人力で手繰り寄せ、タモですくい上げる、結構な重労働だ。タモで魚をすくい上げながら、活魚槽に入れる魚、すぐに氷締めする魚を瞬時に選別する。

「たくさん入ったときはこんなに丁寧にできないんだけどね」と平山さんは笑うが、作業中の表情からは、常に何か考えながら手を動かしているのが分かる。

定置に集中し付加価値向上

丁寧に神経締めを行う平山さん

数年前まで、カワハギの養殖など小型定置のほかにも色々な漁業に挑戦していたが、4年前に小型定置のみに絞った。

「定置に集中したことで、魚をより高く売るために時間をかけられるようになった」と平山さん。出漁前から市場や流通関係者と小まめに連絡を取り、その日の需要に合わせて魚の出荷方法や出荷先を検討する。

印象的なのは常に穏やかな動きと口調。大自然に真摯に向き合う漁師の姿と、経営者としての冷静さを併せ持つ。

ヒモだった20代、キャラが助ける経営

平山さんのまわりに自然と人の輪が

そんな平山さんだが、高校を出てすぐに海に出たのではない。「ヒモだったこともあるんよね」と照れ笑いする。

高校卒業後、28歳で漁業に就業するまで、実に多様な職を経験している。地元でサラリーマンだったこともあれば、客船の船長もやった。合間にちょっとだけ父の漁を手伝いながら、飲み屋のオーナーもやったし、東京でヒモもやった。「コミュニケーション力は飲み屋で鍛えられたのかな」と平山さんは笑う。

東京にいるとき、体調を崩したことがきっかけで地元に帰った。次の仕事が見つかるまでと、父のもとで漁業を手伝い始めたという。

代替わりが転換点

網を揚げる平山さん

「嫌々だった。親父が厳しくて」。父が経営者の間は、あまり漁業にやりがいを感じていなかったというが、35歳、結婚を機に父から経営を譲り受けると、その魅力に気付く。

「何をするにも自分の責任だけど、全部自分で決められる。やる気が出た。こういうプレッシャーが欲しかったのかもしれない」と転換点を振り返る。

今では父、母、兄を従業員とし、平山水産を引っ張る。平山さんは「今は楽しくてしょうがない!今が一番ピークかも」と充実した笑みを浮かべる。

父・久米雄さん、母・ヤス子さん

経営者となった今では、脱サラし一代で平山水産を築いた父・久米雄さんを心から尊敬しているという。「あの人は本当にすごい。絶対まねはできないけど」と父への思いを語る。父が初めて小型定置を始めた時に買った中古船を、大切に引継ぎ今でも使っている。

「これだけはなかなか捨てられんのよね」。

“人たらし”が経営のカギ

長崎の青年部仲間たちと

平山さんは高校生のころから目立ちたがりで、在学中にタレントとしてローカル番組に出ていたこともある。誰にでも笑顔で話しかけ、地元のコンビニの店員さんとも仲良しになってしまう。

「人が大好きなんよ〜」と、その持ち前の明るさと社交性で、地元JFの青年部、県漁青連、全国漁青連、さらには異業種へと、どんどんつながりを広げていった。

「いろんな人とつながっていることが、結果的に自分の経営を助けてくれている」。最近では、自身の定置に入る未利用魚の販路を、そのつながりから開拓しているという。

“野母崎では売れなくても他の地域では需要がある”という情報も、それを運ぶための流通ルートも青年部仲間との情報交換で確保した。

「その代わり、自分が仲間に相談されたら、一生懸命情報を集めて考えて答える」という。そんな実直さが、みんなを引き付けるのだろう。

地域のリーダー、全国のリーダーに

仲間に呼びかける平山さん

平山さんは、地元青年部の部長を務めながら、県漁青連会長(2019年6月まで、以後顧問)、全国漁青連会長を務める。彼を知る青年部仲間たちは声をそろえて「とにかく明るい会長だ」という。

このほど開催した全国漁青連通常総会では、「“プラス思考で漁業を楽しく!”〜広い視野で革新的な未来の漁業へ〜」とのスローガンを打ち出し、「業界内外に仲間を増やして、前向きな漁業の姿を発信しよう」と呼び掛けた。

まさにその言葉の通り、平山さんが率いる全国漁青連の現役員11人は、会議や懇親会のたびに、よく話し、よく笑い、10年後、20年後を見据えた議論をする。「お前のところはどうやって神経締めしてる?」「どんな道具を使ってる?」「最近うちではこんな魚が捕れるようになったぞ」など、惜しみなく情報を交換し合う。

日本全国に仲間がいること

ブラッシュアップ研修で意見を出し合う

昨年6月、全国の青年漁業者約70人が参加する全国漁青連主催の研修会(「青年漁業者のためのブラッシュアップ研修」)では、平山さんの提案で、環境変化や自然災害について情報交換を行った。「みんな地元で困っていることや、こんな対策をしてるなど、教え合おう」と呼び掛けたその研修では、たくさんの意見が飛び交った。

グループディスカッションで情報交換

平山さんは、「みんな青年部に入ってほしい。そして、他地域の青年部ともちゃんと交流してほしい」と常々思っているという。

「やっぱり人脈、人とのつながりが一番大切。すぐには実感しないかもしれないけど、思わぬところで、いつか俺みたいに経営を助けられるかもしれない」。

漁師平山孝文の経営力を支えるその“キャラ”が、これからの漁業に対する期待感を高める。

  • JF全漁連編集部

    漁師の団体JF(漁業協同組合)の全国組織として、日本各地のかっこいい漁師、漁村で働く人々、美味しいお魚を皆様にご紹介します。 地域産業としての成功事例や、地域リーダーの言葉から、ビジネスにも役立つ話題も提供します。 SakanadiaFacebook

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